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新しい課題

 アーニャと図書館で勉強会をやるようになってから、そろそろ一週間になろうとしていた。


 彼女が持っている「魔導の心得」に対する知識があまりにも豊富すぎるおかげで、今では毎日のように放課後に彼女を図書室まで誘っている。


 最初は困惑した表情をしていたアーニャも、当たり前のように図書室までついてきてくれるようになった。


 クラスの中では相変わらず無口な彼女だが、ひとたび本を目の前にするとはじけたように言葉があふれ出てくる。


「魔導の心得」の内容を話してくれる時の彼女は、目を輝かせていて純粋に楽しそうな顔を見せてくれる。


 そのアーニャのギャップが面白くて、自重しなきゃと思いつつも、ついつい声をかけてしまうのだ。

 おかげで、帰りが遅くなってしまいルミアが様子を聞く回数が倍くらいに増えてしまった。



「……それで、かわいいかわいいアーニャちゃんを、ユーマ君が一人で独占しようとしていると」


「おい、人聞き悪いことを言うな」


「そうよね、アーニャちゃん? せっかく、私のことも少しずつ慣れてきてくれたのに、ユーマ君がすぐに図書館に連れて行っちゃうんだもんね~」


「あぅ。そ、それは……」



 そして、こちらは絶賛尋問中。

 被告人は、俺。

 裁判官はフラン。

 なぞに、被害者はアーニャ……という体だ。


 罪状は俺がアーニャを独占しているということ。

 別に独占しているつもりはない。

 ただ、放課後一緒にいるだけだ。



「ほら、アーニャも困っているだろう」


「なに、それじゃフランちゃんが悪者みたいじゃない」


「悪者だろ、今は。俺のことまで変な扱いしようとしやがって」


「だって、ユーマ君ばっかりアーニャちゃんと話していてずるいんだも~ん」



 フランは本心なのかわからない困り顔を見せながら ブーブー文句を垂れる。


 こうは言っているが、別にフランもアーニャと言葉は交わしている。

 ただ、俺の時よりもまだ少し距離があるというだけだ。


 今は課題の時間中。


 一足早く課題が終わってしまった俺とフランとアーニャは、やることがないので基本的に3人で稽古場の隅で座っている。


 この時間を、ただ待っていなければいけないという決まりはない。

 しかし、クラスがこの課題を一区切りするまではサキちゃん先生もそちらに集中するため、新しい内容には基本的に入らないらしい。


 なので、手持ち無沙汰になった俺たちはいつも3人でダラダラと話して一日を過ごしていることが増えた。


 もちろん、ただだべっているだけではない。

 俺の手元には「魔導の心得」が常備されている。


 これを解読しながら、あーだこーだしゃべっているのが最近の俺たちの日常だ。


 最初はフランと二人でだべっていたこの時間も、アーニャとの図書館での出会いがあってからは3人で過ごすようになった。


 部屋の隅でボーっとしてたアーニャに最初に話しかけたときは、それこそ目を丸くされた。

 それでも手元にあった「魔導の心得」を見つけたら一緒にいてくれるようになった。


 フランも一緒ということで抵抗感を持っていたアーニャだったが、「魔導の心得」を通じてなら彼女ともコミュニケーションをとれた。

 俺と一緒の時よりたどたどしいが、それでも喋らないよりはかなりの前進だ。


 そういうわけで、俺たち3人の時間ができあがった。



「私だってアーニャちゃんと一緒に図書館であんなことやこんなことを話したいのにな〜」


「そんな変なことは話してねーよ」


「え〜、何想像してるのさ」



 アーニャの前では気を使っていたフランも、最近はあまり気にせずフラン節を炸裂させている。

 最近わかってきたのだが、フランは可愛い顔しながら中身は結構オヤジだ。


 そんなオヤジの毒牙がアーニャに襲いかかる。



「ねえ、アーニャちゃん、あんな男なんて放っておいてフランちゃんともニャンニャンしようよ〜」


「にゃ、ニャンニャン……」


「乗るな乗るな」



 アーニャの顔が恥ずかしさで赤く染まる。

 彼女はあんまり人と近づくのに慣れていない。

 基本的には大きな壁を作ろうとしているのが、何となく見て取れた。


 そんな壁もフランの前に打ち砕かれようとしているのだが……



「はいはーい。フランちゃん、みんなが課題やってる間にニャンニャンしないの」


「え〜、サキちゃん。もう少しでいい所だったのに〜」


「いい所だったのに、じゃないです!! 暇を潰していいとは言ったけど、好き勝手やっていいとは言ってないです!!」



 暴走したフランは、サキちゃん先生の手によって止められた。

 ブーブー言いながらフランは楽しそうに、サキちゃん先生に引き剥がされていく。


 アーニャはようやくほっと息を吐いた。



「もう、そんなに暇そうにしているんだったら3人には特別に課題を与えます!」


「課題……ですか?」


「そう。みんなの課題が済むまで当分かかるだろうし、3人も放置したまま授業するのも私が怒られちゃうからね」


「絶対、最後のが本音でしょ〜」


「フランちゃん、うるさいです!」



 フランに煽られながらも、サキちゃん先生は新しい課題について説明を始めた。



「明日から、3人はこの稽古場には来なくていいです」


「退学ってことですか〜?!」


「違います、茶化さないで! 明日からユーマくん達には学校の敷地内にある『魔の森』に行ってもらいます」


「魔の森、ってなんですか?」


「魔の者が生息する森です。みんなはこの森の奥にまで進んで、そこで佇んでいる魔物を退治してきてもらいます。3人みんなで帰ってくること、これが課題の合格条件です……いいですね?」



 は〜いとフランは二つ返事で答えた。

 全て理解出来たわけではなかったが、フランにつられて返事をした。



「アーニャちゃんは、大丈夫?」


「……はい」



 サキちゃん先生の問いかけに、アーニャは小さく答えた。

 さっきまで見えていた彼女の瞳は再び髪におおわれて見えなくなってしまっていた。

お読み下さりありがとうございます!


ストックが溜まってきたので、3〜4日ほどは毎日更新します。


次回、課題に対してはそれぞれ思惑もあるみたいで、、、

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