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19話 ため込んでいたものが飛び出しました

「さあ、それでは今日は実際に魔法を打ってみましょう!!」


「お、おー!」



 ルミア先生の魔法講座2日目。

 昨日に魔法の基礎となる理論を学んだところで、今日はいよいよ実際に魔法を放つ授業だ。


 朝っぱらから原っぱに集まって元気よく声を上げているのは、学園の中を探してもきっと俺たちだけだ気だろう。

 ルミア先生は朝から目を輝かせながら、元気にこぶしを天高く掲げている。

 今日一日で、俺に魔法の基本を叩きこむつもりだそうだ。



 ちなみに、今日も昨日同様に朝のジョギングは行った。

 昨日の一件もあったからルミアと一緒は控えておこうかと思ったのだが、彼女が「ユーマ様の日課を崩すわけにはいきません」と言い張って、一緒にトレーニングを行うことにした。


 昨日の反省を踏まえつつ、いつも以上に速度を落としてルミアと並んで山を駆け抜けた。

 ルミアは俺が速度を落としていることを気にしているようだったが、俺としては体を動かせればいいので気にするなと声をかけておいた。


 1人で黙々と体を温めるのもいいが、誰かと一緒に居るというのは思っている以上に心地がいい。

 ルミアの無理にならない程度に一緒に体力を付けていければいいさ。



 ゆっくり眠って程よく体も動かし、ちょうど絶好調の体調を迎えたルミア先生はさっそく授業に取り掛かる。


 今日の課題は、習った魔力の知識を活かして実際に魔法を放ってみること。

 魔法学校の中でも「初撃」という名前で、一番最初の実技として行われる項目らしい。

 ここでうまく魔法を放てるかどうかでも、周りから魔導士としてのセンスを評価されてしまうらしい。

 魔導士になるための最初の関門という訳だ。



「そう言われると急に緊張してくるな」


「ユーマ様はこれまで無意識に魔力を操っていたわけですし、心配する必要はないですよ」



 フォローのつもりなのだろうが、笑顔でさらにハードルを上げに来るルミア先生。


 そもそも、俺は魔法を放ったことがないどころか自分の体の中に魔力が流れていることすら知らなかったのだ。

 魔法を放つ自分の姿がいまだに信じられない。


 緊張とともに、本当にできるのだろうかという不安な気持ちが押し寄せ始める。



「難しく考える必要はありません。これまでユーマ様が無意識でやって来たことをゆっくりやってみればいいだけです」


「無意識でやっていたこと、か……」


「そうです。これまで勇者様のこうげきを幾度も受けてきても生き延びてこられたのは、全てユーマ様の体の中にある魔力が無意識に肉体を守ってくれていたからです。ユーマ様も知らないうちに、体はもう魔力の使い方を理解しているのです。あとはユーマ様がそれをイメージしてあげればいいだけです」



 これまで俺のことを守ってくれていた力……

 本当に俺が才能無しだったなら、とっくの昔に体が塵になっていたとルミアは言う。

 俺は知らないうちに、自分の中にながれていた魔力に助けられていたのだ。


 そして今、ようやくその力と向き合うことができるようになるんだ。



「さあ、ゆっくりと目をつむってください」



 ルミア先生の指示通りに俺はゆっくりと瞳を閉じる。

 大きく息を吸って、自分の体の中の様子をイメージしてみる。

 朝の気持ちのいい空気が体の中に満たされていく。



「ユーマ様の体の中には、無数の魔素が漂っています。そしてそれらは魔力としてユーマ様の体の中を常にめぐっているのです」



 彼女がいってくれた通りの内容をゆっくりと思い浮かべてみる。

 俺の体の中にある魔素をイメージし、それらが魔力となって体中を流れていることもイメージする。

 魔力は血液の流れと同じように全身に巡り、俺の体の見えない力としてずっと俺のことを支えてくれていた。



「……何だか体が熱くなってきたぞ!」


「それが魔力の感覚です。ユーマ様は今、初めて自分の体の中の魔力を認知しているんです。あとはそれを外に放ってみるだけです!」



 魔力をイメージした途端に、体の芯から熱く燃える何かを感じ始めた。

 その熱はすぐに全身にみなぎり、早く外に放出してくれと言わんばかりに俺に訴えてきている。

 どうやら、これが俺の魔力のようだ。


 俺はルミア先生の指示通りに、右手をまっすぐ前に差し出した。

 今度はこの右手の先から魔力を放出することをイメージする。


 どんな魔法を放てばいいのかなんてわからない。

 魔法なんて知らないしカッコイイ呪文もわからない。

 とにかく今は、この体の中にある魔力を外に吐き出すことだけを考える。



「魔力を右手から発車することだけを考えてください。威力とかは気にしなくていいです。とにかく、魔力を放出するイメージを掴むんです」



 ルミア先生の声色もだんだんと興奮気味になっているのがわかる。

 俺の初撃の瞬間を前にして、彼女も期待してくれているのだ。

 ここは彼女の名誉のためにも初撃を成功させよう。


 全身に流れる魔力が全て右手に流れてくるようにイメージをしてみる。

 俺がイメージをすると、その通りに体の中にあった熱が右手に集まって来る。

 右手の指先には、ため込まれた魔力がはち切れそうなくらいに膨らんでいる。

 こんな状態ではもう抑えることなどできない。



「……来る!」


「思いっきり言っちゃってください!!」



 右手をぐっと構えて改めて前へと突き出す。

 もう魔法を放つっ準備は万端だ。


 俺の意思に答えてくれるように、体の中に溜まっていた魔力が堰を切るように勢いよく噴出した。

 右手の平から、黒い光線が真っすぐに放たれていく。



「うわああああああ!!!」



 手から放たれる魔力の衝撃に耐えられず、俺は思わず後ろへ吹き飛ばされる。

 油断していたとはいえ、まさか自分自身が吹き飛ばされるとは思ってみなかった。



 やがて俺から放たれた魔法はその勢いをとどめて消えて行った。

 俺たちが立っていた原っぱは、放たれた魔力の光線の跡の通りに大きなくぼみが出来上がっていた。

 緑色の原っぱだったはずなのに、そこにはもう草は残っていない。



「こ、これは……」


「すごいです、ユーマ様。大成功です!!」



 あまりの威力に困惑してしまう俺。

 こんな魔法を放てる能力が俺の中に眠っていたということなのだろうか……


 困惑する俺の横で、ルミア先生はひとり嬉しそうに飛び跳ねていた。



 こうして、俺の初撃は一応大成功ということで幕を閉じたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


覚醒!


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