18話 ルミア先生の魔法講座③
ルミアは、それまで書いて見せていたメモを全て破ってしまっては、バラバラに俺たちの上に放り捨ててしまった。
目のまえで散っていく紙切れたち。
そこには、これまでルミアが教えてくれた魔法と魔力の仕組みについてが書かれていた。
魔導士にはそれぞれ4つの属性が存在し、その勢力は拮抗している。
そして、そんな力関係の中で4属性のどれにも不利をとらない属性が「白魔法」という存在であり、ゆえに白魔導士と呼ばれる存在は魔導士たちの中でも特権的な力を持っている。
これまでルミアが教えてくれたことをまとめれば、ざっとこんなものだ。
しかし、講義はそれだけでは終わらない。
何と言っても、内容を教えてくれていた張本人が、その内容をすべて破り捨ててしまったからな。
ここから先、ルミア先生が話してくれる内容はつまり、これまでの常識を覆してしまうようなお話だということだ。
ルミアは新しい紙を持ち出して、再び講義をすすめて行く。
紙には、魔導士の4属性の勢力図と白魔法の力関係が書かれた図が再び描かれている。
先ほどまでと違うところは、「白魔導士」と書かれた欄の上に、意図的な空白が作り出されたことだ。
「『白魔導士』の存在は、4属性の魔導士たちのどれにも屈することのない特権的な存在。これがこれまでずっと定説でした」
「それはずっとルミアが説明して来てくれた通りだな」
「はい。この定説は、魔導士たちの常識でした。しかし、ある地点を堺に、この白魔導士の圧倒的な地位が崩されることになったのです」
「それが『黒魔導士』の登場ということか?」
「その通りです! さすがユーマ様、話が早い!」
まあ、空白に入りそうな言葉で残されているのは黒魔導士くらいしかなかったからな……
ルミアはそんなことは気にすることなく、興奮気味に「白魔導士」と書かれた欄の上に「黒魔導士」の言葉を追加した。
俺に配慮してのことなのだろうが、黒魔導士の方が一回りほど円が大きい。
「黒魔導士様の登場によって、長い歴史の中で築かれてきた白魔導士たちの圧倒的な特権は崩されることになりました。なにせ、それまで4属性だけでは有効打がないと思われていた白魔法にたいして有利をとれる存在が現れたのですから」
「白魔法ってそんなに圧倒的な力だったのか?」
「特殊な能力がほとんどでしたからね。特に『勇者』に至っては4属性のトップクラスの魔導士たちが協力してようやく相手になるようなレベルです」
勇者ってそんなに化け物じみた存在だったんだな。
あいつとずっと一緒に居て、生き延びてこられたのはある意味に奇跡だったということなんだろう。
「黒魔導士様は、そんな白魔導士たちの唯一にして最大の脅威になったわけです。ブクブクと膨れ上がった白魔導士の脅威を無力化し、魔導士たちの拮抗を作り上げてくれる『闇の救世主』のわけです」
「闇って……」
ルミアの言いたいことはわかった。
俺の持っている力は、この世界に台座している白魔導士たちに真っ向から立ち向かえる存在という訳だ。
べつに白魔導士たちよりはるかに優位という訳ではない、
しかし、これまで敵なしだった勇者に対しても対をなせる存在であることには間違いない。
ただもてはやさてていた力の正体が少しずつ判明していく。
しかし、白魔法が光であるのなら、黒魔法は闇の存在ということか。
闇。闇か……
「それって、黒魔導士が邪悪な存在でした。みたいなオチにはなっていないよな?」
「邪悪ですか? まあ、確かに文献の中には黒魔導士様のことを『闇の住人』なんて書いて、極度に畏怖するような文言はありますね」
「そうなのか……」
「しかし、こんな歴史の文献を書いているのなんてほとんどが白魔導士たちですから。わざと印象を悪く書いているんだと思いますよ。文献の中にはわざと黒魔導士を悪魔のように仕立て上げようとしている個所もありますし」
「そういうものなのか?」
「そういうものです。そもそも『闇=悪』みたいな考えが白魔導士たちの偏見です。光も闇もどちらもそれぞれの役割があるだけです。光があるから人々は闇を認識し、闇があるから人々は光を認識できる。むしろ、闇すらもかき消そうとする光の方が悪なる存在ですよ」
ルミアは冷静になりながら、黒魔法と白魔法の勢力を解説してくれた。
どうやら、黒魔導士という存在は一部の白魔導士たちからは嫌われているらしい。
文献にも書かれていた通りだが、黒魔導士の存在を悪なるものとしてでっち上げようとしてきたみたいだ。
「そもそも、ユーマ様の力が判明するまで黒魔導士様はたったお一人しかいませんでしたからね。亡くなった後はもう言いたい放題でしたよ。中には、いまだにその存在を認めようとしていない人だって大勢います」
「学園の中も案外敵が多いということか」
「だからこそ! そういう人たちになめられないためにも今から準備が必要なのです!!」
ここでルミアが俺を特訓しようとしていた理由と繋がった。
学園の中は、というかこの世界の中では俺の存在はまだ相当イレギュラーなもののようだ。
ルミアの言う「白魔導士絶対派」なんて言うのに絡まれたら相当めんどくさいことになりそうだ。
ルミアも白魔導士なんじゃないのか、なんて疑問も浮かんでくるが、彼女が味方でいてくれるというのならばここは甘えておくことにしよう。
「一応、魔力には魔法を放つほかにも、『剣士』たちのような体術を得意とする才能を持つ者のような、肉体強化をメインにする力もあります。現在のところは肉体強化よりも魔導士の存在の方が希少性は高いですね」
ルミアは紙の余ったところに、備考として他の才能の者たちの情報を書いてくれる。
これまで黒魔導士のことを語っていた時よりも、かなり熱が入っていない。
おそらく、これに関してはあまり興味がないのだろう。
「剣士たちも実力を極めた者たちは『剣聖』なんて呼ばれたりしていますが……いずれユーマ様も出会うことになると思います」
剣士たちか。
コレットと一緒に居た時に、あいつがバッサリ斬り倒しているのをいたことがあるが、あまり記憶はない。
『いちいち手加減しないといけないのムカつく』って言って、大体その後に俺がボコボコにされていたんだよな。
しかも、本気で。
やっぱりいい思い出はあまりないや。
「さあ。今日のところはこれでおしまいです。明日からは、実際に魔法を放ってみましょう!」
「お、おう」
ルミア先生の講義は、変な思い出と共に幕を閉じた。
明日からはいよいよ実技訓練という訳だ。
もうくそ勇者なんかにボコボコにされないように、俺も強くならなくちゃな。
お読みいただきありがとうございます!
魔法講座(座学)はここまで
次は実技!




