初めての「友達」
俺はサキちゃん先生と共に元の教室へと帰っていった。
先生の話では、もうリベルガも目を覚まして教室に戻ってきているということだ。
時刻はもう昼を過ぎている。
本来ならば、午後の授業が始まっていてもおかしくない時間だ。
しかし、俺たちはこれから教室に戻って、途中だったはずの朝礼を始めることになるのだった。
「いい? 絶対にリベルガ君と喧嘩をしちゃいけませんよ?」
「わかっていますよ。俺からは手を出しません」
先生はさっきから何度もリベルガと仲良くするように念を押して来る。
さっきだって俺から仕掛けに言った訳じゃないのに、どうしてこうも心配されるのだろうか……
少なくとも、俺の方から攻撃する意思はない。
俺だって別に力を見せつけて、クラスのみんなから恐れられたいわけではない。
仲良くできるのならば、クラスメイトとは仲良くしたい。
だから、問題はリベルガが俺のことをどう思っているのかということなのだと思う。
まあ、リベルガの方にも先生からきつく念押しがされているだろうし、大丈夫だろう。
怒ったとしても俺が相手にしなければ問題ない。
そんなこんなで、心配そうな先生と一緒に教室まで戻って来た。
朝に入ってきて以来の教室の雰囲気。
もう一度クラスメイトみんなと顔を合わせると思うと妙に緊張する。
いったい、どんな顔をして迎えてくれるのだろう。
あの一件で、完全に嫌われ者になってしまうとか、そう言うのは嫌だなあ……
「あ……」
俺たちが教室の中に入ると、ざわついていた空気が静まった。
俺の姿を見つけたクラスメイト達がリベルガの背中を押している。
気まずいのは俺だけではなかったみたいだ。
何人かのクラスメイト達に背中を押されながら、リベルガは俺の前にやって来た。
相変わらず怖い目で俺のことをにらみつけてくる。
やっぱり、さっきのことを相当根に持っている……のか?
こちらから攻撃をするつもりはないが、万が一ということも考えて防御の準備だけはしておく。
なんかあったら、奴の剣を狙って攻撃すればいい。
「……その、さっきは悪かったな」
「え?」
「なにも知らずに『才能無し』だなんて言ってよ」
「あ、ああ」
しかし、リベルガの口から飛び出して来たのは純粋な謝罪の言葉だった。
ここからまた戦いなんて怒らないことを願っていたが、いざほんとうに何もないと力が抜けてしまう。
先生もホッと一息ついていた。
「別に気にしていないさ……俺のことを知っている人だったらそう思っても間違いない」
「強いんだな」
「慣れてるだけさ」
「へっ、完敗だ」
リベルガからは、さっきまでの怒りに満ちた雰囲気は感じられない。
目つきこそ怖いものの、落ち着いた様子からは喧嘩を売られる前よりよほど猛者に見えた。
荒い戦い方のように見えて、鍛え抜かれた体は彼の努力を表している。
本気で戦う彼の姿がどんなものなのか、また見てみたいものだ。
さて、あとはリベルガと握手でもして和解の挨拶でもしようじゃないか。
そう思って、俺は彼の前に右手を差し出す。
「これからよろしくな」
リベルガは差し出された右手を見てふっと笑う。
そして、彼は自分の右手で背中の剣に手を取った……
「かくごおおおおおおお!!」
「へ?」
突然掛け声を上げたリベルガはその勢いのまま、大剣を振り下ろしてきた。
あまりに突然の出来事に、俺も隣にいたサキちゃん先生も困惑する。
なんなら、周りで見ていたクラスメイト全員、彼の行動にきょとんとした顔を浮かべていた。
防御の構えももう間に合わなかったので、俺は間一髪で振り下ろされた剣を避ける。
鈍い衝撃音が床を響かせる。
俺が攻撃を避けたのを見ると、リベルガはわかりやすく舌打ちをした。
「ちょっと、リベルガ君何しているの!!」
「うるせえ! さっきはこいつに一方的に攻撃されて、俺から攻撃できてなかったからな!」
攻撃できなかったって。
自分が俺に一発攻撃してくるように言ったんじゃないか……
クラスメイト含めて誰もが心の中で突っ込んだ。
しかし、いまの彼の前でそれを言い出せる人は居なかった。
「ユーマ……てめえ、なめやがって。さっきわざと攻撃を外しただろう?」
「なんだ、ばれていたのか」
「ばれていたのか、じゃねえよ! 絶対にてめえの体を真っ二つにしてやるからな!!」
リベルガにも攻撃を外していたことがばれていたとは。
となると、俺がやったことはクラスみんなにもばれていると考えた方がいいかもな。
結構うまくやったつもりだったんだけどな、難しい。
彼はさらに剣を振り回して俺の方に迫って来る。
やはり、魔力を駆使した肉体強化ということだけあって、動きが早い。
自分の半身くらいの大きさはあろう大剣を軽々しく持ち上げては、俺を真っ二つにするための攻撃を振り下ろして来た。
しかし、俺とてずっとコレットの攻撃を受け続けてきたわけじゃない。
これくらいの攻撃なら、まだかわすのに難はない。
クラスを破壊する勢いで続くリベルガの攻撃。
しかし、そんな彼のターンもついに終わりを告げる。
「こら!! いい加減にしなさい!!」
しびれを切らしたサキちゃん先生が、ついに怒りの牙をむいた。
手から何か魔力を放って、彼が握っている愛剣だけを綺麗に吹き飛ばした。
「げっ!」
突然剣が吹き飛ばされた衝撃で、リベルガも体勢を崩す。
思わず座り込んでしまった先で、サキちゃん先生が黒い影と共に彼に攻寄る。
「リベルガ君……私、喧嘩はしないようにって言ったはずよね?」
「い、いや、これは……」
「これは?」
リベルガの顔が青ざめている。
サキちゃん先生の周りから黒いオーラが湧き出ている。
リベルガをここまで怖がらせるなんて、どんな表情をしているのだろう。
「あーあ、サキちゃん怒っちゃったね~」
「?」
サキちゃん先生の表情を想像していると、1人のクラスメイトが話しかけてきた。
赤いとんがり帽子をかぶった女の子だ。
俺よりも背は頭一つ分くらい小さい。
「ああなったサキちゃんはなかなか見られないよ? ユーマ君もいい日に出会えたね♪」
「リベルガも大変だな」
「大変なのはユーマ君の方でしょ~。編入初日からリベルガに気に入られちゃうなんてご苦労様だよ」
「気に入られてるのか、これ?」
赤い帽子の女の子はにっこりとうなずく。
俺にはどうも敵視されているようにしか感じないのだが。
あ、でもさっき、一応名前は呼んでくれたな。
「ユーマ」って。
「リベルガは自分より強い奴と出会ったら、自分の手で倒さないと気が済まないから。これからいっぱい絡まれると思うよ」
「じゃあ、認められたってことか?」
「そう! リベルガ、うちのクラスのみんなを倒しちゃって退屈そうにしていたから、ユーマ君がやってきて、きっとワクワクしていると思うよ」
「……そうなのか」
ということは、俺はこれから奴に負けるまで戦いを挑まれるということか。
嫌われていないのは嬉しいけど、毎日戦いの日々っていうのもなんか嫌だなあ。
「あ、私の名前はフラン。ユーマ君と同じ魔法使いだよ。よろしくね」
「よろしくな。フラン」
フランと会話したのを皮切りに、他のクラスメイト達も次々と話しかけてきた。
「ねえねえ、さっきの魔法どうやって放ったの!!」
「結界を壊しちゃうなんて、いつも何食べているわけ?!」
「ていうか、魔法使いなのに結構体鍛えてるんだね!!」
初めてかけられる言葉ばかりで、緊張してしまったが、誰かから興味を持たれているというのは嬉しいな。
こういうのは、初めてできた「友達」って言っていいんだよな?
魔法学園初日。
ごたごたはあったけど、何とかうまくやっていけそうだ。
お読み下さりありがとうございます!
喧嘩するほどなんとやら。
まあ、一方的だけど。
次回はコレット回。




