6話 黒魔導士って何ですか?
「おい、これはいったいどういうことなんだよ」
俺はルミアの手から吹き飛んで行ってしまった宝玉を目で追おうとしていた。
しかし、もう宝玉は跡形もなく消え去ってしまい、原形を目にすることはできなかった。
これを俺がやったというのだろうか……?
ただ宝玉を触っただけなんだが?
「その……ユーマさんには黒魔導士の才能があったということです」
「黒魔導士なんて聞いたことがないぞ」
コレットに付いて回っていたせいで、様々な才能を持つ人間と出会うことはあったが、黒魔導士なんて才能の人間には会ったことがなかった。
そんな有名な才能だというのなら、何かしらで耳に挟んでいてもおかしくない。
結局は勇者とは顔を合わせる程の才能でもないということじゃないのだろうか?
しかし、それにしてはルミアの顔はずっとこわばっている。
さっきまでの強気な態度はどこに行ってしまったのだろうか。
今は身を小さくして、俺のことを見上げるように見つめていた。
「あ、ありえません。黒魔導士は、これまで歴史上にたった一人しか現れたことがないんです。それが、こんなところで再来するなんて、そんなこと……」
「その黒魔導士ってすごいのか? 力なんて全然感じないんだが」
「強いなんてそんなレベルの話ではありません!」
ルミアは身を乗り出して訴えてきた。
思わずのその勢いに一歩退いてしまう。
「黒魔導士はその魔力の強さから勇者と唯一対を成す存在だと言われているんですよ」
「そんなこと言われても、そんな力、俺は1度も感じたことなかったし」
これまでだってずっと俺はコレットのサンドバックにされてきたんだ。
勇者と対を成す力を持っている、なんて言われてもそんな実感が起こるわけないだろ。
「それは、ユーマさんがこれまで自分の才能に気づいていなかったからです。何か思い当たる節はないんですか?」
思い当たる節といわれても、これまで俺の中にある記憶はずっとコレットに殺されかけている記憶しかないからな。
いくら俺に力があるなんて言われても、あいつの力が想像を超えすぎていて実感なんて湧くわけもないんだ。
「あ、でも、今日は初めてあいつの攻撃を跳ね返せたな」
「?!?!?!?!」
ルミアがこの世のものとは思えない表情を浮かべる。
あとちょっとで白目を剥きそうになるくらいに、顔の色がどんどん蒼白していく。
「な、なんですか、その逸話は。勇者様の攻撃を生身で受けれるだけでも、相当な訓練が必要だというのに、それを生身で跳ね返すなんて……」
ルミアはぶつぶつ独り言を始めて、何とか目の前で起こっている事実を受け止めようとしていた。
だんだんとその表情がもとに戻り始めて、落ち着きを取り戻したルミアは一度咳ばらいをする。
「と、とにかくこの宝玉が粉々になったことがあなたが黒魔導士の才能を持っているということの確かな証拠です」
よくわからないが、俺はどうやら才能無しということではなかったようだ。
これまでずっとゴミ扱いされて、自己肯定感なんて0に等しかった俺だけど、これからはもう少しだけ自分に自信を持つことができそうだ。
自分の才能については、これから少しずつ向き合っていけばいい。
これからは時間は無限にあるんだからな。
さて、次にすることは……
「最後に気持ちのいい情報をありがとう。それじゃあ、さっさと退学の手続きを進めてくれ」
鑑定の終わったルミアに退学の手続きの催促をする。
そう、俺はさっさとこの学園からでて、あいつから離れないと行けないんだ。
「え?」
俺の言葉を受けたルミアは、またしても面を食らったような顔でおれのことを見返して来た。
「え?」
「え?」
俺たちは、同じ言葉を言い返し合う。
しばらく、2人の間の時が止まった。
お読みいただきありがとうございます!
ルミアの焦りはこんなものでは済みません。