どうしてこんなことになってしまったのでしょう(サキちゃん視点)
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
わたしは、今日「編入生がやってくる」ということを聞いていただけなのに……
そもそも1-Cのクラスに編入生がやって来るという話を学園長から聞いた時点で、何かがおかしいと気づくべきだったんです!
このクラスは1年生の中でも特に実力の高いものだけが集められる、いわゆる優等生クラス。
そう、みんな私なんかが担任を持つに余りあるほどの力を持った優等生なんです。
生徒たちはそれを知っているのか、やたらとプライドが高いし、先生である私はいつの間にか「サキちゃん」なんて呼ばれてなめられる日々が続いています。
いや、それでもみんなかわいい生徒さんたちなので、私はそれでもいいんです。
わたしは、ただこの可愛い生徒さん達と一緒に、日々を楽しく過ごすことができればそれでよかったんです。
それなのに……
それなのに、どうしてこんなことになっているんですか!!
「ほら、付いて来い。さっさと競技場まで行くぞ」
「進め、進めーー!!」
クラスのみんなは。新しくやって来た編入生を引っ張って無理やり競技場まで連れて行っています。
彼らの先頭に立っているのは、リベルガ君。
このクラスのいわゆるボスみたいな存在です。
魔力のタイプは肉体強化の剣士。
本来なら他の魔導士たちに若干劣りをとっていしまうような才能ですが、彼の場合は違います。
彼は他の魔導士たちとの力の差を跳ね返す程の剣の腕前と、持ち前の力強さを活かして確固たる力を得てきました。
このクラスの中で喧嘩になれば間違いなく最後に残るのは彼でしょう。
気性が荒く、他の生徒たちと喧嘩をしてしまうこともあるという話も聞いていました。
だけど、次の日にはケロッとしてクラスに入ってきていたので、特に私も気にしないでいました。
だけど、今回ばかりは話が別です!!!
何なんですか。あの編入生は!!
初めて彼が横に立った時、その魔力の多さに思わず私は悲鳴を上げてしまいました。
本人は全く自覚がないらしいですが、彼から漏れ出ている魔力の量は明らかに異常です。
これまであって来たどんな人間、魔族たちと比較してもあの魔力量を持っている存在とは出会ったことがありません。
本気を出せば、街一つくらいな簡単に壊滅させられるだけの魔力を彼は持っています。
リベルガ君たちはどうやら気が付いていないみたいですが、あんな化け物と戦ったらリベルガ君はきっと……
どうして、あんな化け物みたいな学生が突然編入なんてしてくるんですか。
学園長はただ「編入生」としか言っていなかったのに、大嘘です。
あの時の学園長の微笑みを、私は一生恨むことにします。
なにが、ただの編入生ですか。
あんな化け物が普通の生徒なわけがありません。
しかも、どうやら勇者コレット様の付き人だったらしいじゃないですか!
わたしは、コレット様とは直接顔を合わせたことがありませんが、勇者の力がどれほどまでのものかは知っています。
その力が魔族を倒すための強力な道しるべになるということも。
そんな勇者が引き連れていた人物が、普通の人間なわけがないじゃないですか!!
本人は「才能無しだった」とかうそぶいてますけど、本当の才能無しが勇者と時間を共にして生きていけるわけがないんです。
ほんとうに才能無しだと思って生きていたのなら、本当の馬鹿か無自覚の天才かのどちらかしかありえません。
「はあ……」
本当に嫌すぎてため息しか出てきません。
これから、どうやってこの戦いを止めたらいいのでしょう?
ユーマ君が魔法を放った時点で、リベルガ君の死亡は確定します。
骨すら残らないでしょう。
わたしも、その攻撃を途中で止められるかどうか怪しいです。
もし、このケンカの中で1-Cの生徒が死んでしまったとなれば……
もう考えるだけで恐ろしいです。
学園長の静かに起こった顔が目に浮かびます。
ああなった学園長には、私は顔も合わせることができません。
ほんとうに理不尽な人なんです。
「おら、付いたぞ! こっちだ!」
そんなことを考えているあいだに、ついに競技場まで到着してしまいました。
ああ、ここが彼の死場になってしまうなんて、かわいそうに……
「ほ、本当にやるんですか? 今なら、まだ引き返せますよ?」
「なに言っているんだ。サキちゃん。こんな半端ものを1-Cに入れてたまるか。こいつにはしっかりとわからせないといけないんだよ」
だから、わからされちゃうのはあんたの方なんですって!!
どうして、ここまで伝わって来るおぞましい魔力の量に気づかないんですか!!
もう、目の前は真っ白です。
わたしの教員人生ももしかしたら、今日が最後なのかもしれません。
苦労して生きてきた26年。
この学園に入ってからは、やっとそんな人生も楽しいと思えて来ていたのに、ここで終わりだなんて……
これまでの人生が走馬灯のように思い浮かびます。
不思議と頭によぎるのは、この学園に入ってからのことばかり。
学園に救われ、そして学園に殺される。
ああ、もしかしたら私にとってはそれが一番の幸せなのかもしれません。
リベルガ君は、そんな私の思いもお構いなしに競技場へユーマ君を連れて行きます。
「さあ、攻撃してみろよ。才能無し。特別に最初の一撃はお前に打たせてやるよ」
「いいのか?」
「ああ、いいさ。ここから動かないでいてやるからよ……せいぜい恥をさらすんだな」
……彼は本当のバカなのでしょうか?
ユーマ君は困った顔で私のことを見てきます。
ほんとうに攻撃を当てていいのか、悩んでいるのかもしれませんね。
わたしは全力でノーサインを出しますが、彼に届いているのかどうか。
「……わかった」
ユーマ君はそれだけ言うと、リベルガ君に向けて右手を伸ばしました。
残念!!
わたしの渾身のノーサインは彼には伝わらなかったみたいです。
「サキちゃん! さっきから動きがうるさい!!」
思わず他の生徒にも怒られちゃいました。
だって、運命の瞬間なんです。
許してください!
ユーマ君は、いろいろと思い悩んだ挙句ついに右手に魔力を集中させ始めました。
彼が、その手から黒い魔力を放つと同時に、私は目のまえが真っ白になってしまいました。
お読みいただきありがとうございます!
不憫なサキちゃん先生。
次回はユーマの視点に戻ります!




