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かけてあげる言葉は

「ユーマ」


「アーニャ……」



アーニャが初めて俺の名前を呼んだ。

顔は青ざめて、声も酷く震えている。


暗殺を生業とするために育てられた少女。

その話が本当だとするのならば、彼女もきっと小さい時からそうやって育てられて来たのだろう。


俺とはまた別の方向で彼女も苦しんできた1人なのだ。



「おい、何やってるんだアーニャ。あんなゴミムシなどさっさと始末してしまえ!!」


「…………」



アーニャは返事をしない。

ギュッと目を瞑り、胸に手を当てて苦しんでいる。


その姿はザニスには見えていない。



俺が彼女に声をかけるならどんな言葉なんだろう。


苦しみは俺もよくわかる。

そんなことはやめろ。

あんな野郎の言うことなんて聞くなよ。


ありふれた言葉なんてたくさんある。

俺を見下してきたヤツらからも、同じような言葉をかけられたことはあった。


どれもこれも心に響かないものばかり。

言葉の響きがいいせいで、言ってる本人が1番その余韻に酔っている。


アーニャにはそんな言葉は響かない。



もし、もしもアーニャが今自分がしようとすることに悩んでいるのなら。

もし、俺を殺そうとすることを躊躇ってくれているのなら。


彼女を救いたい。

大事な1人の友達として。



「なあ、アーニャ……」


「……?」



それなら、彼女にかけてあげる言葉はきっとこれしかないだろう。



「さっさと戻って『魔道の心得』読もうぜ」



アーニャの表情が変わった。


今まで見せたことないくらいに目を見開いて、俺の方をじっと見つめる。



「おい、アーニャ! そんなゴミムシの言うことなんかに流されるな! この役立たずが!!」



ザニスの声をスイッチとして、アーニャは勢いよく駆け出した。

縛られて身動きのできない俺に向かって、一心に駆け寄る。


手にはまだほんのりと魔力を込めたまま、俺の心臓めがけて、そっと手を伸ばした。



「……助けて」



アーニャの手が、そっと俺の胸の辺りに触れた。

縋るように触れた手はずっと震えていて、今にも消えてしまいそうな程に細かった。

この小さな体の中に、どれだけの我慢を詰め込んできたのだろう。



「おい、アーニャ何をやってるんだ!! 貴様、この私を裏切るというのか!! 私がいなければお前などなんの価値もないというのに」



アーニャに攻撃の意思がないということを悟ったザニス。

裏切られたことを知った彼は、怒りで顔を赤く染めていた。


まったく、神父だというのに笑わせてくれる。



「おい、ゴミムシ。これで勝ったと思ってるんじゃないだろうな?」


「負けてもいないだろう?」


「貴様、もっと自分の置かれてる立ち位置を考えた方がいいぞ? 貴様は今俺の魔力の中にいるんだ。アーニャが私が裏切ってこようと、私に攻撃することまではかなわない」


「たしかに、こんな状態のアーニャに攻撃をさせたくは無いな」


「わかるだろう? つまり、貴様は私に抵抗など出来ないのだ。 私の魔力の中でじっくりと絞め殺してやる……助けなど来ないからな? 泣くなら今のうちだぞ」



……まったく。

本当におめでたいやつだ。


コレットに唆されてる時点でお察しだが、ここまで馬鹿だと逆にありがたい。



「ユーマ?」


「大丈夫だ」


「でも、」



心配そうに寄りかかるアーニャにそっとほほ笑みかけると、俺は周りを囲むザニスの魔力に集中する。

締め付けられた感じですぐに分かった。


これくらいならすぐに解ける。



「はあっ!!」



簡単に力を入れるだけで、俺を締め付けていた魔力達は一瞬にして消えて言ってしまった。



「なっ、私の魔力が……」



もう、ザニスを守ってくれる霧はどこにもない。



「なあ、さっきから散々俺のことをゴミムシだっていってくれたな?」


「ひっ?!」


「それじゃあ、そのゴミ虫に簡単に魔力を破られてるお前は一体なんなんだ?」



ザニスになんて興味はない。

でも、こいつには少しばかりお灸が必要だろう。

お読みいただきありがとうございます!


次回、バイバイザニス

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