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温かいミルクです

「はい。ユーマ様。温かいミルクです」


「ああ、ありがとう」



 謎の敵からの襲来があった後、俺はまだ眠れないでいた。

 もう襲来があってから、だいぶ時間は経った。

 あれだけの爆音がなっていたというのに、周囲は静かなままだ。


 ルミアが言うには、敵が周囲に気づかれないように細工したのだろうということだった。

 やはり、あの刺客は俺だけを狙ってやって来たということだ。



「落ち着きましたか?」


「ああ、すこしはな」



 ルミアが出してくれたホットミルクが、こわばっていた体を緩めてくれる。

 ようやく、さっきまでの出来事も落ち着いて考えられるようになって来た。


 ルミアはそんな俺の様子を優しく見守っていてくれている。



「さっきのやつは一体誰だったんだ?」


「あれはおそらく、教団側の刺客でしょうね」


「教団?」


「聖魔導教会という、白魔法を持つ者が専門に集まった組織です。長い歴史を持つ教団ではありますが、言ってしまえば、白魔導士のみを至高と考える過激派の集まりです」



 白魔法というものが、他の魔法に比べて優位性があるというのは、ルミアから教わっていた。

 そのために、白魔導士は他の魔導士達を見下す傾向にあるらしい。


 ルミア曰く、教団というのはそう言った輩が集まってできた、由緒正しい団体なのだそうだ。



「正直、私は近づきたくありません」


「でも、白魔導士たちは結構支持しているのだろう?」


「まあそうでしょうね。私みたいなタイプは少数派だとは思います」



 白魔導士は、そうであるだけで教団からの支援を受けることができる。

 その代わり、教団に自分の名を連ねることを条件とされるらしい。


 聖魔導教団はそのようにして規模を少しずつ広げ、今では魔法界に相当な権力を持つまでに権威を高めたそうだ。



「黒魔導士の歴史を改ざんしようとしているのもその団体です。白魔導士にとっては、黒魔導士という存在自体が、自分たちの存在意義を脅かすものになりますからね」


「俺自体が目の敵にされているという訳か」



 教団の話をしているあいだ、ルミアはずっと不機嫌そうだった。

 話の節々からも伝わって来るが、どうやらルミアは教団のことが嫌いらしい。

 自分の名前も教団に連ねていないという徹底ぶりのようだ。



「もともとは、白魔導士だけを優遇するという考えに共感できずにいましたが、今はもう完全にユーマ様の敵ですからね。それはすなわちわたしの敵です」


「おいおい、そんな宣言していいのかよ。割と多くの白魔導士を敵に回すことになるんじゃないか」


「構いませんよ」



 ルミアは本気だ。

 俺をせっせと退学にさせようとしたときにも感じたが、結構彼女は頑固だ。

 しかし、固まった考えをせずに俺のような存在にも柔軟に対応してくれている。


 改めて考えると、ルミアが居てくれるおかげでかなり助けられているな。



「ありがとうな。ルミア」


「そ、そんな……いえ。私でよければいくらでもお力添えします」



 ルミアは照れながらそう宣言してくれる。

 その宣言が、多くの同士を敵に回す言葉であることは彼女もわかっているだろう。


 彼女の意思の分まで、俺も彼女のことを大切にしないといけないな。



「それじゃあ、今回やってきた刺客も教団の人間ということか?」


「そう言うことですね。教団側には、都合の悪い人間を抹殺することに長けた暗殺部隊があると聞きます。その一人がやって来たのでしょう」


「暗殺部隊って、気味わるいな」


「実際、相当な腕前らしいですよ。気配を消して現れては、確実に任務を遂行していく。今回も、わずかな殺気を感じ取れなかったらどうなっていたかわからなかったです」



 ルミアの言っていた通りだ。

 彼女が感じ取った違和感は、同じ部屋に居た俺にはまだ感知することができなかった。

 戦いの勘だと、ルミアは言っている。


 まだ、俺にはそれだけの経験がないのだろう。


 敵の殺気を感じたのは、本当に俺に向けられて攻撃を放たれてからだった。

 正直、攻撃が迫っていると分かっていても、その時には体がこわばってしまって動くことなんてできなかった。


 ルミアが気づいていなければ、今頃俺も闇に葬り去られていたことだろう。



コレット(あいつ)の攻撃を受けまくっていたから、余裕で躱せるかなとも思っていたんだけどな」


「あの敵がやって来たのは、真正面からの攻撃とはまた違うんですよ。威力を最大にしなくても、敵を動けなくして確実に急所をえぐり取る……暗殺術の一種ですね」


「暗殺術か」


「相当なやり手ですね。あれは」



 暗殺術。

 そう言われると、なぜかしっくりくるものがあった。


 あの時の攻撃は、確実に俺を狙っていた。

 敵の顔も何も確認できなかったけれども、それだけは感じ取ることができた。


 俺は今から殺される。

 怖いけど、その未来が脳裏によぎってしまったのだ。

 今でも思い出すと、すこし手が震える。


「俺も、あれくらいの殺気を出せるようにならないとな」


「ユーマ様はあんなの習得しなくていいです!!」


「いいのか?」


「あたりまえです。それに、習得しようと思って身につけられるものでもないですしね」



 できることなら、俺も戦えるだけの力を持っておいた方がいいと思ったのだが、ルミアが全力で止めてくる。


「あんなのは、生まれつき持っているか、特殊な訓練……それこそ、人間兵器として育て上げでもしない限りは身に付くことのない領域のものです。持っていたって、決して名誉あるものなんかじゃありません」


「そういうものなのか」


「そういうものなんです。ユーマ様は、まずは正当な魔力の使い方を学んで、奴らに対抗できるようになりましょう」


「お、おう」



 ルミアの言葉には、妙に説得力があった。

 暗殺者になるために育て上げられた人間……ここにやって来たあいつもそうなのなら、ここに来るまでになにを考えていたのだろう。

 どのような人生を送って来たのだろうか。


 俺は何故だか、そっちの方に考えがいってしまった。



「さあ、そろそろ落ち着きましたか」


「ああだいぶ」



 気がつけば、ホットミルクを飲み干していた。

 ルミアとおしゃべりをしている中で、高揚していた気分もだんだん落ち着いてきた。


 目のまえであくびをしているルミアを見て、俺もつられてあくびする。

 良かった、今なら眠れそうだ。



「かなり夜更かしをしてしまいましたね」


「夜更けというよりも、夜明けに近くなってきたかもな」



 夜はかなり深くなっている。

 しかし、もうしばらくすれば少しずつ空が明るんで来るだろう。

 ほんとうに、長い夜だった。



「なあ、ルミア」


「なんでしょう?」


「明日の学校、休んでもいいか?」


「だめです」


「ええ……じゃあ、少し遅れて行くくらいは……」


「だめです!!登校二日目でさぼりなんて覚えないで下さい」


「ごめんごめん」


 まったく、なんて言いながら、それでも少し安心したようにルミアが明かりを消す。

 部屋が暗くなってしまうと、俺はそのまますぐに眠りに誘われてしまったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次回は教会サイドから。


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