7話 そんなのそっちの都合でしょうが
「早いところ、俺の退学手続きを始めてくれ」
すっかり固まってしまっていたルミアに対して、もう一度言葉を投げかけた。
俺がここに来た目的は、早いところこんな学園から去ってしまうことだ。
予想外の出来事に足止めを食らってしまったが、もうどうでもいい。
はやいところ、コレットからの追跡を逃れたいんだ。
「な、なにを言っているのでしょう、ユーマ様……?」
ルミアは明らかにこわばった表情になってしまっていた。
手もプルプルと震えてしまっている。
さっきまでのこいつと同じ人物だとはとても思えない。
「だから、俺は退学するためにこの部屋にやって来たんだ。そうだろう? 早く手続きを再開してくれよ」
「いえ、いえいえいえいえ。今更なにを言っているのですか」
ルミアが激しく首を横に振る。
何を言っているのか、とはこっちの台詞なのだが。
「せっかく黒魔導士の才能を持っているのに、この学園に残らないなんてありえません! ぜひともこの学園でその才能を開花させるべきです!」
ああ、なるほど。
目のまえに現れた才能持ちを、学園側としては手放したくないという訳か。
そう言えば、唯一の才能とか何とか云ってたもんな。
でも……
「やめておくよ」
「え?」
「俺は才能とかそういうのはどうでもいいんだ。俺は早くあの勇者から距離を置きたいんだ。ここにいたらそれも叶わないだろうが」
「そんな……」
ルミアの目にどんどん涙が浮かんでくる。
焦りとどうしようもない気持ちがごちゃ混ぜになってしまっているのだろう。
たしかに、目の前でやすやすと才能持ちを逃したなんてことが知れたら、彼女だけでなく、学園の信頼にもつながってしまうのだろう。
しかし、そこで流されるわけにはいかない。
そういう、誰かのため、世界のためにという名目のもと、これまでさんざん痛い目を見てきた。
こっちにだってこれからの生活が懸かっているんだ。
「なあ、ルミアさん。ここは1つ取引をしよう」
「と、取引……?」
「どう、取引。ここでは何も起こっていなかった。ルミアさんが鑑定した結果、俺は才能無しで退学した。それでいいじゃないか」
「そ、そんなこと無理です……!」
無理だと言われても、こっちだって無理なんだ。
何しろ、俺が学園に残るメリットが見つからない。
このまま、平行線のやり取りをしていたって意味がないな……
「もういいよ。俺はこのまま出て行くから、あとで退学届けでも書いておいてくれ」
こうなった強硬手段に出ることにする。
学園から出てしまえば、あとは勝手に退学届けにしてくれるだろう。
学園が追いかけに来る前に、誰も知らないところまで行ってしまえばいいだけだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
出口のドアに手を伸ばそうとした俺は強い力で引っ張り戻される。
どこからそんな力がわいてきたのか、ルミアがうつむいたまま俺の服の袖をつかんでひきとめてきた。
「これまで、あなたに対しての様々な失礼をお詫びします。なので、お願いします。どうか、どうかこの学園に残ってはいただけませんか?」
「お願いします、といわれても。もともと俺を追い出そうとしたのはお前じゃないかよ」
「その件につきましては、本当に申し訳ございませんでした。私のことはどうしてもらっても構いませんから、どうかこの学園に残ってください……」
さっきまで散々馬鹿にしていた人間に対して、この態度の変わりよう。
人間、追い詰められた時というのはおそろしいものだ。
ていうか、好きにしていいならこのまま「退学届けを書け」と命令するだけなんだが、これは俺が意地悪なだけなんだろうか?
「いったい何の騒ぎなんですか?」
ドア前で泥沼のやり取りをしていたら、突然目の前のドアが開いた。
そこには、俺よりも少し背の高い女性が立っていた。
「が、学園長……」
背後から、さらにこわばったルミアの声が聞こえてきた。
彼女の顔面はまたしても蒼白になってしまっていた。
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