21話 魔法の成果
3月ですね!
ルミア先生の稽古が始まってから、一週間が過ぎた。
魔力を放出できるようになってからは、毎日原っぱで魔法を打つ練習をし続けた。
最初はただ魔力を放つだけだった俺の攻撃も、ルミア先生の丁寧な指導のおかげでやっと「魔法」と呼べる代物になってきた。
「それじゃあ、今日はこれまで扱ってきた魔法をおさらいしてみましょう」
「はい、先生!」
先生の指導に元気よく返事をして魔法の特訓にかかる。
最初は俺に「先生」と呼ばれるのを遠慮していたルミアも、今では当たり前のように受け止めている。
今では立派な、俺専属の魔法の先生だ。
俺も「先生」と呼ぶことにも慣れてきたし、これなら学園にも少しは慣れて行くことができるだろう。
とはいっても、まだ学園への編入の案内は来ていないのだが……
「それじゃあまずは一番簡単な魔法から」
「はい」
ルミア先生の指示した順番の通りに、俺は覚えた魔法をおさらいしていく。
この一週間の間に、俺は3つの魔法を使いこなせるようになった。
とは言っても、まだ魔法と呼ぶにはおざなりなようなお粗末なものでしかないが。
やっていることは、初めて魔力を放出した時と変わらず、ただまっすぐに俺の持っている魔力を前に打っているだけだ。
しかし、それもイメージ次第でいくらでも魔法に変えることができるとルミア先生が教えてくれた。
「黒の閃光!」
一つ目の魔法を放つ。
俺の量の手から漆黒の光線が、一直線に前に飛んでいく。
これがルミアに教えてもらった一番初歩的な魔法だ、
やっていることはただ魔力を外に放出するだけ。
俺がやるべきことは、その威力をコントロールしてまっすぐな光線に形を整えることだ。
ただ乱雑に魔法を放つだけではなく、放ちたい形をイメージしてコントロールしてあげることで、その威力と精度が段違いに変わるらしい。
これができるかできないかが、魔法かそうでないかの境目らしい。
俺は何とかその分岐点は越えることができたのだった。
「これはもういい感じですね。もう周りの草を無意味に刈り取ったりしていません」
ルミア先生はうなずきながら周りを見渡し、俺の魔法の精度を評価してくれる。
最初はわけもわからず魔力を放っていたため、ねらってもいない方向に攻撃が飛んでいったりしていたが、今では一つの光の線として魔力を放出できるようになった。
これも修行のたまものだ。
「それでは、次に二つ目の魔法もいってみましょう」
「はい」
休むことなくルミア先生から二つ目の課題を出される。
「黒槍」
二つ目の魔法を唱えるとともに、今度は漆黒の槍が現れてまっすぐに飛んでいく。
槍は原っぱの先にある木の幹に命中して木をそのまま粉砕させた。
「いいですね! まだ打てるだけ打ってみましょう」
「は、はい!」
俺の黒槍の様子を見たルミア先生からさらに要求が来る。
黒槍は黒の閃光よりも攻撃の範囲が狭くなった分、先端に当たった時の威力を高めた魔法だ。
威力が高い分、命中率が下がってしまうため一発撃っただけでは攻撃がヒットしないことも当然ありうる。
だからルミア先生からは連続で最低でも10本くらいは打てるようになっておくといいと言われた。
『ユーマ様の魔力量でしたら、それこそ何百本の槍でも降り注がせることができますよ』
そう言って笑顔でおれから魔力を絞りつくそうとするルミア先生が、この特訓の帰還の中でも一番怖かったように思える。
まあ、そのおかげでこの魔法の精度も存分に上がったので感謝しないといけないんだけどな……
ルミア先生の指示通りに黒槍をいくつも生みだしては、最初に狙った木の幹を狙って攻撃し続ける。
攻撃の的となっているかわいそうな木は、何度破壊されてもよみがえる。
どうやらルミア先生が特別にこしらえてくれたらしい。
これも魔法の1つらしいが、俺にはまだその原理は理解できそうにない。
まず手始めに槍を10本。
その次に30本、50本、そして100本まで数を増やし続け、連続で木を破壊し続ける。
目標は木の回復速度が追い付かなくなるまで。
しかし、これがどれだけ攻撃しても追いつかない。
「はい、そこまで」
最終的に150本まで数を増やしたところでルミア先生から止めが入った。
「こんなものでいいのか?」
「今日はおさらいなので。これ以上やって魔力を枯らしても仕方ないですからね」
いつもなら魔力が尽きる寸前まで槍を錬成し続けなければいけないので、このくらいの数で終わると一種の物足りなさすら感じるようになった。
彼女ほどとはいわないものの、俺の魔力もかなり増えてはいるみたいだ。
ルミア先生は余裕の表情で、ボロボロになった木をもとの状態まで回復させている。
俺が黒槍を打ち続けているということは、当然、ルミア先生も俺と同じだけ気を回復させ続けているということだ。
しかし、俺がどれだけ魔力が尽きようとも、彼女が一緒になって倒れているところは見たことがない。
『どういう魔力量しているんだよ』
『これが経験の差なのです』
いつも俺のことを様づけして慕ってくれる彼女が、唯一どや顔を披露してくれる瞬間でもあった。
彼女いわく、どれだけ魔力量を持っていてもコントロールして使いこなせるようにならなければ意味がないらしい。
今の俺の課題はそのコントロールへの慣れということだ。
「それじゃあ最後のやつ、やってみましょう」
「はい!」
息を整えて最後の課題をこなす。
俺が覚えた三つ目の魔法。
これまでの魔法よりも少しばかり癖があるものだ。
「漆黒球」
魔法の名を唱えて、手から俺の顔のサイズの球体を浮かび上がらせる。
重量感のある黒色の球体は、ゆっくりとルミア先生が直してくれた木に向かって前進していく。
まだ覚えたばかりのこの魔法は、球体の形を崩さずに前に進ませるのが神経を使う。
魔力のコントロールが必須となる魔法だ。
球体は歩く速度のままに前に進み、ついに標的に激突した。
ここまでで、第一関門は突破だ。
あとは最後の一撃を……
ドカーーーーン!!
一瞬の静寂が辺りを包んだ後、けたたましい爆発音が辺りを覆った。
間違いなく、おれの漆黒球が爆発した音だ。
俺もルミア先生も耳をふさいでその様子を眺める。
漆黒球はこれまでの純粋な魔法とはことなり、速度を捨てて破壊力を重視した爆弾のような物だ。
命中率ははるかに避けられやすくなってしまうが、その分あたった時の爆発力は他の魔法をはるかにしのぐ。
その証拠に、さっきまで攻撃を耐え続けていた標的の木がこんなに……
「あれ、消えている……」
「粉砕しましたね!!」
爆発の煙がおさまった先では、黒槍をずっと当て続けても回復されてしまっていた木が跡形もなく消えていた。
ついにルミア先生の回復速度を上回ることができたらしい。
何気に、ここまで成功できたのは初めてだったりする。
俺もルミア先生もこの興奮をどう表現しようか綿渡してしまっている。
「ご、合格です!!」
ルミア先生の声が原っぱに響く。
彼女の目にはうっすら涙すら映っている。
一週間付きっ切りで稽古をつけてくれたからな。
生徒の成長に感動してくれているのだろう。
ここまで喜んでくれるなら、俺の方も嬉しいばかりだ。
「ユーマ様の力なら、他の生徒たちよりも早く魔法なんて習得しちゃうと思っていましたが、まさか一週間で3つもできるようになってしまうなんて」
「ルミア先生の教え方がいいからですよ!!」
「そ、そんなことナイデスヨ」
否定はしつつも、ルミア先生はもじもじして嬉しそうだ。
べつにお世辞で言っているわけじゃないし、彼女には存分に喜んでもらいたい。
ルミア先生の存在がなければ、学園に入ったとしてもすぐに馬鹿にされていただろうからな。
これで、おれも一応は周りの学生たちにもついていくくらいはできるだろう。
「あら!! すごい爆発音がすると思ったらユーマ様でしたか!!!」
「が、学園長!」
ルミア先生と二人でこの興奮を分かち合っていたところに、突如として割り込んできた邪魔もの声。
後ろを振り返れば、今日も不敵な笑みを浮かべた学園長が俺たちの様子を眺めに来ていた。
「なにしに来たんだ?」
「いえ、ユーマ様を探していたら、原っぱからものすごい音が聞こえたので思わずきてしまいました」
「嘘つけ。どうせここに居ることなんて知っていたくせに」
学園長は俺の言葉には回答せずに、ただにっこりと首をかしげただけだ。
この人は何を考えているのかよくわからない。
ただ、ルミアへの処遇を考えてみても、まだすべてを信頼していい相手には思えない。
「それで、おれに何か用なのか?」
「ええ。ユーマ様の編入の予定が決まったので直接お伝えに参りました」
「本当か!」
ルミア先生の稽古も終わり、いよいよ時が動き始めようとしていた。
短いけど長かった修行も終わり。




