課題と邪魔者
翌日。
俺たちはサキちゃんに言われた通り、魔の森と呼ばれる場所までやってきた。
少し小洒落た雰囲気のある学園から少し離れたところにこの場所は、昼なのに薄気味悪い暗さに包まれていた。
「驚いた。学園の中にこんな場所があったなんてな」
「すごいでしょ~。その辺の田舎の小国くらいなら飲み込めちゃうくらいの敷地はあるんだよ」
「なんでフランが偉そうなのかはわかんないが……そりゃ確かにすごいな」
王都の中心に堂々と居を構えているこの魔法学園は、まさにゾーマ帝国最大の敷地を誇っている。
ずっとこの中にいると感覚も狂ってしまうのかもしれないが、地方から来た者達にとってはこの敷地は圧倒されてしまうのだろう。
それにしても田舎の小国、か。
俺の故郷も魔の森の中に簡単に飲み込まれてしまうくらいの大きさだったっけ?
幼い頃からあいつに連れてこられて、こっちにきてしまっているのであまり記憶にはない。
幼い記憶に残っている、故郷の村は今ほどうなっているんだろうな。
「なになに~、ユーマ君立ち止まっちゃってどうしたの? もしかして、怖気付いちゃった?」
「そんなわけあるか! ちょっと昔のことを思い出してたんだよ」
「ホント~? 怖くなったらいつでも言ってね。フランちゃんが守ってあげるからさ」
小さな胸をトンと叩きながら露骨にウインクして見せるフラン。
だが、残念だがそこまでフランにおんぶされるつもりは無い。
「ほらやめろって、恥ずかしいから。アーニャも引いてるだろ」
「……」
「……? アーニャ?」
「ふぇっ?!」
アーニャから変な声が出た。
「ほら見ろ、アーニャもひいてフリーズしちゃってたじゃないか」
「アーニャちゃん、違うよね? そんなことないよね?」
「あぅ……う、うん」
ぐらんぐらんとアーニャの肩を揺さぶるフラン。
当のフランはと言えば、どこか心ここにあらずという感じだった。
声をかけても返事がなんかぎこちない。
「アーニャ、大丈夫か? 具合が悪いならアーニャは休みでも……」
「だ、大丈夫」
「でも、」
「い、行こう」
そう言うとアーニャは1人で歩き出す。
フラフラ~としながら森の中へと入っていこうとするアーニャを一人にしておくわけにはいかなかった。
「ちょ、ちょっと待って!」
アーニャを追いかけるようにして、俺とフランも一緒に森の中に入っていった。
事情は複雑そうだが、俺たち3人の新しい課題が始まった。
ーーー
「と、始まったのはいいんだけど……」
俺たちは霧に覆われた森の中をさ迷い歩く。
外から見た時は、霧に覆われているイメージなんてなかったのだが、中に入ってみると森は白い霧で包まれていた。
霧のおかげで視界もかなり悪く、十分に前方を確認するのも難しい。
そんな悪いコンディションだからだろうか、予期せぬハプニングも怒ってしまう。
「フランのやついったいどこではぐれたんだ?」
今、俺と一緒に森の中を歩いているのはアーニャしかいない。
フランもさっきまで一緒になって歩いていたはずなのに、すこし目を離したすきにどこかへと姿を消してしまった。
はぐれないよう声をかけながら歩いていたはずなのに。
ずっと同じ道を歩いてきたわけだから、どこかではぐれるということも考えにくいのだが、実際おこってしまったものはもうしょうがない。
霧の影響で、来た道も最低限しか見えていない。
フランを探すために道を引き返しても、それで俺たちが逆にはぐれてしまっては意味がない。
ここは一度、フランのことを信じて進んで行くしかないだろう。
「アーニャは大丈夫か?」
「う、うん……」
霧の中からアーニャのか細い声が聞こえてくる。
今日のアーニャはいつも以上の声が小さい。
いつもそんなに声を張っているわけではないが、それにしても消えてしまいそうな声をしている。
霧で周囲が見えない状況も合わさって、今俺が聞いてるのが幻聴なんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「それにしても、なんだこの霧は? こんな話サキちゃんからは聞いていなかったぞ」
サキちゃんは魔の森のことを、魔物が現れる森だというくらいにしか教えてくれなかった。
わざわざ3人で魔物を倒して来いって言ったということは、協力しろということなんだろ。
しかし、この霧は明らかに俺たちを分断させにかかっている。
これも魔物の力なのだろうか?
そんな魔物なんて聞いたころないけど。
俺も、コレットに連れ回されていた関係で、多少の魔物の知識は持っている。
なんなら、まだ才能に目覚めていない状態で魔物に追いかけ回されたこともあった。
だから、別に魔物と戦うとなってもそこまで緊張することもなかった。
しかし、だからこそ、こんな力を出せる魔物がいるということがあまり信じられない。
森全体に霧を仕掛け、まだ見ぬ俺たちを分断させようとする意志を持って行動できる魔物なんてどれくらいいるだろう。
この霧は魔力が込められている。
それくらいは俺もわかる。
そして、この霧には明らかに意図がある。
おそらくは俺たちを、いや、俺たちとフランを分断させようとする何らかの力だ。
「なあ、アーニャ」
「……」
「この霧の正体、アーニャじゃないよな?」
前方からぴたりと足音が止んだ。
「アーニャ?」
「……」
返事がない。
不自然に分断された、俺たち。
いや、俺とフラン。
そして、森全体を覆う白い霧。
この魔力が白魔導士によるものだというくらいは俺もわかるようになって来た。
そうなったら、嫌でも繋がってしまう1つの点。
それがアーニャだ。
「アーニャ……」
「違う! 私じゃない!」
疑いと沈黙を破ったのは、今までに聞いたことないくらい切実な叫び声だった。
「え?」
「信じて、これは私の魔法じゃないの」
「でも、それじゃあ……」
一体なんで黙っていたんだ?
違和感は一番彼女が感じやすいはずなのに、黙っていたということは何かを知っていたんじゃないか?
聞きたいことは山ほどあった。
しかし、それらの疑問はすぐに解決した。
「なにをしているんだ、アーニャ」
霧の中から響く男の声。
姿の見えない何者かの声は、アーニャのすぐ近くから聞こえてきた。
「ざ、ザニス、さま? ど、どうして?」
「どうしてもこうしてもないだろう。お前がグズグズしているから手助けに来たんだ。ほら、早く」
突然現れた謎の男。
彼を前にしているアーニャの声は、これまでに聞いたことないくらいに怯えていた。
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次回、ザニス降臨




