売られた喧嘩
「おい、お前『才能無し』だろ?」
俺の目の前にやって来たマッチョなクラスメイトは、俺のことをにらみつけながらそう言い放った。
短髪で刈込を入れたその男は、俺のことをゴミのようにおもっているようだ。
何がきっかけでこんなことになったのかわからない。
因縁をつけられるにしても、あまりにも突然すぎる。
これまで学園の人間なんかと関りのない俺は、もちろん、こんな怖い人との関りなんて全くない。
何がどうしてこうなっているのかを、聞き出して行かないとな。
「え?」
「とぼけるんじゃねえよ。てめえが才能無しのくそ野郎だってことを俺は知っているんだよ」
「ちょっと、リベルガ君!」
すかさずサキちゃん先生が止めに入ろうとする。
しかし、リベルガと呼ばれたその男子が、先生を睨み付けたことでサキちゃん先生の足も止まってしまった。
今の彼は、人をも殺す眼光をしている。
こんな目でにらみつけられるなんて、サキちゃん先生もかわいそうだ。
一体彼が何に怒っているのか、その理由を探してみると答えは案外早く見つかった。
リベルガは胸に小さなバッジを付けていた。
緑色のベースに剣のマークが描かれた趣味の悪いバッジだ。
いやらしく反射する、緑の光は勇者コレットに対する尊敬の念を表すものだ。
平たく言ってしまえば、コレットの親衛隊を名乗る連中が付けているバッジだった。
リベルガもその例にもれず、コレットの親衛隊だということだ。
これで、俺の中でもようやく物事がつながって見えてきた。
このリベルガはコレットの親衛隊に所属している。
そして、あいつに近づこうとしていく中でいつも連れ回されていた俺の姿を見つけたのだろう。
あいつは、いつも俺を連れ回しては「この子は才能無しだけど、私が面倒見てあげているの」なんて言いふらしていたからな。
バカな親衛隊たちはその言葉をそのまま信じて、俺に対して暴言をはいていたりしていた。
リベルガも、同じく俺に反感を買っている一人だったということだ。
そして、そんな嫌いなやつがのうのうとクラスメイトとして現れたわけだ。
あらためて、リベルガを見ると納得の行く表情であった。
「俺は知っているんだよ。てめえが才能無しのくせに、コレット様をそそのかして一緒に居たこともよお」
「そそのかして? むしろ連れ回されていたのは俺の方だぞ」
「うるせえ! そうやってコレット様をだましていたんだな! 今回だってそうだろ。コレット様をだまして無理やり学園に編入させてもらったんだろ?」
なんだか、俺がコレットをそそのかした悪者のように話が進んでいる。
俺がそんなことをするわけがないだろう。
一刻も早くコレットから離れることだけを考えてきたのに、わざわざあいつに借りを作って学園に編入するなんてありえないだろう。
どうにも、話がかみ合わない。
これは、もしかしたらコレットが裏ですでに手をまわしている可能性も高いな。
俺が学園に編入することを知ってしまった彼女が、俺が不利になるように根回しを始めたと考えておいてもいいだろう。
まったく、あいつはどこまで俺の邪魔をしたら気が済むというんだ……
「だから、俺は才能無しじゃない。俺にも魔力があることがわかったんだ」
どれだけリベルガに説明しようとしても、すでに頭に血が上ってしまった彼は、話なんてきいてくれない。
怒りっぽいのはいいが、すこしは話を聞いてもらえないものだろうか。
「……俺はな、力もねえのにのほほんとずるばかりして暮らしている奴が大嫌いなんだよ!!」
ついに我慢の限界が来たリベルガは、こぶしを大きく振りかざし俺の机をたたき割った。
渾身の力で振り下ろされたこぶしは、頑丈に作られたはずの机を簡単に真っ二つにしてしまった。
さすがは、武闘派という威力だ。
この状況じゃなきゃ、ルミアと一緒に拍手を送りたいところだった。
「才能があって学園に編入することが認められたってことは、てめえはさぞかし強いんだろうなあ?!」
「強いかはわからないが、魔力は認めてもらったつもりだぞ」
「だったら、俺と勝負しろよ」
「……はあ?」
「もし、俺よりも雑魚だということがわかったら、この学園から出て行けよ」
突然うられた喧嘩に、おれは思わず耳を疑ってしまう。
「やば、リベルガが喧嘩を申し込んでるよ」
「あの編入生、死んだな」
周りのクラスメイトたちのクスクス声が聞こえてくる。
リベルガはそんな笑い声など気にする様子もなく、俺に圧をかけ続けている。
絶対にノーと言わせるつもりはないらしい。
「ちょ、ちょ、ちょっと! そんなこと認められるわけないでしょう!!」
ようやく我に戻ったサキちゃん先生が止めに入ろうとする。
しかし、クラス全体の雰囲気は、もう決闘を止められるほどに冷静な空気ではなくなっていた。
「いいねええええええ!!」
「久々にリベルガの本気の姿が見られるんだな!!」
「お前、どっちが勝つと思う? 俺はもちろんリベルガに一票!」
「じゃ、俺は編入生が死ぬに一票だな!!」
クラスの雰囲気はもう完全に観戦モードになってしまった。
「おら、逃げるんじゃねえぞ?」
リベルガはたたき割った机を蹴り飛ばしながら、正面に居る俺を逃がさない。
もう戦うことからは逃れられないらしい。
……これはめんどくさいことになった。
お読みいただきありがとうございます!
目のまえで机をたたき割られているけど、ユーマ君は強いんで大丈夫です。




