各々の思惑(学園の場合)
「エミリー様! これはいったいどういうことですか!!」
サキちゃんは怒っていた。
ユーマたちが帰ってしまった後、また1人で学園長室に抗議のために乗りこんできた。
こんな抗議がエミリーには何の意味はないと分かっている。
それでもサキちゃんは抗議せずにはいられなかった。
「あら、どうしたの。息を荒くして」
「どうしたも、こうしたもないですよ! 新しい課題っていったい何ですか!」
この日の抗議の内容は、ユーマたちに与えた新しい課題に対するものだった。
エミリーはわざとらしく聞き返す。
「新しい課題? なかなかいいものでしょ?」
「なにがですか! あんなのユーマ君をホイホイ敵に差し出しているようなものじゃないですか!!」
ユーマたちに対して平然と課題を出していたサキちゃんだったが、その課題はエミリーから突然命令されたものだった。
納得のいっていないサキちゃんは、ユーマたちがいなくなった後でその鬱憤を吐き出す。
「アーニャちゃんは教団側の刺客なんですよね? ユーマ君を狙っていると分かっているのに、どうしてわざわざ隙を見せるようなことをしないといけないんですか」
「だからって、このまま待っているわけにもいかないでしょ。向こうから動きだしてこないのなら、別にこっちから仕掛けたっていいわけなんだから」
「こっちから仕掛けるって……向こうが動き出してこないんだったら、もう少し様子を見たっていいじゃないですか? アーニャちゃんがどういう境遇かは知りませんが、せっかく最近は雰囲気も穏やかになって来たのに」
サキちゃんの言葉をエミリーは聞き逃さない。
「そうよ、まさにそれなのよ」
「え?」
戸惑うサキちゃんに、エミリーは鋭く言葉を刺す。
「アーニャとかいう子はどういう訳か、全くユーマ君への攻撃を開始しない。それどころか仲良くなり始めてすらいる。これがどういう状況かわかる?」
「敵だとしても、こちら側についてくれるかもしれないしいいことなんじゃないですか?」
「甘い、甘すぎるわよ」
エミリーの表情から微笑は消えた。
サキちゃんが思っているよりも、エミリーはこの事態は重く考えているようだ。
「今の彼女たちの状態はいってしまえば中途半端過ぎるのよ。仲良くなったからと言って、彼女が自分の正体を明かしたわけではない。たとえ今は仲良くなっていても、それがいつ、どの段階で崩壊するかもわからない……そして、そのタイミングは全て敵側に握られてしまっている」
「そ、そんなこと……」
ない、とはサキちゃんも言いきれなかった。
「私たちはいつ爆発するかもわからない時限爆弾を抱きかかえさせられているのよ。いつ爆発するかは誰にもわからない。けど、それはきっと私たちが一番油断した瞬間にやって来る。その時に後悔するわけにはいかないのよ」
サキちゃんは、アーニャのこれまでの変化を間近で見てきた。
最初は無口で殺気を放っていた少女が、ユーマと出会ってから少しずつその表情を和らげるようになった。
いつの間にか、サキちゃんはアーニャのことを大事なクラスの1人として見てしまっていたのだ。
「それが爆弾だと分かっている限り、処理しない訳にはいかないのよ。多少強引な手を使ってでもね」
「でも、それじゃああまりにも」
可哀想だ。
そう言いかかって、サキちゃんも言葉が詰まった。
アーニャはユーマを殺しに来た刺客だ。
もし、これ以上仲良くなった後でその正体を明かされたら……
どちらにせよ、やるなら早い方がいい。
サキちゃんにもそのことはわかった。
「それに、全てが悪い方向に行くとも限らないしね」
「え?」
冷酷な指導者の目をしていたエミリーが、また微笑をうかべ始める。
サキちゃんはその変化にまだついていけていない。
「ユーマ君はもう課題をクリアしたんでしょ?」
「はい。正直こんなに早くクリアするとは思っていませんでした。フランちゃんやアーニャちゃんがいるからかすんでいますけど、習得の速さだけで言ったら勇者コレット様を軽く上回っています」
「そうでしょうね。だったら、ちょうどいいじゃない」
「ちょうどいい、ですか?」
「ええ。ユーマ君だって、課題を終わらせて暇してるんでしょ? 最近は呑気に本を読んでいるみたいだし……そろそろぬるま湯に浸かっている時間はおしまいよ」
エミリーは何かをたくらんでいるように、楽しく笑う。
「ぬるま湯、ですか?」
「ええ。ユーマ君が何を求めているのかはわからないけど、自分が大切なものは自分の手でつかみ取らなくちゃね」
納得し切れないサキちゃんだが、今はただユーマの無事を願うしかなかった。
お読み下さりありがとうございます!
次回、学園長の罠に引っかかる人なんているわけ……




