燃える襲撃者1
今日は俺とアーニャとフランの3人で帰ることにした。
いつもなら図書館に寄ってから帰るのだが、大魔導祭に向けて図書館も1ヶ月ほど利用されてしまうらしく、読書での利用ができなくなってしまった。
ちなみに、司書のリベッカさんの長期休暇も兼ねているらしい。
まだあたりが夕暮れの中で帰るというのは、結構久しぶりだったりする。
「フランは大魔導祭にエントリーしなくてよかったのか?」
「だって、私そういう感じじゃないでしょ~?」
「まあ、それは確かに」
フランはクラスの中でも実力は認められているが、別にその力を誇示しようとはしていない。
むしろ、口だけ達者でほとんど魔力を使った喧嘩などは見たことがなかった。
一度だけ、リベルガに無理やり喧嘩させられたらしいが、その時はリベルガが勝ったようだ。
クラスメイト曰く、すごい不自然にフランがやられた、らしいが。
ゆえに、フランの本当の実力というのをちゃんと知ってる人はいない。
「でも、フランちゃんの魔法すっごく強かったよ!」
「本当? アーニャちゃんにそういってもらえると嬉しいな~」
「え? ちょ、ちょっと。ここで抱き着くのはちょっと……」
「いいじゃん、いいじゃん。減るものでもあるまいし~」
課題の時間もさんざんべたべたしていたというのに、フランはアーニャに抱き着いて頬ずりしている。
アーニャも最近少しずつ絆されてきているように見える。
しかし、実際に俺とアーニャは魔の森の中でフランの魔法の一部を見ている。
俺たちよりも2回りほどの大きさの魔物を、余裕そうに焼き払って見せるフランの魔法の威力はすさまじいものだった。
人間くらいならすぐに消し炭にしてしまえそうだ。
そう、リベルガくらいなら。
それくらい力があるならもう少し胸を張ってもいいような気もするんだけどな……
しかし、そんなのんきな時間はとある男の声でぶち壊される。
「随分と楽しそうにやってるじゃねえか」
荒々しい男の声。
聞いたことない声だった。
俺もアーニャもその声というよりかは、声のほうから発せられてる魔力にぴりついた。
肌を焼くような熱を帯びた魔力。
あえて放出されているその魔力は、俺たちを火山の中にいるかのように錯覚させた。
そして、その声と魔力に充てられた者が一人。
「よお、フラン」
フランは男の声に返事はしなかった。
顔も絶対にその男の方へは向けていない。
アーニャに抱き着いたまま離れようとしない。
いや、離れられない。
「ひどく震えてる……」
アーニャは俺だけに聞こえるようにつぶやいた。
フランにさっきまでの余裕はない。
俺たちの倍以上の汗をかいて、ただじっとアーニャにしがみついていることしかできなくなっている。
その様子を見て、男は笑う。
「おいおい、せっかくの再会なんだから顔くらい見せてくれよ」
「あの、なんか用ですか?」
「ああ、てめえらフランのお友達? 悪いんだけどさ、ちょっとそこの馬鹿を借りてくわ」
男は手を伸ばしたままこちらの方へと歩み寄ってくる。
一歩近づくたびに、周りの温度が何度か上昇していく。
この男はやばい、そう体が呼びかけていた。
「ユーマ……」
アーニャはじっと俺を見つめる。
考えていることは一緒だ。
「行くぞ!」
俺と、フランを抱えたアーニャは一目散にその場から逃げ出した。
あの男が何もかはわからないが、絶対にフランを差し出してはいけないことはわかる。
何とかして、あいつを巻かないといけない。
「アーニャ……」
「でも、それだと」
「大丈夫だ、何とかなるだろ」
俺はアーニャに作戦を伝える。
今の状況を打開するにはあまり丁寧な作戦を考えられる時間なんてなかった。
だってその証拠に、さっきまで俺らの後ろにいたはずの男はもう俺たちの前に立ちはだかっている。
「おいおい、急に逃げてもらっちゃ困るよ」
「そんな、魔力むき出しで現れたらそりゃ逃げますよ」
「なるほど、そりゃ確かにな。でも、相手が悪かったな。あいにく俺のほうがこの学園には慣れていてね」
男は俺たちに関しては、少しばかり感心したような表情で話してくる。
余裕の笑みというやつだ。
おそらく、このまま逆方向に逃げても同じように回り込まれる。
それならば、やるしかない。
「アーニャ!!」
アーニャへの掛け声とともに、俺は周りに一気に魔力を漂わせた。
これが作戦開始に合図だ。
「黒霧」
俺と謎の男を囲む黒い霧が、あたり一面を覆い包んでいくのだった。
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