サキちゃん先生の魔法授業
新章です!
新しい学園生活にも慣れてきたユーマ。
どうやら、彼も魔法の習得に意欲的になってきたようだ。
謎の襲撃から数日が経ち、俺は本格的に魔法学園での生活を送り始めた。
朝、いつものように教室に向かいリベルガからの決闘をいいように受け流す。
最初こそ怖そうなやつだと思っていたが、慣れてしまった今では愉快なクラスメイトだ。
毎朝襲い掛かって来る大剣の一撃を躱しつつ、サキちゃん先生がやって来るのが最近の朝のウォーミングアップになりつつある。
「はい、リベルガ君おしまいです。授業始めますよ」
サキちゃん先生がやって来ると、リベルガはそそくさと席に戻りながら授業の準備に取り掛かる。
どうやら、リベルガはサキちゃん先生には敵わないみたいだ。
聞いた話によると、一度無謀にもサキちゃん先生に襲い掛かり、けちょんけちょんにやられてしまったらしい。
「サキちゃん、困った顔しながらリベルガのことボコボコにしているから困っちゃったよね~」
隣の席のフランはその時の話をなんとも楽しそうに聞かせてくれた。
この赤い帽子をかぶった少女は、このクラスに入ってから一番親しくしてくれる友達だ。
リベルガもよく絡んでくるが、あれは親しいわけじゃない。
そう、断じて違う。
フランはその見た目の通り、赤魔導士に属するらしい。
なんでも、フラン含む家族全員が赤魔導士の血筋らしく、その界隈では割と有名なのだそうだ。
もちろん、いい意味で。
そこまで有名だと、本人も何かしらの重荷を感じているのかと思えば、本人はいたってのほほんと毎日を過ごしている。
垂れ目からのぞかせてくる呑気な瞳はとても心配事を抱えているようには見えない。
彼女がその目を輝かせるのは、決まって何かいざこざが起こった時だ。
最近だと主に俺とリベルガ関連の乱闘の時には、決まって前に出てきて俺たちの様子を観察している。
喧嘩が好きというよりかは、お祭りごとが好きみたいだ。
「フランちゃんも、変なことをユーマ君に吹き込まないでください!」
「えー、あの時のサキちゃんかっこよかったのに~」
「かっこよくないです!」
こうやってサキちゃん先生をからかっているのも、基本フランの役割だ。
リベルガが暴れて、フランがそれをはやし立てて、サキちゃん先生が頑張って取り押さえる。
数日このクラスにいるが、これがここの日常だと最近になってわかって来た。
魔法学校なんて格式高いものかと思っていたが、案外みんな面白い奴らだ。
まさか、俺がその渦中に放り込まれるとは思っていなかったがな。
「んんっ……さあ、授業を始めます。今日から新しい内容に入るので、みんな稽古場に移動しましょう」
「はーい」
魔法に関する授業も本格的に始まった。
とは言っても、クラスメイト達の授業に俺が飛び入り参加している形だ。
一学期はもう始まっていて、俺がコレットに連れ回されていた間にもみんなは魔法に関する基礎授業を受けていた。
俺がやらなきゃいけないことは、少しでも早くみんなが学んだ内容に追いつくことだ。
この日の授業は「魔力を極力抑えた状態を維持する」という内容のものだった。
サキちゃん先生曰く、これまで学んできた内容の応用編なのだそうだ。
「サキちゃん。どうしてわざわざ魔力を押さえなくちゃいけないの~?」
今日の授業の内容に関して、クラスメイト達から質問が飛ぶ。
これまで、せっかく魔力を増強させて魔法を放つ練習をしてきたらしい。
それが突然魔力を抑える練習をするということで、疑問がわいているようだ。
サキちゃん先生は、その質問を想定済みといった様子で回答をペラペラと話し出す。
「みんなはこれまで、できるだけ体の中の魔力を高めて魔法を強化する稽古をしてきました。皆はさすがC組というだけあって、私の想定よりも早く魔力の増強を習得していきました」
「まったく、サキちゃん。褒めたって何も出てきやしないよ~」
フランがからかっているが、サキちゃん先生の純粋な誉め言葉に、すこし得意げな顔をしているのがわかった。
「なので、みんなにはこれから増強した魔力を、自由自在に操れるようになってもらう必要があります。そのために魔力を放出する力をコントロールする技量が必要なわけですね」
「コントロール?」
「そうです。特にこの習得が必要なのは……ユーマ君ですね」
「え、俺?」
サキちゃん先生は何度もうなずきながら俺の前に立った。
魔力のコントロールというのは、ルミアからも特に言われたことがなかったがいったいどういうことなのだろうか。
「ユーマ君は、莫大な魔力をその体の中に宿しているけど、今のあなたではそれをただ全力で放出することしかできていません」
「そう言われてみれば、確かに……」
俺が出せる三つの魔法ーー黒の閃光、黒槍、漆黒球ーーはどれも、ルミアが提示した目標物を破壊するために全力を出した魔法だった。
形を変えるために若干のコントロールはしていたものの、やることといえばとにかく魔力を手から放出するように集中することだった。
「ユーマ君の魔法は確かに絶大です。でも、それを所かまわず打ちまくっていたら、ただの破壊魔になってしまいます」
「やーい! 破壊魔!!」
「リベルガ君、うるさい!! あなたも一緒ですよ!!」
「え……」
リベルガがからかってきたが、サキちゃん先生にうまく言いとどめられる。
確かに、あいつと一緒というのはちょっと嫌だな……
「魔力はただ力を込めて放てばいいというものではありません。ただ強い威力の強い魔法を打っているだけだったら、球のこもった砲台とやっていることは一緒です。魔力を自在にコントロールできてこそ、真の魔導士としての第一歩なのです」
「なるほど……」
砲台と一緒か。
言われてみれば、確かに俺は魔力をただ馬鹿正直まっすぐ飛ばしているだけだ。
ルミアがやっていたみたいに結界を張ってみたり、何かを調べてみたりなんて細かいことは成功している姿も想像できない。
「魔力をコントロールするというのはこういうことです」
そう言って、サキちゃん先生は自分の体の周りに紫色の魔力の塊を何個も漂わせる。
バラバラに浮かんでいた魔力の球は、やがてサキちゃん先生の周りを渦状に取り囲む。
そして気が付けば、一つ一つの魔力の球が一匹のコウモリとなってサキちゃん先生の周りを飛び回り始めていた。
「おお」
一連の光景に俺は思わず感嘆の声を上げる。
魔力の球だったはずのコウモリは、今ではそれぞれの意思を持ってサキちゃん先生の周りを飛び回っていた。
サキちゃん先生が手を差し伸べるとコウモリの一匹が安らぐようにその手の上に飛び降りた。
「これが私の”使い魔”というやつです」
「これも、魔力をコントロールして作ったんですか?」
「作ったというか、変化させたという方が正しいのかもしれないですね。この子たちを召喚するのに必要な量の魔力を放出して、その質をも変化させているのです……まあ、みんながやるさらに上級編です」
サキちゃん先生は得意げに自分の魔法を説明してくれた。
いつもオドオドしているが、魔法を操っている時のサキちゃん先生は一流の魔導士だった。
きっと、サキちゃん先生が本気になったら、今の俺じゃ本気を出しても敵わないのだろう。
「さあ、それじゃあやってみましょうか」
「はーい」
サキちゃん先生の見本を見た俺たちは、授業の内容にすっかり納得しながら魔力の稽古に励むのだった。
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