各々の思惑(教会の場合)
「なるほど、魔の森へ3人で赴く新しい課題ですか」
「は、はい」
「絶好のチャンスじゃないですか」
「は、はい」
サキちゃんがエミリーのもとへ抗議を行っている傍ら、その報告を聞いて気分を高揚させているものもいた。
ザニス神父は、アーニャからの報告を聞きつけてわかりやすく声を荒げた。
その様子をアーニャは不安げに見つめている。
アーニャはその日に起こった出来事をザニスに報告していた。
これは、別にアーニャがやりたくてやっているわけではない。
あまりにもアーニャがユーマ暗殺を成功させないので、しびれを切らしたザニスが圧力をかけるために実施するようになったものだ。
その日に起こった出来事、ユーマの動向、さらにはついでとして学園側の動向なんかをアーニャに報告させている。
しかし、報告会なんて言うのも単なる形だけだ。
毎日アーニャにその日の出来事を報告させては、「どうして今日も暗殺できなかったんだ?」と問い詰める。
謝ることしかできないアーニャをいいことに、ザニス自身のストレス発散の場となっていた。
アーニャもだんだんとその事実を理解し始めている。
だから、結局怒鳴られるなら、とザニスに対して本当のことを話すことはやめていた。
本当はユーマと図書館で本を読んでいただけなのに、暗殺の機会を窺って尾行をしていただの、何かと理由を付けてその日を乗り越えていた。
アーニャはユーマと出会ってから、少しずつザニスへの忠誠心が薄れていた。
そのことには、まだアーニャ自身は自覚していない。
しかし、ザニスに対して嘘をつくなんてことはユーマと出会う前の彼女ならあり得ないことだった。
それでも、ザニスに怒鳴られるとまだ彼女の頭の中は真っ白になってしまうのだが。
そんなアーニャの変化に気づかないザニス。
彼はと言えば、ユーマが延々と生き延びていることに対して、教会側から圧力をかけられていた。
毎日教皇たちとすれ違うたびに、「虫けらはまだ生きているのか」と問い詰められる日々。
その度に、ユーマに対する憎しみを増幅させていた。
「だめだ。あの虫けらだけは何としても殺さなければいけないんだ」
勇者コレットからも、早くユーマを連れてこいと脅され続け、ザニスはとにかく焦っていた。
焦るたびにユーマに対する憎悪だけが増していく。
もはやザニスは、ユーマを殺せる手があるなら何でもよかった。
そんな時に舞い込んできた、新しい課題の話だ。
ザニスが飛びつかない理由がなかった。
「なるほど、なるほど。学園側も粋な計らいをしてくれるものだ。わざわざアーニャと虫けらを一緒に行動しさせてくれるなんて……!! もしかして、まだアーニャの正体に気づいていないのか。馬鹿な学園だ!!」
1人高ぶるザニス。
これが罠だなんて考えは、これっぽちもめぐっていない。
「いいか、アーニャ。この機会を絶対に逃すんじゃないぞ。これが最後にして最大のチャンスだ。もし、失敗したら……わかっているな?」
「は、はい」
アーニャに詰め寄り、念を押すザニス。
こうなってしまうと、アーニャもどうしようもなかった。
「実行は明日だ。良かったな、やっとこれまでの行動が報われるということだ!!」
それだけ言い残すと、ザニスは部屋から出て行ってしまった。
取り残されたアーニャは困った顔でため息をつく。
「明日は、なんて報告しようかな」
ーー
アーニャの部屋を意気揚々と去っていったザニスだが、その胸の中にはまだ不安が残っていない訳ではなかった。
「これが最大のチャンスなんだ。絶対に失敗しないようにしないとな……」
ユーマに対してだけは、なぜか暗殺を遂行できていないアーニャに対してまだ不安をぬぐい切れていなかった。
「アーニャだけでは不安だな。よし、明日は私も出向くことにしよう。虫けらは絶対に排除しなければ」
これで完璧だと、笑うザニス。
各々が自らの思惑を胸に、新しい課題へと向かっていくのだった。
お読み下さりありがとうございます!
次回、いざ魔の森へ。




