第1章‐2
人々が眠りにつく静かな夜。そこをしのび足で歩く人影がある。足音を立てないように静かに素早く歩いている。よく見るとまだ幼い少年。怖いのか少し震えている。
数十秒後、とある家の前で足を止めた。ようやく家にたどりついたのかと思ったが、彼は家の入り口から入るのをためらっている。暫く入り口の周りを見ているが、なかなか入ろうとしない。何かを探すように家の外を歩き出した。
家の周りを注意深く見ていると、小さな小さなすき間を見つけた。彼は嬉しそうにそのすき間に自分の体が入るのか試すように、中へと入っていった。
「うわーーー」
中に入れた喜びから、つい声が漏れてしまった。
慌てて口を押さえる。彼の声に気づいたモノはいないらしい。というか、人の気配すらない、ようだ。
ほっと胸をなでおろす。
再び彼の冒険が始まる。明かりがないため、暗い室内を歩くことになる。
――こんなことなら、なんか明かりになるもの、持ってくればよかった。
長く暗い道を歩いてきてはいたので、そこそこ目は慣れてきてはいた。しかし、室内だと外の星や月の明かりが外より少なくなる。その分、死角は増えてはいる。
――ああ、どうしてこんなとこ、きちゃったんだろう。
ここにきて、彼の中に後悔が生まれる。
そもそも彼がここにいる理由。
彼がいるこの家が深く関わっている。実はこの家、この村に住む子ども達の間で、お化け屋敷としてしられているのだ。
いつからかは知らないが、誰も住んでいないのに、建っている家。子どもなら興味を持つもの。しかしその家に近づく子ども達に大人たちが口を揃えて言うのは、
「ここには怖ーいお化けが住んでいるから、絶対、中に入ってはいけないよ」
第一、入ろうにもカギは開いていない。中をのぞこうにも窓がすりガラスのためにうまく中が見えない。それがさらに子ども達の好奇心をくすぐる。
とはいっても、やはり子どもだ。お化けがいるのは、怖い。でも見てみたい。
そして、彼もその一人。やっぱり興味はあるが、お化けには会いたくない。
でも、彼がここにいる理由。それはただ一つ。
子どもたちの誰かが言ったのだ。
「お化けって、死んだ人がなるんだ。それも死にたくないのに殺されたとか、病気になって苦しんだ人がなるらしいよ」
「えー、ウソだー。そんなことでお化けになるんだったら、この世界、お化けだらけだぞう」
「だって、そう聞いたんだ。ヒック」
だんだん語尾が小さく弱くなっていく。顔を赤くして目が潤みだした。遠巻きに見ていた子ども達も周囲に集まり出し、この話はここで一旦区切られた。
しかし、話はまだ続く。