3人目の合格者
「……」
「……」
「「……」」
「…………できた!!」
「「おお!!」」
サキちゃん先生たちに見守られながら、俺は魔力の糸の最後の一巻きを木に結び付けることができた。
課題を出されてから2週間ほど、ついに俺は課題をクリアすることができた。
「おめでとうユーマ君! こんなに早くコントロールできるようになるなんて思ってなかったわ!」
「いえいえ、サキちゃん先生が見ていてくれたからですよ」
サキちゃん先生は驚きと感動をごちゃ混ぜにしながら俺のことをお祝いしてくれた。
課題の特訓は、ルミアだけではなくてサキちゃん先生からもいろいろとアドバイスをもらっていたので、その俺がクリアしてくれるのが嬉しいのだろう。
心なしか、サキちゃん先生の瞳にもうっすらと涙が浮かんでいる。
そこまで喜んでくれるなら頑張ったかいもあるものだ。
「これで、クラスの中で3人目の合格者ね……とは言っても、前2人は例外みたいなものだから、駆け出しの魔導士達の中ではユーマ君が一番ってことでいいわよ」
そう。このC組の中でこの課題をクリアしたのは俺で3人目だ。
1人目はフラン。
彼女はこの課題が出された瞬間に一発目でクリアして見せた。
もともと魔法の英才教育を受けてきていた彼女にとってはこれくらい楽勝だったのだろう。
今も「やっと暇つぶしの相手ができた」なんて言いながら呑気に喜んでいる。
そして、もう一人の合格者は、アーニャだった。
彼女もまた、どこかしらで魔法の鍛錬を積んでいたらしく、サキちゃん先生が課題を出してから一発目で合格していた。
編入生してやってきて、すぐに課題をクリアしたということで、クラスの中ではざわつぎが怒っていたが、サキちゃん先生に関しては特に驚いている様子はなかった。
アーニャにとってもクリアするのが当然だといった様子で、今も1人で稽古場の中で佇んでいる。
顔所は依然として謎のままだ。
「おい、ユーマ。てめえ、何俺よりも先にクリアしているんだよ」
合格の余韻に浸っていると、リベルガが怒鳴り込んできた。
彼は、ようやく魔力の糸を一定に保てるようになって来たという感じで、課題の合格にまではまだ時間がかかるだろう。
そもそも、魔力を肉体強化のために扱う武闘派にはこの課題が一番の山場なのらしい。
並みの力の持ち主では、魔力の糸を一定に保つだけでも一年かかるものもあるいるというらしいから、リベルガはよく頑張っている方だ。
リベルガは口調こそ激しいものの、本気で怒っている様子ではない。
これは、彼なりの祝福なのだった。
感情表現が不器用なリベルガだが、悪い奴ではない。
だからこそ、クラスの中での信頼も大きい。
俺も、彼が何を考えているのかは少しずつ理解できるようになってきた。
「ありがとう。リベルガだってかなり進んできているじゃないか」
「お前に言われると癪に障るが、まあいい。ユーマはどうせ合格するだろうと思っていたからな……問題はあの編入生の方だ」
リベルガはそういうと隅に座っているアーニャの方をにらみつける。
俺に向ける親しみのあるにらみつけ方ではない。
本当の敵意がこもっていた。
実際、アーニャに対して不満を抱いているクラスメイトは多い。
むしろ、彼女に対して好意的に思っている人を探す方が大変なくらいだろう。
突然やって来た謎の編入生。
自分たちが苦労して取り組んでいる課題をいともたやすくクリアしてしまったかと思えば、興味なさそうにたたずんでいる。
加えてコミュニケーションが取れないとなれば、ヘイトがたまるのも当たり前だ。
「あの野郎。一発わからせた方がいいんじゃねえか」
「やめなよリベルガ君。今戦ったって、どうせリベルガ君が負けるのがオチなんだから」
怒りを沸騰させるリベルガに対して、フランはからかうように笑っていた。
彼女は、フランに対して敵意を抱いていない数少ないうちの一人だ。
「フランはどうなんだよ? アーニャに対して不満はねえのかよ?」
「私? うーん、どうなんだろう。この学園に来てるのもなんだか訳ありっぽいし、あんまりイガイガしなくてもいいかな~って」
「それに私は課題とっくに終わってるしね」なんて一言を添えて、リベルガのイライラをさらに蓄積させていく。
「てめえな……」
「ほらほら、怒りで魔力が乱れているよ~。深呼吸、深呼吸」
これ以上フランと関わっていたら時間の無駄だと気づいたのか、リベルガは鼻息荒くまた課題に戻っていってしまった。
大きく背中が動いているので、相当勢いよく深呼吸をしているのだろう。
「……それで、ユーマ君はどう思っているの?」
「え?」
「アーニャちゃんのこと」
「俺か……」
ルミアと一緒に、アーニャの行動に関しては警戒するように一致している。
以前の襲撃の件もあったし、この状況での編入があまりにも不自然なのも確かだ。
だがしかし、俺個人としてアーニャを見てみるとどうなのだろう……
アーニャは、白い髪で顔の半分を隠し、その隙間からじっと外の世界を眺めていた。
襲撃なんて似合わないような華奢な体は、縮こまることに慣れてしまったようにその姿勢を保っていた。
稽古場の隅で佇んでいるように見えるアーニャの目は、時々寂しいような、虚ろな目をしているように見えた。
時々、本当に一瞬だけ、そうやって一人でいる彼女の姿が、昔の俺と重なって見える時があるのだ。
「俺は……もうちょっと彼女のことを知ってみたいかな」
「へ~そっか」
彼女がどんな背景を持っているのかはわからない。
だけど、もし、昔の俺と似た部分があるのだとしたら……
もし、俺のように何かに怯えながら生きているのだとしたら……
それを知らずに彼女のことをどうこう言うのはしたくなかった。
「……優しいんだね」
フランは俺の答えを聞きながら何度かうなずいていた。
お読みいただきありがとうございます!
次回、課題を終わらせたユーマが向かう先とは?




