14話 何が軽いトレーニングですか!!
あけましておめでとうございます
早朝のトレーニングをルミアと一緒に始める。
俺とルミアの初めて共同作業だ。
朝のルーティンは、まだ日が昇り切る前から始めないと意味がない。
一日の大事な時間を一分たりとも無駄にはしたくないからな。
とは言っても、朝目覚めたばかりの身体だ。
あまり無茶に動かすのもよくはない。
朝は軽い運動に済ませている。
基本は、学園の裏山を軽くランニングだ。
学園の裏にそびえたつ山を、ちょうど一往復すると朝日が綺麗にあたりを照らし始めてくれる。
この朝日を浴びながら、温まってきた体をほぐすのが一番目が覚めるのだ。
ルミアと一緒なら、いつも通り走り出しても大丈夫だろう。
そう思っていたはずだったんだけど……
「ハア、ハア……待ってください、ユーマさまぁ……」
「どうしたんだ。もうばてちゃったのか?」
いつも通りトレーニングを行っていただけなのだが、いつの間にか俺はルミアからかなり距離を開いて走ってしまっていた。
最初は意気込んで俺についてきたルミアも、いつの間にかゼーゼー息を切らしながら、もつれそうな足で必死に前に向かって進んでいた。
彼女だって、この学園の卒業生なのだからある程度の体力はついているはずなんだけどな。
……どうしたんだ?
やはり、徹夜明けの身体では運動は厳しかっただろうか。
彼女の元気いっぱいな姿を見て忘れてしまっていたが、彼女は一応徹夜明けなのだ。
どれだけ口では余裕だと言っていても、やはり体は正直なのだろう。
俺も一応いつもよりゆっくりめで走っているつもりだったが、彼女の身を案じるならもっと遅い速度で走るべきだったな。
立ち止まっている俺のもとへ、ようやくルミアは追いついた。
もうランニングというよりかは、ただ歩いているだけと言った方がよかったが、それでも彼女は息を切らしながら何とかたどり着いた。
「もう、ユーマ様! 何が軽いランニングですか!」
「すまないな。徹夜明けだってことをもっと考慮しておくべきだったな」
「徹夜明けは関係ないです。それくらいの状況下で動けるくらいには私も訓練されています」
「そんなこと言っても、息切れしているじゃないか」
俺にはルミアが徹夜明けだということで心配されないように気を使っているのかと思っていた。
しかし、当の本人は、息を整えるとグッと見上げるように俺の顔を覗き込んだ。
「ユーマ様が早すぎるんです! こんな速度で走れる人なんて、学園中探しまわっても一握りしかいませんよ!!」
「そうなのか? これでも結構ゆっくり走っているつもりなんだが……」
「やはりユーマ様は、魔力だけでなく体力も規格外なんですね」
ルミアは改めて俺の方を見てため息を吐いた。
俺としては別に変ったことはしていないはずなんだが。
「なんか、ごめん」
「いえいえ、謝らないでください。私としては、主様が素晴らしい方だということを再認識できてうれしい限りです」
お世辞ではないと示すように、ルミアは満足げに笑って見せた。
事務室で出会った時の硬い表情はもうすっかりなくなっている。
弟子というのはかわいいものだ。
しかし、”主様”と言う言葉には、すこし違和感が残るな。
「俺は、主ではないけどな」
「じゃあ、なんなのですか?」
「うーん……師匠?」
「同じようなものじゃないですか」
何度か訂正しようとするも、ルミアは言葉巧みにそれを回避して見せる。
使う言葉自体には絶対のこだわりみたいなものはないし、関係性がそれで変わるわけでもない方別にいいっちゃいいのだけどな。
しかし、それでもこのままルミアのペースで終わってしまうのは、師匠としては示しがつかないな。
こういう時は……そうだ!」
「え?! ユーマ様、こ、これは一体……」
「主様は、お前をおんぶして山を下ることを決めた。一気に駆け降りるからしっかり捕まっておけよ」
俺はぐったりしていたルミアの体を抱えて、そのままおんぶを決行した。
疲れていたはずのルミアも、これには声を裏返して驚いてくれた。
恥ずかしさのあまり悶えようとするルミアをしっかりと押さえて走る準備をはじめる。
これ、俺流の修行だ。
はずかしかったら体力も付けよう!!
「ちょ、ちょっと、この格好恥ずかしい……ってわあああああああああああああ!!」
背中から聞こえるルミアの絶叫を楽しみながら、俺はいつも通りのスピードで山を駆け降りた。
いつものルーティンに新しいメニューが加わった。
お読みいただきありがとうございます!
おんぶされたくなかったら、自分の足で食らいついてみな!




