3話 学園を出るためには手続きが必要みたいです
稽古場を後にした俺は、1人で学園内の廊下を歩いていた。
これまでコレットの所有物として生きてきた俺は、学園の生徒という扱いでありながらも一人でこの中を歩くことは許されていなかった。
しかし、あいつと絶縁した今は、どこを歩こうが俺の自由だ。
体はあいつの攻撃を食らってボロボロだったが、気分は最高だった。
これからどこに行って暮らそうか
できる限り、あいつの手の届かない辺境にでもいって穏やかに暮らそう。
過去のことをすべて忘れて、1人の人間としてこれからは生きていくんだ。
「あれ、あなたは……」
廊下の曲がり角で、1人の女の人と鉢合わせた。
黒髪のショートボブに、黒縁メガネ。
学園の制服を着崩し1つなく几帳面に着こなしている彼女は、このあ学園の事務員であるルミアという者だった。
俺もこの学園に入学することになった時、何度かやりとりをしたことがあるから覚えている。
ルミアは、ボロボロの俺の体をにらみつけるようにしていった。
「どうしてコレット様の“お荷物”であるあなたが、1人でこの学園の中を歩いているのですか? あなたは本来1人で行動する権利は付与されていないはずですけど」
彼女が俺を見る視線には、明らかに俺への敵意が込められていた。
彼女に限らず、この国の中では俺に対して嫌悪感を持っている者たちは少なからずいる。
「救いの女神さま」とまで呼ばれているコレットは、この国の中では羨望の的だ。彼女に近づけるなら、奴隷になってでもいいという人たちもざらにいる。
そんな彼女のそばに、ただの幼なじみという理由だけで何の才能のない俺がいつもいた。
挙句の果てには、国の中でも特に優れた才能の持ち主しか入ることが許されない、この魔法学園にまで入学させてもらっている。
多くの人々がのどから手が出るほどに欲しい権利を何もない俺が持っていたわけだ。
まあ、実情はそんなにいいものでもないわけではあるが。
このルミアもそんなものたちと同じ一人で、いつだって俺を見るときにはゴミを見るような視線を送っていた。
「あいつとはもう一切関係を持たないことにしたんだよ。もう俺はあいつの所有物じゃない」
「本当ですか?!」
俺の説明を聞くやいなや、ルミアは食いつくように反応した。
さっきまでのにらみつけるような視線が消え、彼女の瞳に輝きが宿っていた。
「ついに、コレット様と別れてくださるんですね」
彼女の口から、毒が漏れているが今更気にする必要もない。
どうせ、こいつとももう会うことはなくなるのだ。
勇者様の信奉者は信奉者で好きにやっていてくれ。
「それじゃあ、俺はもうこの学園も後にするから」
「あ、ちょっと待ってください」
さっさとこんなところ後にしたかったのだが、ルミアに呼び止められてしまう。
「一応、あなたもこの学園の生徒という扱いになっていますので、退学をするときにはそれなりの手続きをしたいただく必要があります」
「適当に処分にしておくことはできないのか?」
「ここは国の中でも最高教育機関ですので、万が一退学者を出すためには手続きが必要なのです」
「本当はすぐにでもあなたをここから追い出してしまいたいのですが……」というルミアの本音がぼそりと聞こえてくるが、構っていてもきりがないので無視しておく。
「さいわい、あなたにはクラスも才能も何もないので、退学の手続きも形式的なものだけで済みます」
あらためて、事実を告げられるとズキッとくるものがあるな……
まあ、いい。
本当はコレットが追いかけてくる前に少しでも早くどこかへ行ってしまいたかったが、手続き不足で後から学園側に呼び出されるのも厄介だ。
「ちょうどいいタイミングですので、さっさとやってしまいましょう。事務室までついてきてください」
ルミアに言われるままに、退学の手続きを始めるのだった。
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