12話 かわいい弟子ができました
あらすじ
事務員の女の子が自分のことを僕にしてくれと懇願してきました。
「私のことを僕にしてください!!」
「ええ……」
夜中、突然やって来たルミアは、突然頭を下げて懇願してきた。
あまりに突然のことで、俺は困惑する。
いったい、どうしてこんな展開になったんだ?
俺はさっきまで一人で部屋でくつろいでいたはずだ。
初めてできた自分だけの空間に、すこしながら光悦感も抱いていた。
そして、それから何の前触れもなくルミアが部屋にやってきて……
だめだ、どれだけ振り返っても、なんでこんな展開になったのかはわからない。
「お願いします! 黒魔導士様のおっしゃることでしたら、どんなことでも致しますから、どうかわたしを黒魔導士様の僕として置いてください! 奴隷でも、なんでも構わないんです!」
ルミアは何度も頭を下げては俺に縋り付いてくる。
今にも、土下座をしてきそうな勢いだ。
一回、一回とお願いをするごとに彼女の声が大きくなっていく。
それだけ、彼女の感情も高ぶっているということなのだが、このままだと寮の中に彼女の声が響き渡ってしまう。
「と、とりあえず中に入って」
どうしようもないので、とりあえず彼女を引っ張って部屋の中に引きずり込む。
部屋の中で泣いている女の子を部屋に引っ張っていくなんて、外野から見たらなんとも危ない光景かもしれない。
しかし、俺だってどうしたらいいのかわからないんだ、仕方ないだろ!
今にも床に額を付けそうになっていたルミアは、力ないままに引っ張ることができた。
ふっと俺のことを見上げる彼女の顔は今にも溢れそうな涙がたまっていた。
これは、ただ事ではないらしい。
「……それで、一体どういうことなんだ?」
部屋にルミアを入れてから、まずは彼女が落ち着くのを待った。
あのままだと、何と答えても「僕にしてください」としか言ってくれなさそうだったからな。
取り乱していたルミアも、静かな部屋の中でようやく落ち着きを取り戻し始めた。
少なくとも、もう俺の足に縋り付いてくるようなことはしない。
しかし、まだその顔は床を見つめたままだった。
「先ほどは取り乱してしまいまして申し訳ありませんでした」
「まあ、驚いたが気にするな。それよりも、どうして、急に僕にしてほしいなんて言い出したんだ?」
「……私は、黒魔導士様にとんでもない失礼をしてしまいましたので」
それからルミアはポツリポツリと事情を話してくれた。
どうやら、俺の編入が決まったあの後、ルミアは学園長に直々に呼び出しを食らったらしい。
そして、そこで事務員としての職を首になり、俺の奴隷として暮らすように言い渡されたということだったのだ。
簡単に言えば、学園から追い出さないでいてあげる代わりの左遷という訳だ。
あの学園長、俺の前じゃ笑っていても、冷酷に物事を進めるらしいな。
「そんなもの、別に俺がルミアのことを許すって言えば元通りになるんじゃないのか?」
「それじゃ、私の気が済まないんです!」
うつむいていたルミアが、ガバッと顔を上げて俺に接近した。
扉の前で懇願してきた時とは、また違う迫力で迫られる。
「そんな風に、黒魔導士様に赦していただいたとしても、私が黒魔導士様を退学させようとしていた事実は消えないのです。それに、私はその前にも黒魔導士様に大変多くの失礼をかけてきてしまいました」
「そんなの、俺が才能無しだと思っていたからしょうがないだろう」
「それでも、それでも……だめなんです」
再びルミアの瞳に涙が浮かぶ。
彼女はまじめな人間だ。
きっと、俺が考えている以上に自分のやったことに責任を持っているのだろう。
「もし、俺がルミアを受け入れたくないって言ったらどうなるんだ?」
「……」
ルミアは再びうつむいてしまった。
唇が震えていて、そこから先の答えを言うことを拒んでいるように見える。
この様子だと、どうやら俺が嫌だといいましたからやっぱり事務職に戻ります、みたいな展開は待っていないのだろう。
順当なところで行くと、このまま学園を追放されて故郷に帰るといったところか。
いや、故郷に帰れるかどうかも怪しいか。
この学園にいる人々を見ている限り、この学園に籍を置いているということは、国民としてもかなりの誇りらしい。
そこから、大惨事を起こして学園を追放されて故郷に帰ってきました、なんて言えるのだろうか?
きっと、ひどい扱いをされるかもしれない。
あるいは、学園側が不利益な情報を流す前に抹消する可能性もあるか。
ルミアはそれなりに情報も握っているだろうしな。
学園長が俺に言っていたことを考えてみれば、こんな1人探すことくらい造作もないことなのだろう。
それに、この調子だと自分でやったことを重く悔やんで自殺をしてしまう可能性だってある。
どれにせよ、ルミアが平穏に暮らせそうな未来はほとんど残されていない訳だ。
「もし……」
どうしたらいいものか考えあぐねていると、ルミアが震える声で話し始める。
声だけではない、彼女の全身がもう震えが止まらないようだ。
「もし、黒魔導士様が嫌だというのでしたら、それは仕方ありません。私はそれだけのことをしましたから。この場からもう消えることにします」
「それで、お前は本当に大丈夫なのか?」
「ええ……大丈夫です」
そんなに震えて、何が大丈夫なのか。
自分はもう死ぬから大丈夫?
そんなのあっていいわけないだろ。
勇者とか、黒魔導士とか、そんな才能だけで完璧な人間になれるとは思っていない。
でも、そんな才能を持った人間が周りに現れることで、自分の人生がまるっきりくるってしまうこともあるんだ。
きっと、彼女は数年前の俺の立場なんだ。
俺だって、彼女をそんな風にしたかったわけではない。
でも、もし、このまま彼女を放置してしまったら。第2の俺をうみだしてしまうのだろう。
……それは、嫌だな。
「わかったよ。受け入れることにするよ」
「……本当ですか?」
「ああ。でも、僕とか奴隷とか、そう言うのはなしだ。そう言うのは嫌なんだよ」
「ああなるほど……では、しかし、どうすれば?」
困ったな。
こういう時、彼女のことをどういう形で受け入れればいいのだろう。
僕とか、奴隷とかそう言う関係は絶対に嫌だ。
そんなのはコレットとやっていることが同じだ。
友達でいいんだけど、ルミアは全力で首を横に振っているしな……
うーん困ったな。
こういう微妙な関係とかよくわからないんだよな。
「……弟子?」
ルミアが目を輝かせた。
こうして、俺に可愛い弟子ができました。
お読みいただきありがとうございました!
ルミアちゃんは、恥ずかしいところも見せちゃってるからねえ……




