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燃える襲撃者2

俺と謎の男の周りを黒い霧が取り囲む。


魔の森でザニスがやっていた魔法を参考にして、自分の魔力で作ってみた魔法の一つだ。

魔力の粒を一つずつ細かくして、あたりにちりばめた一撃だ。

ただの霧と違って、一つ一つが魔力の粒であるため俺の意思で操ることができる。


できればこのまま、この謎の男の動きを封じこめて逃げてしまいたいものなのだが……



「1年のくせにめんどくさい小細工をするじゃねえか」



けだるそうな男の声とともに、俺の作った霧は吹き飛ばされてしまう。


俺がザニスの魔法を弾き飛ばせたように、仕掛けた魔力と同等の威力の魔力を放出すれば簡単に弾き返すことだってできる。

俺たちを圧倒するほどの魔力を持つ男だったら、今の俺の黒霧をはねのけるくらい容易なことだろう。


だがしかし、今はそれでいい。

一瞬でも奴の目をくらませることができたならば、それだけで十分だ。



「へえ、1年のくせに度胸があるじゃねえか」



男は黒霧が晴れた周囲を見渡しながら楽しそうに言った。

今、この場にいるのは俺とあの男だけだ。


アーニャとフランはもうこの場からはいない。



「自分がわざわざ囮になって、大事なお友達を逃がしてあげようだなんて……友達思いのいい男だこと」


「それはどうも」


「見たところ、一番戦闘慣れしてるのは白髪の女だっていうのに、わざわざフランを逃がすために颯爽と行かしてしまうなんてな。よっぽどの命知らずか、力を過信した馬鹿くらいだ」



男は俺のすべてを嘗め回すように見つめてくる。

自分が戦うに値する相手なのかどうかを判別されているみたいだ。



「あいつらを追いかけようとしたって、もう無駄ですよ。彼女はこういう場面には慣れているはずですから」


「そうだな。しかも気配を消すのもうまいと来た。いったい何者なのか知らないが、今度はしっかりと手合わせを願いたいものだぜ」



謎の男は少しずつ自分の周りの魔力を抑えていく。

まるで、目の前の俺に興味をなくしたみたいだ。


顔に焼き付けるように吹き付けていた魔力の熱風が収まっていく。

それと同時に、男の顔がよく見えるようになった。


男はきれいな赤い髪をしていた。

吊り上がった目からは、野獣のような光が垣間見える。

俺と同じ制服を着ているはずなのに、その男の風格はまるで血に飢えた獣のようだった。


おそらくは先輩なんだろう。

フランのやつ、先輩に因縁付けられるような失礼でもしたのだろうか?


男は圧を解いても、決して隙を見せようとはしていない。

俺がこのまま一歩でも攻撃に転じれば、その場に倒れるのはきっと俺の方だ。



あたりには、まだ少しだけ黒霧の残留物が残っている。

気づかれないようにこれらを男にまとわりつかせたいが、うまくいかないだろうか?



「おい、1年。お前、C組か?」


「そ、そうですね」



突然俺の話を振られて、体がびくっとしてしまう。

まさか、もう勘づかれたということはないだろう。



「そうか、C組でこの黒い魔力を使ってるということは……そうかそうか」



男は一人で感心したようにうなずいている。

俺には何のことがさっぱりだ。


正直、俺は早くこの緊張した空気から逃げ出したいのだが。



「お前が噂の稽古場をぶっ壊した編入生ってやつか!」


「な、なんですか、それ?」


「とぼけるんじゃねえよ。お前だろ? 編入初日で稽古場の結界ぶっ壊して、怒られたっていうのは」



ああ。

そういえばそんなこともあったな。


しかし、なんでこの人が知っているのだろう?

そんなに噂になっていたのか?



「いいね。そのとぼけ顔。まだ自分の持っている魔力の質のすばらしさに気づいていないっていう顔だ」



俺が、噂の編入生だとわかったとたん、男の雰囲気が急に柔らかくなった。

別に警戒が解かれたわけではない。

しかし、ひりつくような殺意が薄らいだような気がする。



「よし、決めたよ、1年。今日のことは俺の足止めを成功した記念ということで許してやろう」


「そ、それはどうも」



なんか知らないけど許された。

とりあえず、礼を言おうとしたら目の前から例の男はいなくなっていた。


代わりに声が後ろから聞こえてやってくる。



「その代わり、だ」


「なっ……ぐっ」



突然背後に回ってきた男は、そのまま俺の首を絞めて耳元で話しかけてくる。

鍛え上げられている太い腕が俺動きをしっかりと押さえつける。



「その代わり、この勝負は大魔導祭までお預けってことにしておいてやるよ。どうせ、てめえはもう出場要件は満たしてるんだろ?」


「それは……」


「隠すんじゃねえって。さっき見たいな魔法はちゃんと魔力のコントロールができてなきゃ出せない代物なんだからさ。むしろ俺様に力を認められてうれしいと思え」



それだけ一方的に言われると、俺は男から解放される。

首にはまだじんわりと熱さが残る。



「首元触ってみろ」


「この熱いのは?」


「それは焼き印だ。今日の約束を忘れないためのな」


「なっ! 約束なんて一言も」


「てめえは今、俺から命拾いをした立場なんだよ。拒否権なんかねえ」



さっきまで笑っていたはずの男の目が残忍に光っている。

これは冗談なんかではない。



「大魔導祭まであと一か月。死に物狂いで特訓して、俺を殺せるくらいの力を見せつけてくれよ」


「もし嫌だと言ったら?」


「さあ、どうなるだろうな?」



男はとぼけながらも、わざとらしく首を触って見せる。

絶対に、この焼き印に何かをされている。



「それから、さっきの白髪の嬢ちゃんにも伝えておいてくれ。お前さんが俺に勝てても、この焼き印は解いてあげますよってね」


「てめえ……」


「勘違いすんなって。これはただの優しさなんだからよ。参加するかしないかは嬢ちゃんの自由だ」



この男はやばい。

全身がそう訴えている。

アーニャをこいつと戦わせるわけにはいかない。



「まあ、そんなに怖い顔すんなって。俺は強いやつと戦いたいだけの、ただの好奇心旺盛な先輩なんだよ」


「そんな通り魔みたいな人のいうことを信じられるわけないじゃないですか」


「それもそうか。確かにまだ、お互い何も知らないままだもんな」



先輩は笑う。

ただ笑っているだけなのに、何かの獣の遠吠えのように見えてしまう。



「俺の名前はガエン。血気多感な優しい先輩であり……」



男の最後の一言に俺は耳を疑う。



「……フランの兄だ」



俺の驚く顔を見て、ガエンはにやりと歯をむき出して笑って見せた。

お読みいただきありがとうございます!

新キャラ、ガエン君です。

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