16話 ルミア先生の魔法講座➀
ルミアの機嫌も直ったところで、すぐさまルミア先生の魔法講座が始まった。
「本当に今からでいいのか? 体力持つか?」
「大丈夫です。こういうのは早いうちからやっておくほうがいいんです! と、言うよりも、私が早くやりたいのです!」
ルミアはかなりやる気だ。
徹夜明けで、さっきまで白目を剥いて気を失っていたとは思えないほどの元気っぷりだ。
本人が言っているように、今すぐにでもやりたいというのなら別に俺が止める理由はない。
俺が何でも言うことを聞くって言ったしな。
俺は全力でルミア先生の教え子になることにしよう。
「それにしても、どうして今からやるんだ? 魔法を習うくらいなら、これから学園の授業でもできると思うんだが」
「甘いですよ。ユーマ様!」
びしりと指をさして俺の間違いを指摘するルミア先生。
完全に先生モードが入っている。
そんな中でも、俺のことを”様”づけで呼ぶ当たり、彼女のまじめさが浮き出ているな。
「いくらユーマ様が強力な黒魔術師だからと言っても、学園にいる他の生徒たちはすでに魔法の基礎は叩き込まれている人たちばかりです。そんな中で何も知らずに授業に飛び込んで行ったらなめられるに決まっています」
「そういうものなのか?」
「そうです。苦しいですが、今の学園の中ではユーマ様はまだ悪い印象を持っている生徒たちの方が大半です」
「まあ、それはなあ」
「だからこそ、そんな奴らにははじめから見せつけてやらなければならないのです。実力の差というやつを!!」
ババーンと両手を上げて高らかに理想を宣言するルミア先生。
実力の差を見せつけるとか、すこし危ない思想が入ってきているような気もするが、確かに彼女の言うことも一理あるだろうな。
考えてみれば、俺もいきなり学園に編入をする訳だ。
どのクラスに配属されるのかはよくわかっていないが、俺が魔法の素養を全く身に付けていない事実は変わらない。
昨日まで自分のことを才能無しだと思っていたような男だ。
それで環境が変わったからと言って、いきなり魔法を使いこなせるわけでもないんだ。
いきなりやって来た編入生が、魔法も何も知らないとんちんかんだったら印象も最悪だろうからな。
予習は大切だ。
「それに、いくらユーマ様が絶大な力を持っているからと言っても、今勇者様と遭遇してしまったら、きっと太刀打ちできません」
「あ……」
「ユーマ様の話ですと、勇者様は相当執念深そうですし、いつ遭遇してもおかしくないように自衛の力は早いうちから持っておくべきです」
勇者、という言葉を聞いて目が覚めるような感覚がした。
そうだ、俺は確かにコレットから隔離されることには成功したものの、絶対の安心を得たという訳ではないのだ。
学園長は安全だと言っていたが、コレットと近い場所に住み続けていることは変わりはない。
もしあいつが無理やりおれのもとに駆け付けようとしたら、きっとそれを止められるような人間はほとんどいないだろう。
そうなってしまった時、最後は自分自身でその身を守らなきゃいけない訳だ。
力は、確かに必要だ。
「わかった。ルミア、俺に魔法を教えてくれ」
「はい!!」
ルミア先生は嬉しそうにうなずいて見せた。
彼女もこの学園を卒業している、いわばエリートだ。
そんな彼女が魔法を教えてくれるというのだから安心していいだろう。
それに、ルミアは俺が考えている以上に俺のこれからのことについて考えてくれていた。
これまでの俺の身の上まで考慮してくれて、それでもって早いうちからの魔法の特訓を進めてくれているのだ。
ルミアは、確かに俺の味方だ。
そうわかったからこそ、俺は彼女に全幅の信頼を置くことにした。
「それでは始めましょう!」
「おう!」
登り切った朝日のもとで、高らかにこぶしを振り上げる俺たち。
いよいよ魔法の特訓が始まった。
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