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先生になりたい!

作者: 浅野 ヒカリ

僕の街には、不思議な「先生」がいる。


また今日も学校である。春も終わりが近づいてだんだん太陽が元気を取り戻してきた。妹に別れを告げ、学校へ向かう。春なのか夏なのかどっちにも似ていない日差しと気温。そんなことはどうでもいいがとにかくはっきりしてほしい。春にはもう飽きてしまった。それでも変わらない天気と今日も一日過ごさなければならない。

 聞き飽きた授業開始のチャイム。

 「今日も先生遅いね。」

 いつも授業が始まるとこの言葉でクラスの中があふれかえる。そしてまたにぎやかになる。このくだりにはもううんざりである。もう何度も待たされている。高校になったら…。なんてものは考えないほうがいい。そうやって来世の自分には、言い聞かせておこう。運命は変わらないのだ。この人生が運命ならば受け入れるしかあるまい。中学校生活はなんとなく過ぎてしまい、あっという間に高校に迎えられてしまった。心の準備なんてものはない。まってもくれない。なんとなくもやもやする。そしておさまる。一日一日がかけがえのないものだとは気づいていなかった。気づけば高校3年生。受験生と呼ばれるこの時期に、「先生」は授業に遅れてきたり、まともに話も聞いてくれない。こんな人たちは「先生」なのだろうかと、僕たちは思っていた。中学校の頃の友達は、もう勉強 で忙しそうなのに。本当にこのままでいいのだろうか。そう思っていた時に、その人は現れた。運命が変わった。それともこれが運命なのか。


 朝のHRの時間にやってきた「先生」が連れてきたのは 転校生 だった。


雪乃(ゆきの) かえで


これが彼女が名乗った名前。とても明るい感じの女子だった。しかし、この時の僕たちは転校生だと彼女をあなどっていた。



転校して1週間たった休み時間。クラスの中がいい活気に満ちていく。そんな中、雪乃は、教卓で話し始めた。

 「みなさん、面白いことってありますか?面白いことは、見つけにくいです。楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、たくさんのことで世界はあふれている。でも、面白いことなんて私は見たことがないんです。私は、この学校をどこにいるときよりも面白くしたい!みんなに面白いを、増やしてほしい。そして、私に見せてほしい!でも、この学校の、世界中の先生は、そんなことを許してはくれない!だから…。私は、学校、いや…世界を変えられるくらいの面白いをこの学校で作れるようなこのクラスの先生になりたい!!」


 驚いた。そんなことを言えるひとがこの世界にいることが、そして、同じクラスにいることが。彼女の言葉は、残り少なくなった休憩時間のひとつのクラスを騒がしくさせた。空にはうっすらと雲がかかり、日がさしたり陰ったり。なんとなく気分が下がってくる時間帯。先生か、面白いじゃないか。残り一年を切った高校生活、これから何が起きるのだろう。転校してきた彼女はこの学校をどう変えてくれるのだろうか。僕はなんだかたのしみになってきた。彼女が作る学校で生活をすることが。


 

雪乃先生は、こうしてこのクラスの先生になった。




「行ってきます」

 今日もいつものように家のドアを開けて妹に別れを告げて学校へ向かう。今日は春に戻ったような陽気に包まれ気持ちがいい朝だ。

 「おはよー!」 

 「雪乃か。おはよう」

 いつものようにあいさつをしてくる雪乃はなんだか先生の様だった。最近は仲良くしてくれている普通の友達である。ただ、みんなよりはるかに頭がいい。勉強のことを聞くと丁寧に教えてくれる、とてもいい僕たちの先生だ。

 「おはよう! 雪乃ちゃん!」

 「おはよー! えっと・・・」

 「見崎だよっ! よろしくネっ!」

 「よ、よろしく」

 見崎は、僕の幼なじみで、近所に住んでいる。小さいころからよく遊んでくれる、いい友達だ。

 「あぁぁぁぁ!学校はじまっちゃうよ-!急がないと!」


 

 この学校は、どこにでもある普通の学校である。これといった特徴もない街にある。それでも都会と言ったらウソになる。田舎でもない。はっきりしない。それでも生まれ育った町だから愛着がないわけでもない。だからといって好きでもない。だれでもそんなところだろう。

 「永峰っ! 外においしいものでもあるのか? 授業に集中せんか!」

 「すいません。」

 いい忘れていたけど僕の名前は 永峰ながみね 陽太ようた。とくに特徴もないただの高校生。

授業では、いつも怒られてばっかり。正直あんまり授業についていけていないのだ。親とは離れ妹もついてきた。なかなか勉強ができていない。



 放課後。僕は雪乃に呼び出された。

「永峰君。勉強会しない?」 

 「えっ!?どうして?」

 突然な誘いに戸惑ったもののそれはとてもうれしい誘いだった。

 「だって、授業に集中できないんでしょ?だから追いつけるように私が教えてあげる」

 先生にはかなわない。なんでも知っている、まさか神なのか?

 「私はいつでもいいからしたい日に呼んでね! 見崎ちゃん誘ってみよっか!」

 はぁ。どうすればいいのだろうか。だれかおしえてくれないだろうか。誰でも先生と二人きりになったら緊張するものではないのだろうか。でも、見崎と一緒に勉強すれば緊張もほぐれるかもしれない。

 「じゃあ、見崎誘ってもらっていいですか?いつするかはあとで言いますね。それではまた明日。」

 「また明日。バイバーイ!」

 まずい。一方的に別れてしまった。大丈夫なのだろうか。女の子とはあまりかかわらなかったこの人生。なかなか素直に話せない。勉強会といっても女の子ばかりだから、大丈夫だろうか。不安が多い。そして、また一日が終わっていく。帰り道、空には、月がかかっていた。今日もきれいな星空だ。



 「はーやーくー!起きてよー!」

 「もう朝か・・・。」

 「昼ですよ。お兄ちゃん。」

 「えっ!?」

 ベットから慌てて飛び出し時計を手に取る。

    十一時四十二分 

 今日はみんなで勉強会をする日だ。集合時間は12時。間に合わない。

 「すまん。少し出かけてくる。」

 「お兄ちゃん?どうしたのかしら。」

 勉強道具を持って家をでる。時間がない。でも、雪乃の家までは走って20分。まだ間に合う。そう思った時だった。信号で重そうな荷物を持っているおばあさんを見つけた。助けるしかないだろう。おばあさんの荷物を持って横断歩道をゆっくり渡った。

 「助けてくださって、ありがとうございました。なんとお礼を言ってよいのやら。」

 「大丈夫ですよ。お気になさらず。気を付けてくださいね。」

 人を助けることはとてもすがすがしいことだ。いいことしたな。やばい。急がないと。思わぬところで時間を使ってしまった。間に合わない、遅れてしまう。なんだか焦っていたようだ。こんな気持ちは初めてだ。友達と待ち合わせなんてしたことがない。新鮮だ。楽しい、という言葉で表すような感情で胸がいっぱいだ。走っている僕を押してくれるような爽やかな風に手助けしてもらい、気分がのりだしてきたところで僕は感じ取った。この季節には似合わない僕の邪魔をしてくる冷たい風を。

 「長峰。こんな時間に何をしているんだ? 勉強は…。そうか、すまないな、いつも余裕で解けてしまうぬるい問題で。満点確定だな。」

 「先生。そんなことないです。僕は…」

 言い切る前に先生は去ってしまった。なぜあんなにも人の話が聞けないのだろうか。むしろ感心してしまうくらいに。先生になると人格は変わってしまうのだろうか。それとももとからなのか。一気に気力を失った僕は十五分遅れて雪乃の家にたどり着いた。 そして目を疑った。

 「貴族か…」

 なんというか、とにかくでかい。そしてきれいだ。そして呼び鈴の代わりにライオンがリングをくわえている。なんの冗談だよ。笑てしまいそうだった。はじめての挑戦にむけて心の準備をした。

 「すいま…」

 ドンッ!

 「い…たい。 …見崎っ!?」

 「永峰じゃん! 遅かったね!」

 その前にゆうことがあるんじゃないかな、と思ったが自分も悪い。それに遅れたのも自分だ。見崎に怒ることは何もない。怒られるのは自分だ。

 「永峰!雪乃ちゃん待ってるよ!」

 中に入るとまた一層と貴族感が漂っている。もうおなかいっぱいだ。見崎はなぜ倒れないでいられるのだろうか。不思議で仕方がない。僕は倒れそうだ。考えているうちに一つ、また一つと部屋を通り過ぎていき、ようやく雪乃がいる部屋にたどり着いた。彼女は、コーヒーでも入れているのだろうか。キッチンらしき場所で何かしている。

 「永峰君! 遅かったね!」

 「ごめんなさい」

 「いいよいいよ! 来てくれてうれしい!」

 そう言って彼女は僕が想像していたのとは違って紅茶を出してくれた。透き通った上品なオレンジ。お皿にはミルクがのせてある。

 「砂糖はテーブルの真ん中にある瓶に入っている角砂糖をつかってね!」

 どこまでも貴族である。かっこいい。紅茶は適度な温かさで飲みやすい。でも一口では飲みきれない。どんなつぎ方なのだろうか。教えてもらおうか。でも、ここで飲むからこそおいしいのかもしれない。そんなところだろう。やっと紅茶を飲み終わったところで、雪乃先生の授業が始まった。聞き飽きたチャイムはなく、内容も分かりやすい。時々笑いをはさみながらも、三時間でテストの範囲を終えてしまった。先生はすごい。時間があっという間に進む授業なんて初めてだ。

 「もう帰るの? わかった! じゃあねー また来てね!」

 「わかった。じゃあな」

 なんでいつもこうなんだろう。人に感謝を伝えられない。本当に感謝している。言い切れないくらいだ。何も言えない。そんな日々が続く。いつか言える日が来るのだろうか。そんな運命があってほしいものだ。

目の前の山際は、オレンジ色に染まり太陽が消えていく。徐々に暗くなり、半袖では寒いくらいになった。太陽はいつもこの星を照らす。それが太陽の運命。変わることはないのだ。運命って何だろう。誰が作ったかもわからない言葉。そんなものに縛られていると思うと不思議な気持ちになった。




 




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