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22話 明日の学校の準備

「……どうかな?」


「すごい! お似合いですよ、ユーマ様!」


「そ、そうか?」


「ええ! 漆黒に包まれたユーマ様の魅力が溢れだしています!!」


「それ、褒めているのか?」



学園長が現れたその日の夜、俺たちの自室ではプチファッションショーが開催されていた。

モデルは俺。

観客はルミア。

そして、ショーの最大の見世物は新たに支給された学園の制服だ。


黒地に所々白色のアクセントが加えられたブレザー。

胸のポケットには、学園の象徴でもあるロコが刻まれている。

魔導士になろうとする者なら誰もが憧れる、学園の生徒の象徴だ。


部屋に届いた制服を目にするなり、ルミアは目の色を変えて早く制服を着るように懇願してきた。



『ユーマ様! お願いですからこの制服を着てください!』


『別に今じゃなくてもいいだろ!』


『ダメなんです! こういうのは1番最初が肝心なんです! 今じゃなくてはダメなのです!!』



何かに取り憑かれてしまったかのように、制服を押し付けてきたルミア。

制服が届いたと言うだけで何をそんなに興奮するものがあるのか、と考えてしまう気持ちもあったが、結局はルミアの勢いに負けてファッションショーが始まってしまった。


部屋には、制服と同じく届けられた教科書やらの荷物の箱も置かれている。

そんなものを無視して、ファッションショーはまだまだ続く。



「おいおい。明日までに準備をしなきゃいけないんだからそろそろ終わりにしてくれよ」


「はあ、分かっています。でも、あと少し。あと少しだけこの目にユーマ様の制服姿を堪能させてください」



時間を気にせず、俺の制服姿を1人きりで堪能しているルミア。

おそらく誰かに見られてしまう前に、独り占めをしたかったのが本音なのだろう。


しかし、いつまでもファッションショーをしている訳にもいかない。

ルミアにも言った通り、明日までに学園の準備をしておかなければいけないのだ。



なにせ、今朝突然現れた学園長の発言によって、俺の編入がすぐに決まってしまったのだから……




ーー



ルミアとの魔法の稽古を終えた俺たちの前に、学園長は何とも楽しそうに姿を現した。



『あら、何か物音がすると思っていたらユーマ様の魔法だったのですね!』



なんともわざとらしい驚き方。

言葉ではああ言っていても、心では絶対にそんなことは思っていないのだろう。


おそらくこの人は俺がルミアと魔法の特急をしていることを知っていて、時期を伺ってここにやってきたのだろう。


しかし、そんなことを問い詰めても彼女はその質問には答えてくれなかった。

ただ、にっこりと怪しげに笑うだけだ。


俺の事を学園で保護してくれるとは言ったものの、何か裏があることは見え見えだ。

彼女のことを全て信じていいとは言うことは出来なかった。



『ユーマ様の編入の時期が決定したので、お知らせにまいりました』



どうやら、今回はただの事務連絡として訪れたようだ。

魔法学校に編入すると聞いてから、もう既に1週間近くがたっていた。

俺としてはルミアに魔法の稽古をつけて貰っていたからいいものの、それまでなんの連絡もなかったのは気にはなっていた。


ようやく物事が動き出しているらしい。



『それで、いつからなんだ?』


『明日です』


『はい?』


『明日からユーマ様は我が校の1年生として編入していただきます!』



あまりにも突然の話だった。

直に編入のタイミングを教えられるのだろうとは思っていたが、さすがに前日に言い渡されるとは。



『明日って、なかなか突然過ぎやしないか?』


『別に編入するってことは前々から決まっていたことですから……当日のご連絡に比べれば全然余裕がござい

ましょう?』


『当日の連絡に比べたらそりゃそうかもしれないが、こっちだって準備ってものがな』



俺の言い分を聞いて、学園長はキョトンとした顔を浮かべる。



『あら、そんなにたくさん準備をされてきて、他にどんな準備が必要だと言うのですか?』



予想が確信に変わる。

やはりこの人は俺たちの魔法の稽古の様子を見ていて、ちょうどいい時期になったから呼び出しをしているわけだ。

学園にはいるための実力になるまで時間を置いて、もういいと思ったら有無を言わせず引取りに来る。


ルミアの方を見てみても、驚いた表情を浮かべている。

彼女もこんな展開になるとは予想していなかったようだ。

俺達は知らない間に学園長の手のひらの上で踊らされていたらしい。



『それではそういうわけですので、明日から頑張って下さい。細かいことはルミアにでも聞けばわかりますので』


『おい、ちょっと』


『あ、必要な荷物でしたら全てユーマ様の部屋にお届けしております。どうかご確認を』



それだけ言い残すと彼女は振り返らずに行ってしまった。

俺は言い返す余地もなく、明日の学園への編入だけがただ決定したわけだ。



ーー



そんなこんなで、俺のファッションショーは続く。

もはや、ファッションショーというよりもルミアの撮影会みたいになってきている。


全方位から俺の姿を目に焼き付けているルミア。

彼女の鼻息が次第に荒くなっているのを近くで感じる。


学園長が来てから最初はしょげていたのに、制服姿の俺を見た途端この興奮具合い。

全く調子の良い奴だとは思いつつも、俺の姿でここまで喜んでくれるのならそれはそれで悪くないとも思ってしまう。

きっと、ルミアだからいいんだろうな。



「見てくださいユーマ様!」


「ルミア、その格好……」



俺の背筋を眺めていたはずのルミアが軽い足取りで俺の目の前に躍り出る。

目の前に現れた彼女は、俺と同じ制服姿で立っていた。

女子の制服は黒のブレザーに、同じく黒地のスカートを履いている。


学園を卒業したはずの彼女も、違和感のないほどしっくりくる雰囲気で制服を着こなしていた。



「昔の制服を引っ張り出して来ちゃいました」


「ちゃんと似合ってるな」


「本当ですか!」



嘘を言うつもりは無い。

ルミアは恥ずかしそうに顔を赤らめている。

ほんのりピンクに染まる頬が可愛らしい。

きっと学生の時は周りの男子たちからもモテたんだろう。



「へへ。ユーマ様とお揃いです」



足取り軽く、その場でスカートをはためかせて見せるルミア。


思わぬハプニングがあったとはいえ、ここまで魔法の稽古を毎日つけてくれたのも彼女だ。

こんなに喜んでもらえたのなら、少しはその礼も出来たのではないかと思う。



次第に夜も更けてきた。

そろそろ明日の学校の準備を始めなくちゃいけないな。

前日に準備できる人ほとんどいない説


次回から学園編はいります!

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