大魔導祭が開かれます
大魔導祭
我々の中に宿る魔力に感謝をささげ、余すことなくその力を発揮して各々の武功をたたえる、年に一度の盛大な祭典。
と、いう名の、ただの闘技大会だ。
日頃のうっ憤を晴らすべく、魔力を使ってどんちゃん暴れまわる大ゲンカ。
喧嘩盛りの学生たちが、闘技大会という名目のもとで手加減なしで殴り合いができるお祭りだ。
一年間のうっ憤を晴らしたり、この試合に勝ったらあの子に告白するんだ、みたいなドキドキイベントを起こしたり……
とにかく暴れたりない学生たちにとっては念願の大会なのである。
学生たちはこの日のために、魔力の鍛錬をしているといっても過言ではないらしい。
ちなみに、大事には至らないけど、毎年血は流れるらしい。
「そんなお祭りが、来月に開催されます!」
「よっしゃああああああああ!!」
教室の中にリベルガの歓喜の声が鳴り響く。
こういうお祭りごとを、リベルガが嫌いなわけがない。
闘技大会が近づき始め、学園の中がそういうムードになっていることは、俺もなんとなく感じていた。
そして、それと同じペースでリベルガも楽しそうにソワソワし始めていた。
「なあ、それって1年でも参加できるんだよな!」
「まあ1年生でも参加は可能ですね」
「よっしゃ! 暴れてやるぜ!」
基本は2年生以上が参加して、1年生は手伝いや見学で楽しむ者たちがほとんどらしい。
闘技大会となれば、学年関係ない組み合わせでのマッチが行われるので、1年から参加するものはほとんどいないらしい。
まあ、リベルガならそんなのお構いなしだろうが。
「あ、でも、リベルガ君……あなたはまだ、参加できないわよ?」
「え?」
「だって、リベルガ君はまだ魔力のコントロールの課題をちゃんとクリアできていないじゃない。1年生で参加するにはこの課題をクリアしているのが最低条件なのよ」
リベルガの表情が固まる。
魔力のコントロールができるかどうかは、魔力を扱うものとして一線を引くほどに重要なことだ。
今のリベルガがどれだけ力が強くても、魔力でしっかりと武装している上級生と戦えば一瞬で消し炭にされる可能性だってある。
これもまた、一年生がほとんど参加しない理由である。
「ど、どうにかならないのか……ですか!」
リベルガの思いつめたぎこちない敬語に、思わずフランが噴き出す。
しかし、彼は今、そんなことは気にしていられない。
「そうね。エントリーの締め切りが来週までだから、それまでに課題をクリアしたらぎりぎり認められるんだけどねえ?」
「ら、来週……それって可能なのかですか」
「まあ稽古の時に、サボらずに、集中してやればもしかしたらできるかもしれないですね」
サキちゃん先生はたまにリベルガのことを突き放す。
たぶん、こういうやり方が、彼には合っているということを知ってるんだろう。
本人にとってはつらいのだろうが、しかし、席に座りなおしたリベルガの表情は絶望しきっていたわけではない。
リベルガなら、もしかしたら……
「というわけで、このクラスから参加できるのは3人だけなんですが……」
サキちゃん先生はそういって、俺とフランとアーニャを交互に眺める。
何か思いつめている表情でもあった。
「出るとしたら、一番最初に課題をクリアしたフランちゃんがいいと思っているんだけど、どう?」
「え~、私?」
サキちゃん先生はあえて、俺とアーニャには触れずにフランに話を持ち掛けた。
先生なりの気遣いなんだろう。
「フランちゃんは魔法の腕前も相当なものだし、上級生と混じってもそこまで不足はないと思うの」
「いやいや、私あんまり参加する気にはなれないですよ~。先輩たち怖そうだし」
「……そっか。わかったわ」
サキちゃん先生はそれ以上は何も言わなかった。
「それじゃあ、一応来週までエントリーできるから、気持ちが変わったら私に言ってね。今日はここまで」
この時はまだ、波乱の大魔導祭が開催されようとは誰も思いもしていなかった。
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