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腰抜けの赤魔導士

「フランの……兄?」


「まあな」



 突然フランの兄だと名乗るガエンという男の発言に、俺は驚きを隠しきれなかった。

 フランに兄弟がいたなんて話は聞いたことがなかった。


 いや、そもそも、フランの家族の話すら詳しく聞いたことはなかったのだけど。

 知っているのは、なにやら、家族そろって魔導士の一家らしいということくらいだ。


 だから、フランに兄がいたのだとしても別におかしいことではない。

 魔導士なのだったら、当然この学校に通っているだろう。


 しかし、そうだとしてもこの男とフランはあまりにも……



「信じていないっていう目だな」


「まあ、そうですね」



 ガエンとフランとではあまりにも雰囲気が違いすぎる。

 風の吹くままにおっとりと過ごすフランとこの暴力男が、同じ血を受け継いでるとは到底思えなかった。



「まあ、信じたくないっていうなら別に信じなくてもいい。ただ言っておくが、俺たち赤間同士の中で異端なのはむしろフランの方だからな?」


「異端?」


「そうだ。赤魔導士に生まれつきながらも、自分の力を信じようともしない。最近じゃ、肉体強化の野郎に喧嘩を売られて、負けてやったみたいじゃねえか。そんな腰抜けが妹だなんて俺の方が恥ずかしい」



 肉体強化の野郎というのは、たぶんリベルガのことだろう。


 確かにフランは争いを好まない。

 リベルガに売られた喧嘩も、わざとフランが負けたんだというのはクラスのみんながなんとなく察している。


 のらりくらりと、波風立てず。

 それがフランにとって自由な生き方なんだと思っていた。


 しかし、ガエンはそんなフランのことを吐き捨てるように罵倒していた。



「赤魔導士は他になめられないように強くなくちゃいけないんだよ。それなのに、あの野郎はわざわざ俺たちの顔に泥を塗るようなことをしやがって。俺たち赤魔導士の生き恥だ」


「おい、」


「あ? なんだよ?」



 さすがに言いすぎだった。


 別に誰かが、誰かに対してどうこう思っていることは構わない。

 しかし、目の前で友達がこうも罵倒されているのを黙って聞いてるのは違うと思った。



「フランの兄だか、なんだか知らないけど。さすがに言いすぎなんじゃないのか?」


「なんだよ? 本当のことじゃねえか。現に、フランは今もこうして大事なお友達を置いてけぼりにして逃げている。いくら魔法の才能があったって、そんな奴は俺達にはいらねえんだよ」


「てめえ!」



 明らかにガエンの挑発だ。

 怒りがこみあげてくる俺を見て、ガエンは楽しそうに笑っている。



「それだよ、それ。いい顔になったじゃねえか。今にも殴りかかりそうになる自分を、ぎりぎりの理性で食い止めている顔。てめえはフランなんかより、赤魔導士の資格があるよ」


「そんな言葉で誰が喜ぶものか」



 怒りで少しずつ体温が上がっていく。

 ガエンが言うように、今の俺は怒りの衝動をギリギリの理性で押さえつけていた。


 だから、目の前からふっとガエンが消えるのも、気づくのに一瞬遅れてしまった。



「はい。今のでお前は死んでたな」



 また背後を取られた。

 今度は俺の頭をガエンがしっかりとつかんでいる。


 どうやって動いていたのか、目でとらえきれていなかった。



 ガエンは余裕そうに口笛を吹く。



「相手に殺気を放つ時は、ちゃんと自分がやられる覚悟もしていないとだめだよ、1年?」


「舐めやがって」


「いいね。そうやってもっと俺への殺意を高めてくれよ」



 ガエンはそれだけ言うと、俺を解放する。

 今の時点では、俺からどんな攻撃をされてもやり返せる自信があるんだろう。

 そして、実際にそうなのだろう。



「ということで、勝負は大魔導祭までお預けにしておいてやるよ。今のお前とやっても、てめえのことを殺しちゃうだけだからな」


「俺が勝ったら、さっきの発言謝罪してもらうからな」


「いいとも、謝罪でも何でもしてやるさ。なんなら、フランのいうこと何でも聞いてやってもいいぜ?」


「聞いたからな?」


「おう♪ だから、死に物狂いで俺を倒せるように頑張ってくれよな、1年……って、えーっと?」


「ユーマだ」


「なるほど、ユーマね。面白そうなやつの名前はちゃんと覚えといてやるよ」



 もうガエンからは魔力なんてほとんど放たれていなかった。

 戦う気はない、というか、今の俺と戦う興味をなくしたのだろう。


 それに気に食わないが、ガエンに気に入られてしまったみたいだし。


 悠々と俺に背中を見せながら、ガエンは立ち去ろうとする。



「そうだ、仲良くなったついでに、1つだけアドバイスしておいてやるよ」


「?」


「敵に隠れて攻撃を仕掛けようとするなら、もっと気づかれないように意識しないとだめだぜ? さっきのはてめえの目線の動きでバレバレだ」



 そう言ってガエンが指を鳴らすと、彼の周りに漂っていた黒霧の残留たちがチリチリと燃えていく。

 俺の悪あがきも、とっくに把握済みだったということか。



「じゃっ、健闘を祈るよ。ユーマ君」



 こうして、大魔導祭に強制参加となる大きな代償と引き換えに、俺は無事に帰路につくことになった。

お読みいただきありがとうございます!

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