少女
「あなた達、こんなことしてただで済むと思ってる訳!」
自分を取り囲み、剣を向ける相手に、その少女は言った。
恐ろしく顔立ちの整った少女だ。
日の光に煌めく金髪に、燃え盛る炎を思わせる紅蓮の瞳。気の強そうな顔立ちは妖艶さと幼さを引き立て、将来多くの男性を虜にするだろう。
「やれやれ、状況を理解できていないようですね、お姫様?」
そんな美貌の少女を見下ろすのは、こちらも整った顔立ちの青年だ。透き通るような銀色の髪に、優しげな青い瞳ーーしかし、その眼には侮蔑の色が映っていることに少女は気づいた。
その青年の名はクラウス。少女の護衛騎士であり、幼少期から少女の危機を幾度と無く守ってきた信頼厚い忠臣だ。しかし、その忠臣は今、多数の全身甲冑の騎士を従え、自分に剣を向けている。
「こんな事許されると思ってるの!お父様とお母様が知ったら、貴方達極刑よ!」
少女はじだん場を踏んで猛然と抗議した。
それは騎士の言う通り状況を理解できてるようには見えず、いささか愚かにも映る。
青年もやれやれと溜め息。
そんな異様な光景を俺は偶然にも見かけてしまった。
その時初めに思ったのは、めんどくせー、だ。
だって、そうだろ?俺は森に日向ぼっこに来た只の男だ。それなりに楽しんで一人ハイキングを満喫して、そろそろ帰るかって思ったところにこれだ。
如何にも高貴そうな衣服を身に着けた傲慢チキが、決戦でも行くのかと言う重騎士10人に囲まれている。
どこをどう見てもめんどくさい。助けるなんてもってのほかだ。
そんな面倒ごとに首を突っ込むほど俺は馬鹿でも善人でもない。
(しかし、暇だってことも事実なんだよな・・・)
そう、俺は非常に暇だった。
そもそも暇じゃ無ければ、平日の真昼間から一人ハイキング何て悲しい真似しない。
だから、ちょっとした気まぐれが起きた。
助けるぞ!と思って助けるのは嫌だが、暇つぶしだ!と思うと助けたい気分になる。
どうしようか?どうしようか?とさんざん悩んだ挙句、俺は助けることに決めた。