第29話
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「「「………」」」
紗弥達が浴場で騒いでいるころ、男湯では高志達のクラスの男子が、壁に耳を当てて隣の女湯の音を聞いていた。
壁越しに聞けてくる、女子達の声に男子生徒達は鼻から血を流す。
高志と泉はそんなクラスメイトの様子を呆れながら見ていた。
「はぁ……あいつら、本当に覗く気か?」
「まぁ、壁も高いし……見た感じ隙間も無さそうだけど……」
「まぁ、無理だろうな……それに、保険もかけたしな」
「保険?」
「見てればわかるよ」
高志の言葉に疑問を持ちながら、泉は湯に浸かり様子を見ていた。
「くそぉぉぉぉ!! さがせぇぇぇぇ!!」
「この壁の向こうに桃源郷がぁぁぁ!!」
「見にくいな」
「そうだね……」
必死で覗き穴を探すクラスメイトを眺めていた。
しかし、いくら探しても覗けそうな穴が無く、クラスメイト達は途方に暮れていた。
「く……くそ! 穴なんてねーぞ!」
「どうする!? この壁は上れないぞ?」
「諦めるのか! この向こう側には、宮岡に御門、それに西城も居るんだぞ! 裸で!」
「クソ!! なんで俺は空を飛べるの能力の一つも持ってないんだ!!」
「俺だって! なんで透し能力を持ってないんだ!!」
悔しそうに地面に膝をつき、拳を地面に叩きつける、高志のクラスメイト。
仕舞いには肩車をし始め、高志も泉もそんなクラスメイトを見てアホだなと思っていた。
「頑張ってるけど無理そうだね」
「当たり前だ、覗きなんて……大体俺だって紗弥の裸なんて……」
「あ、高志も本当は見たいんだ」
「そ、そう言われるとなんか語弊があるが……よく考えてみろ! か、彼女の肌だぞ! み、見たいだろ……あいつらとは違う!」
「あ、じゃあまだなんだ……」
「う、うるせぇ!! 誰がへたれだ!」
「誰もへたれなんて言ってないだろ? でも、良いんじゃない? 人それぞれペースがあるし」」
「い、いや……しかしだ……紗弥ばっかりが頑張っている気がしてな……」
「あ、じゃあ宮岡さんに迫られたんだ」
「ま、まぁそうなる……男として、そこまでしてくれた彼女に恥は掻かせたのは申し訳ない……」
「え? じゃあ断ったの?」
「いや、紗弥の母親がな」
「あぁ、親に見られたて邪魔されたんだね、大変だったね」
「ま、まぁな……」
高志が泉に聞かれるままに、この間紗弥との間にあった出来事を話す。
恥ずかしそうに離していた高志に対して、泉はなんだか楽しそうだった。
「でも良いじゃん。そういうお互いを大切に思ってる感じ、高志と宮岡さんって結構理想のカップル像なのかもね……まぁ、少しイチャつき過ぎな事もあるけど……」
「そ、そうか!?」
泉に理想のカップルと言われ、機嫌を良くする高志。
そんな高志に一人の男子生徒が近づいてきた。
「やぁ、高志君」
「ん? あ、倉島! なんか喋るの久しぶりだな」
「そうだね、隣良いかな?」
「おぉ、いいぞ」
やってきたのは、さわやかな男子生徒だった。
背が高く、高志や泉よりも五センチほど高かった。
「えっと……高志……」
「あぁ、すまんすまん。こいつは倉島聡って言って、俺の一年の時のクラスメイトだ」
「よろしく、君は転校生だよね?」
「あぁ、よろしく」
泉は倉島に頭を下げる。
倉島聡は一年の頃に、高志や優一と同じクラスだった男子生徒だ。
勉強が良く出来、成績が優秀だったのだ、クラスにあまり馴染めず、一人で居ることが多かった。
そんな倉島に声を掛け、クラスに馴染ませたのが高志だった。
「こいつは凄いんだぞ、入学してからずっと学年一位で頭が良くてな」
「やめてくれよ、勉強は出来ても、高志みたな対人能力は無いし……」
「いやいや、一年の頃より全然普通だろ? 今のクラスも馴れたか?」
「うん、おかげさまで」
高志と倉島は昔話しに鼻を咲かせる。
泉が一人にならないよう、ちょくちょく高志は泉にも話しを振っていた。
しかし、泉は倉島の事が少し気になった。
その理由は……。
(なんでこの人、高志の下半身を凝視してるんだろ? 気のせいかな?)
倉島は高志の下半身に視線を送っていた。
しかも、必ず高志が視線を倉島から外した時にだ。
泉は高志の話しを聞きながら、倉島に少し違和感を覚えていた。
「倉島達は明日どこに行くんだ?」
「清水寺だよ」
「お、俺たちと一緒だな! 会ったら一緒に写真撮ろうな」
「うん、良いよ。ところで……」
「ん? どうした?」
「高志が宮岡さんと付き合い始めたって本当かい?」
「え? あ、あぁ……ま、まぁな……」
照れながら答える高志に、泉が茶化すように言う。
「ラブラブだもんね」
「よ、よせよぉ~。まぁ本当だけど……」
「「アハハハハ」」
バキ!!
そんな何かが割れるような音が、高志と泉の笑い声をかき消した。
何事かと思い高志と泉は、音のした方を見る。
そこには割れた木製の風呂桶があった。
「なんだ? 誰かが投げて壊したか?」
「いや、でもなんか握り潰した見たいな割れ方だけど……」
高志と泉が不思議そうに風呂桶を見ていると、突然倉島がお湯から上がり始めた。
「ごめん、先に上がるね」
「え、もうか?」
「うん、そろそろ晩ご飯の時間だし、じゃあ高志また後でね」
「お、おう……急にどうしたんだ?」
泉と高志はそんな倉島の背中を見ながらそんな事を話す。
その時泉は気がついてしまった。
倉島の右手に何かの木くずが付いている事に……。
「おい! 見えたか?!」
「も、もうちょい!!」
高志達が倉島と話しをしている間に、繁村達覗き賛成派の男子生徒達は、肩車で高志壁の上を目指していた。
あと一人上れば向こうが見えるというところまで来ており、今は繁村が昇り始めていた。
「す、すごいね……このやる気をなんで他に向けないんだ……」
「あぁ、大丈夫だって。多分そろそろ……あ、来た」
「え?」
高志はそう言って、風呂場の入り口を見る。
泉も釣られて入り口を見ると、そこには高志達のクラスの担任の石崎がタオルを巻いて浴場にやってきていた。
「おまえら~覗きなんてしたら、夜中に二時間の正座だからなぁ~」
「げっ! 先生!!」
「な、なぜここに……ってうわっ!!」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
石崎の登場に驚き、覗きを実行しようと肩車をしていた男達はバランスを崩して倒れてしまった。
「はぁ……馬鹿共が……」
石崎はそう呟きながら湯に浸かる。




