現代グリム童話1
1.創生の大樹
探索を始めてかれこれ5時間、使えそうな部品は見つけたものの、さびが酷く使い物になりそうになかっ た。
「今日はいつもよりも遠くにきてみたんだけどな…。そろそろ帰るか。」
帰り支度をしているその時、木々が騒がしくなり始めた。
「地震だ!」
僕はとっさに周りの開けた場所へ避難した。
「随分とでかいな、唯は大丈夫か?」脳裏に嫌な思い出がよぎった。
「唯!大丈夫か!」
「お…お兄ちゃん、あ…足が動かなの…。」
「…‼ な、な、なんとか、か、兄ちゃんがしてやるからな!」
「…早く帰らないと!」
揺れる中、何とか進もうとした時、地面が裂けた。やがてその中から巨大な木が姿を現し、揺れがそれと ともに収まった。
巨大な木の幹からどんどん葉が生い茂り、空を覆っていった。
「一体何が…」
「創生の大樹の誕生だよ。」どこかで聞いたような声が木の枝のほうから聞こえる。
「やあ!夢の中ぶりとでもいえばいいのかな?」愉快そうな声で語りかけてくる少年が言った。
「お前は誰だ…」
「俺かい、俺はハーメルン。グリムⅪ区統括Ⅻ針長統括をしているよ~」
「グリム…」聞いたことのない地名だった。
「創生の大樹ってなんだよ」
「質問が多いな~ まあいいや。簡単に説明すると、地上をリセット、つまり、自然に害をなす地上人の 生命を吸い尽くし、根絶やしにする木だよ…」と、冷たく言った。
「なんでそんなことを…、人間が何をしたっていうんだ!」訳が分からない、なにが起こってるんだ…
すると、さっきまでの笑顔が消え、怒りに満ちた表情でハーメルンは言った。
「なんで…か。お前ら地上人はみんなそういうよな~。理由は単純だよ、お前らが環境を破壊するせいで 俺らグリムに住む民たちが苦しんでんだよ‼ それから破壊するだけの下等生物風情が"人間”を語る なー!」
「…」僕は何も言えなかった。
「ごめんごめん! 取り乱してしまったよ~。何しろ会いたくもなかったものだからね。あの方も人が悪 いな~。」
「あの方…」一体誰のことだ?
「話が逸れてしまったね~。流石に君たちも一方的に根絶やしにされるのは嫌だろ~♪ そこで君たち地 上人にはグリムの地に来てもらいⅫ針長と戦ってもらう! 全員に勝てたら地上は滅ぼさない、ついでに なんでも 願いを一つ叶えてやるとのことだ…。 ほんと、あの方は甘い…。」
「なんでも…」
「そう!なんでも!わかってんだろう~、妹の義足なんてできっこないって。 まあ、その前に彼女は死 ぬだろうけどね~」
「どういう事だ!ゆ、唯が死ぬって…」声が震えた。
「何にも知らないんだね~っとそろそろ戻る時間だ。続きはまた夜に… 迎えに行くよ。」
そう言ってハーメルンの姿は薄れるように消えていった…
「…唯!」
僕はさっきの話が気になり急いで帰路に着いた、これから起ころうとしている"終わりの始まり”であると 考えもせずに…
「大樹の様子はどないやった?Ⅻ?」
「そのしゃべり方は今のマイブームですか~? まあ、いいんですけど。 良好でしたよ~」
「ならええ、精々頑張ることやな。 うちはルールさえ守ればそれでええ。 本能のままに動くことや な。 うちはあくまで中立やからな。」
「はい、今晩から始めさせていただきます…」
登場人物
地上人
僕:審判の日以前の記憶がなく、名前がない。唯と二人暮らしをしている。
唯:僕の妹、足が不自由だがなんでも自分でこなそうとする。兄をとても信頼している。
グリム
ハーメルン:グリムⅪ区統括兼Ⅻ針長統括を任務としている。
あの方:ハーメルンの話から出てくる上位の者と思われる人物。