10話 勇者は1人悔しさに悶える(コレット視点)
タイトル変更しました。
ユーマが黒魔導士の才能に目覚めているちょうどその頃、ユーマに見限られたコレットは、1人悔しさに悶えていた。
「どうして私に逆らうのよ!!!!!!」
自分が勇者の才能に目覚めてからというもの、幼馴染であるユーマはずっと自分のおもちゃだった。
どれだけ理不尽な要求をしても決して逆らうことのない、最高の理解者にしてサンドバッグ。
本当は、度重なるコレットからの理不尽に、ユーマが諦めてしまっていただけなのだが、コレットはそれを彼からの親愛の証だと勝手に受け止めていた。
彼は、私のことをわかってくれている。
そして、私も彼のことをわかっている。
コレットの一方的な思い込みは、二人の間で歪んだ関係を生み出してしまっていたのだった。
しかし、とうとうユーマの堪忍袋も緒が切れてしまった。
いつもなら、ユーマが一緒に居てくれる時間に、彼女は今一人で地団太を踏んでいなければいけなくなった。
「これだけ私が可愛がってあげていたというのに、反発するなんて頭おかしいわよ!」
普通の人にとっては、勇者というのは誇り高き神聖な存在だ。
勇者と他の人間では、関係が釣り合うものではないと感じている。
勇者という存在にかまってもらえるだけでも、泣いて喜ぶべき出来事なのだ。
事実、コレット自身もそのように敬われることにはもうすっかり慣れていた。
なにせ、小さい頃から周りの大人たちが自分に対して頭を下げてきていたのである。
その思い出は、彼女をどんどんと傲慢にしていった。
今ではどこの独裁者よりも己のことしか考えない、暴君が誕生していたわけである。
もちろん、彼女自身にはそんな自覚はない。
「大体、私から逃げたってどこに行けるっていうのよ。あんな『才能無し』じゃ、ここからもすぐに追い出されるだろうし、どこかで野垂れ死にして終わりよ」
私なしで、あんな無能が生きていけるわけがない。
彼女は本気でそう思っている。
彼女はまだ知らない。
自分がさんざん罵ってきた幼馴染が、実は自分と肩を並べる程の力の持ち主だということを。
本来なら、自分がさんざん特大の攻撃を放っているのに、ユーマがギリギリ生き延びている時点で気が付いておくべきだったのだ。
さらには、自分の攻撃を受け流してしまった時点でもまだ間に合ったかもしれない。
しかし、彼女はそんなこと認めようとはしなかった。
ユーマは才能無しだ、私がこうして好きにしていい人種なんだ。
そう思い続けて、彼の微細な変化にも目を向けようとはしていなかった。
今だって、彼女の脳裏にあるのは、離れて行く時のユーマの顔だけである。
ただ、彼が裏切ったことへの怒りに震えているだけだった。
「……まずはユーマを捕まえないとね」
気持ちを切り替えて、コレットはさっそくユーマを連れ戻す作戦を考え始める。
彼はまだここを出たばかり。
いくら自分から離れて行こうとしたって、そう遠くへは行っていないはずだ。
今から総力上げて探しに向かえば、必ずしっぽを掴める。
学園の力……いや、国の力を上げて捜索をすればいい。
いくら、潜伏がうまい人間だって、国中から追手がくれば逃げ切れるはずがない。
彼女の中で、完璧な作戦への妄想が膨らむ。
それが全て無駄なことだとは知らずに。
「フフフ、楽しみね。ユーマのやつ、私を敵に回したらどんなことになるか、たっぷり教えてあげないとね」
彼女の中では、ユーマに対するしつけの様子が目に浮かんでいる。
勝利はもう自分の手の中にあると信じて疑わなかった。
「まずは、そうね。エミリーのババアのところに行って、協力を要請しないとね。アイツなら、国の貴族どもを動かすのも難しくはないでしょうし。それになんて言ったって、勇者である私の願いなんだから♪」
コレットは意気揚々と学園長のいる部屋へと向かっていく。
彼女は、まだ、自分の行為がユーマの才能の芽をつんでしまっていたことには気づいていない。
そして、それが周りまわって自分自身の首を絞めているのだということも……
彼女がユーマの才能の目覚めを聞かされるのは、まだ少し後の話である。




