ごめんね、リベルガ君
……さて、どうしたものか。
クラスメイトのリベルガとかいうやつに連れられるままに、競技場までやってきてしまった。
競技場の真ん中に立っている俺とリベルガ。
周りには同じクラスのクラスメイトが観客として囲んでいる。
みんなリベルガが勝つものと信じて疑っていないようで、ワイワイ祭りムードで戦いの結果を予想している。
その中でサキちゃん先生だけがどうしたらいいのか、慌てふためいた様子でこちらのことをずっと見つめていた。
先生は、どういう訳か俺のことを不安そうに見つめている。
きっと、リベルガに急に喧嘩に巻き込まれたことに対して、心配してくれているんだろう。
登校初日から、こんな喧嘩に巻き込まれるなんて先生も予想していなかっただろうしな。
(先生、俺は大丈夫だよ)
先生の不安を和らげるためにも、俺は先生に向かってうなずいて見せる。
「おら、さっさと始めようぜ」
リベルガはまだ喧嘩腰のまま、さっさとかかってこいと促して来る。
よほど、自分の腕に自信があるみたいだ。
やっぱり、コレットの親衛隊ってやつはそういうやつらの集まりなのだろうかな。
「最初の一撃はお前にくれてやるよ、おら、さっさと打って来いよ」
リベルガは相当俺のことを見下しているようで、最初の一撃すら許してくれる。
俺の攻撃を合図に戦いを始めるようだ。
さて、俺としてはこのままいつもの修行の通り、リベルガに魔法を打ってやればいい。
俺としてもここまで馬鹿にされて、魔法を打てないアホを演じるつもりはない。
そんなことをしたら、魔法を教えてくれたルミアにも失礼だからな。
しかし、問題はそのルミアのことだ。
俺は、登校してくる前にルミアと1つ”大事な約束”をしてきてしまったのだ。
『いいですかユーマ様。これから学園に入ったら、きっとユーマ様に喧嘩を売って来るような不届きものが現れるかもしれません』
『まあ、俺は悪い意味で有名だしな』
『そんな奴らは私が直接懲らしめてやりたいのですが……ゴホッゴホッ!……ユーマ様、そんな状況になってしまった時に、一つだけ約束をしてください』
『いいけど……何だ?』
『いいですか。もし向こう側から喧嘩を吹っ掛けられたとしても、絶対にユーマ様は魔法を直接相手に当てちゃいけません!!』
『魔法を?! いったい何で?』
『なんでって……そりゃあ、ユーマ様の魔力が強すぎるからです。あんな攻撃、学生たちが食らったら骨1つ残りませんよ!』
ルミアは、真剣な表情で俺にそう釘をさしていた。
今まで初心者向けの魔力の特訓しかしていなかったはずだから、こんな忠告を受けるとは思ってみなかった。
学園の生徒たちも魔力の錬成を特訓しているだろうし、かなり強そうに見えるんだけどなあ……
何はともあれ、ルミアとの約束は守ってあげないといけない。
ルミア先生が打つなと言ったら打ってはいけないのだ。
これはそういう修行なんだ、きっと。
(そうなると、うまく当たらないように攻撃をしないといけない訳か)
リベルガは挑発をしてから一歩も動くことなく俺の攻撃を待っている。
攻撃を打ってこない俺を見て、本当に才能無しだと確信を高めているころかもしれない。
このままじっとしているのもよくないな。
競技場の周りには、結界が張られているようでその中ではどんな攻撃を食らっても命を失うということはないらしい。
結界もかなりの強度でできているらしく、外から見ているクラスメイト達に危害が及ぶことはないみたいだ。
「おい、どうしたんだ? やっぱり魔法なんて出せないのか?」
「違うよ。そこまで言うなら打ってやるよ」
俺はリベルガの横すれすれに狙いを定める。
攻撃を当てないようにするなら、一発あたりの幅が小さい黒槍を放つことにする。
もちろん、一発だけ。
「……それじゃあ、行くぞ」
俺は右手に魔力を込めて、黒槍を生み出す。
「飛んでけ!!」
そのまま、狙いを定めてリベルガの横腹あたりをかすらない距離を定めて一直線に魔法を飛ばした、
黒槍は狙い通りまっすぐにリベルガの横をかすって後ろの結界めがけて飛んでいった。
ズドーーーーーーーーーーーン!!!
黒槍が飛んでいったのとほぼ同時に、リベルガの後ろから巨大な破壊音が鳴り響いた。
黒槍はほぼ音速の速さで、リベルガの横を通過していった。
「……あ。」
目のまえに荒い煙が立ち込めている。
その後ろでは、ただならぬ歓声が鳴り響いていた。
「え、嘘! これ、結界張られていたよね!!」
「結界壊れているんだけど!!」
「どういうこと! あの編入生、才能無しなんじゃなかったの!! やばい魔法打ってるじゃん!!」
「てか、リベルガ大丈夫? 生きてる?!」
だんだんと騒ぎが大きくなっている。
どうやら、俺は魔法学園屈指の結界をぶち壊してしまったようだ。
ルミアが言っていたのはこういうことだったのか……
いつもは彼女が作っていてくれていた的にしか当てていなかったからわからなかったが、どうやら相当意力を出せるようになったらしい。
これは、確かに人には絶対打っちゃダメなやつだな。
って、そんなことをのんきに振り返っている場合ではない!!
「リベルガ、大丈夫か?」
俺は競技場の真ん中に立っているリベルガのもとへと駆け寄る。
攻撃は外れるように打ったつもりだったが、万が一接触していた場合が心配だ。
煙が立ち込めている中でも、彼のシルエットはまだ確認することができた。
よかった、何とか直撃は避けることができたようだ。
しかし、どういう訳か、彼のシルエットは決してそこから動く様子がない。
「おい、リベルガ、大丈夫かって……」
いよいよリベルガのことが心配になって駈け寄ってみると、彼は変わらずにそこに立ち続けていた。
立っては居たのだけど……
「立ったまま気絶している」
リベルガは白目を剥いたまま、勇ましい立ち姿を披露していてくれていた。
その後彼は、サキちゃん先生たちに保健室へと担ぎ込まれていくのだった。
お読み下さりありがとうございます!
強すぎるって罪。
次回、サキちゃんは少し怒っているらしい。




