5話 宝玉に変化がなかったら才能なしじゃないんですか?
「それでは、この宝玉に手を置いてください。もし才能がある場合は、この宝玉に色が宿ります」
「才能なしの場合は?」
「そのまま何も変化が起きずに終了です」
ルミアから鑑定の方法について説明を受けた後、彼女が持ってきた透明な宝玉の上に手を載せる。
本当なら10年前に行っていたであろう儀式を、長い時を経てようやく行うことができる。
正直、才能があろうがなかろうがそんなものどっちでもいい。
俺はこのさっさとこの儀式を終わらせて、この学園を出る。
そして、少しでも早くにあいつの目の届かな場所まで出発してしまいたいのだ。
宝玉の上に手を乗せると、急に体の中を誰かに除かれているような感覚が襲った。
おそらくこれが鑑定を受けているということだ。
その直後、宝玉からまばゆい光が放たれ部屋全体を包み込んだ。
「うおっと」
「え?」
その光の眩しさに思わず目がくらんでしまう。
やがて光は徐々に収まり、部屋は元の明るさに戻る。
再び、目を開いてみてみると、宝玉は何の変化も起こさずにルミアの手の上に乗っていたままだった。
どうやら、この光はただの儀式の際に起こる事務的な物だったようだ。
幼い頃の儀式の時にも、こんな光が放たれていたのか記憶にはないが、それはきっと俺の中に鑑定の記憶がないからだろう。
さて、残念なことに俺は”才能なし”と判定されたわけだ。
何かしら才能があってもいいかなとは期待して居たりもしたが、ないものはしょうがない。
さっさと退学の手続きをしてしまおう。
しかし、ルミアはいつまでたっても退学の手続きをしてくれない。
いつまでも手の上に乗った宝玉を見つめたまま口をパクパクさせていた。
「そんな……そんなことが……」
彼女はずっと独り言のようにつぶやいている。
才能なしにいったいなにを驚くことがあるというのだろうか。
「おい、どうしたんだ? 早く退学の手続きをしてくれよ」
返事はない。
さっきまでのキリっとした表情は、今はただのあほずらに変わってしまっている。
……何かがおかしい。
「おい」
「ひゃう!」
俺がルミアの肩をゆすって声をかけると、ルミアは今までにない高い声を上げた。
ようやく現実に引き戻された彼女は、俺の顔を見ると目を丸くした。
さっきまでの。ウジ虫を見るような目とは全く違う。
彼女の目は照準が合わず俺の目を見つめないようにずっと泳ぎ続けていた。
「いったいどうしたんだよ」
「それが……」
ルミアは答えづらそうにうつむいてしまう。
しばらく何も答えなかったあと、やがて気まずそうな声で鑑定の結果を伝えてきた。
「それが、ユーマさんの鑑定の結果を行った結果、“黒魔導士”という結果が現れてしまったんです」
「黒魔導士?」
この世界にいろいろな才能があることは知っているが、そんな名前聞いたことがなかった。
それに、ルミアの鑑定の結果とは程遠いように感じる。
「その宝玉には何の変化も起きていないじゃないか」
「それが、ですね……」
ルミアは何とも極まりが悪そうに宝玉を見つめている。
その手にはさっきまでと変わらない透明な宝玉が乗っているだけである。
ルミアはその持っている宝玉を手から落とした。
「あっ……」
大事な宝玉が割れる……
そう思って、下へ手を差し伸べようとした。
しかし、その行為は無駄に終わってしまった。
ルミアの手から離れた宝玉は、宙に浮かぶと同時に粉々に砕けてしまい、原形をとどめないまま風に乗って消えてしまった。
「え?」
「……」
部屋には理解が追い付いていない俺と、うつむいてばかりいるルミアだけが残った。
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