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魔力のコントロールと(自称)天才魔導士と

 

「魔力の調整って結構難しいんだな……」



 サキちゃん先生から出された課題は、授業の応用編ということもあってかなり難しかった。

 授業2日目になっても、クラスみんなで唸り声を上げながら魔力の調整に励んでいる。


 サキちゃん先生から課せられた課題は「魔力を一本の糸にして放出して、5メートル先の木に結びつける」というものだった。

 魔力を糸にするということで、ただ放出量を絞ればいいだけかと思えば話が違う。


 この課題をクリアするためには、2つの条件を乗り越えないといけない。


 1つ目は、まずサキちゃん先生から指定された太さの糸になるまで魔力を調整すること。

 その太さは木に溝として彫り込まれており、この太さに少しでも外れてしまうとうまく結ぶことはできない仕様となっている。


 ただ、魔力の量を絞るだけではなく、指定された太さに一寸たがわずそろえられるように魔力を出す量を調整しなければいけないのだ。


 そして2つ目の条件は、せっかく気力を振り絞って調整した魔力の糸を5メートルの間維持して自在に動かさなければいけないのだ。


 実際、サキちゃん先生の指定した太さの糸にすることは、何度か挑戦するうちに数回はできるようになった。

 しかし、その時点でかなりの集中力を消耗してしまっている。

 そこから先、さらにその太さのまま糸を5メートル先の木まで引き延ばし、さらに遠隔で巻きつけるとなるとかなりの気力が必要になる。


 魔力の放出量の調整と、その維持。

 どちらも完璧にこなそうとすると相当な魔力の練度が必要になって来るのは間違いなかった。



「くそー、できねえ!!」



 稽古場の奥からやかましい声が聞こえる。

 リベルガだ。


 剣士である彼ももちろん、同じ課題が課されている。

 魔導士ではなくても、微量ではあるが魔力を放出することはできるらしい。


 放出できる量が少ない分、糸を作るのは彼らの方が簡単そうに見えるが、剣士たちは普段放出することのない魔力を継続して出し続けなければいけない。

 課題のむずかしさは、魔導士と剣士ともに同じくらいという訳だ。



「はいはい。うめき声ばかり出さずに、目の前の魔力に集中しましょう。ここを越えられなかったらいつまでたっても半人前ですよ~!」



 サキちゃん先生は、課題に四苦八苦している俺たちを見回りながらルンルンと鼻歌を歌っている。

 鼻歌を歌いながらも、サキちゃん先生の周りには無数のコウモリたちが彼女を取り囲むように飛び続けている。

 魔導士としての経験の差をはっきりと見せつけていた。



「くそっ、もう一回」



 深く息を吸って、もう一度自分の中の魔力と向きあう。

 これまで、自分の中にある魔力のことなんて気にしたことはなかった。


 そもそも、自分の中に魔力が存在していたことを知ったのもつい最近のこと。

 突然魔導士になりあがり、今では付き合いの短い魔力をコントロールしようと励んでいる。

 人よりもコントロールができないのなんて当たり前だ。


 ……そんな言い訳を何度も振り払いながら、体の中の魔力の動きだけに集中する。



 実際、俺は焦っていた。

 謎の刺客から襲撃されて、戦いをするための自分の未熟さを知った。

 魔力だけ持っていたとしても、あの時の刺客と互角にやりあうのはまだ無理だろう。


 俺はもっと強くなりたい。

 くそ勇者にもう負けたくないという気持ちもあるが、それ以上に、俺を守ってくれた人のためにも力をつけたかった。


 その為には、俺は魔力のことを、魔法のことをもっとよく理解しなくちゃいけないんだ……



「おお、ユーマ君。糸の太さ、だいぶ安定してきたね~」


「まあな」



 フランが俺の修行の様子を覗きに来る。

 何時間も集中していたおかげで、糸の太さは安定して指定のものにできるようになった。

 ここから先は、糸を木に巻きつけるための戦いだ。



「というか、フランはなんであっさりと課題合格しているんだよ」


「ふっふっふ~。フランちゃんは天才魔導士様だからだよ」



 フランは両手を上げながら自画自賛して見せる。

 楽しそうにこちらを見る様子がなんとも生意気だが、実際にクラスの中でフラン一人だけが課題を早々と達成してしまっている。

 しかも、初見で。


 皆が糸の太さに悪戦苦闘しているあいだに、あっという間に木に糸を巻きつけてしまうものだから、サキちゃん先生含めて衝撃は半端なかった。



「まあ、本当のところ、これくらいの課題は学園に入る前にみっちり特訓させられていたんだよね」


「家族にってことか?」


「そう。ユーマ君も聞いているでしょ? 私の一家の話。有色の魔導士界隈では結構名のある家柄なんだよね」


「お嬢様ってことなのか?」


「まあ、見方によっては。すごいでしょ?」


「そう、だな」



 俺は由緒正しい家の中で令嬢として過ごすフランの姿を想像してみた。

 どうにも、イメージと合わなくて途中でやめた。

 フランに、おしとやかなイメージは似合わない。



「絶対、私にお嬢様とか似合わないって思っているでしょ?」


「そ、そんなこと……」


「いいって。よく言われることだから」



 フランは俺の焦っている顔を見て笑った。

 きっと、このやりとりも彼女にとっては慣れたものなんだろう。



「そういう訳で、私はこの辺の魔力の扱い方に関しては一通り習得済みってわけなのさ! 何か知りたいことがあったら、どんどん頼ってもらっていいよ~」


「そうだな。頼りにさせてもらう、フラン」



 フランの家の事情を知ったからと言って、接し方を変えないといけないとか、そう言うことは思わなかった。

 きっと、彼女もそう言うことは望んでいない。


 ただ純粋に、今の俺には、長い間魔力に親しんできたフランのことが少しだけうらやましく思えた。



「さあ、やるぞー!!」


「その意気だ~!」



 フランのアドバイスをもらいながら、俺は再び魔力のコントロールに集中した。

 授業が終わるまで、ずっと、周りのことなんて気にならなくなるくらいにじっと意識を向けていた。




 ーー



『……見つけた、虫けら』



 だから俺は、まだ遠くから見つめてくる何者かの視線に気づくことができなかった。

お読み下さりありがとうございます!

次回、あの子がやってくる。

水曜日くらいになると思います。

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