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小惑星2223KX12

GMT(グリニッジ平均時)2269年3月2日


 海王星のラグランジュポイントL5の小惑星、2223KX12が、テラフォーミングの真っ最中な金星の軌道に投入される氷小惑星の群れに突っ込む恐れがあると、ウチの小惑星監視用AI『オジサン』が判断したので、2223KX12を『笑って』その軌道を変えることにした。


 『笑う』とは、小惑星を採取し売りさばく事を生業にしている『小惑星ほし喰らい』達の隠語で、小惑星を任意の軌道に変更したり採取する事を言う。

 軌道上の安全の為に小惑星に係る私たち『小惑星ほし守り』も、彼らの隠語をよく使うので、今回の作業も小惑星を『笑う』と呼んでいる。


 やり方はいたって簡単。使い捨てのアポジキックモーターを何個も取り付けて、それらを断続的に吹かすことで長い時間を掛けて安全な軌道に乗せてやる。2223KX12は全長500メートルほどの小さな星なので、五つも有れば十分だ。

 

 相棒のサンデーに細かいオジサンとのやり取りは任せて、私は作業艇を遠隔操作するコントロールブースに潜り込み、シートに深く腰掛けて自分の脳硬膜に張り付けたINPNT(インプラント型ネットワーク端末)を介し、作業艇の制御系に自分の意識その物を文字通り『憑依』させる。

 作業艇の操作権限が私に渡ったことを示すため、自身の画像付きのIDが視覚野に表示された。


『海王星圏小惑星資源管理委員会監督局監視部小惑星監視官アリサ・セルカーク』


 顎のラインまで長さのの明るいブラウンの髪は、少しウェイブを掛けてあり寝癖が解りにくくしてある。

 黒い瞳や丸顔は日系の母親から頂戴し、鼻筋や口元はイギリス系の父親譲りうけた。因みに体系は母親系からの賜りもの。もう三十路なもんでこれ以上の成長は期待できない。服を選ぶのに苦労はしないと言っておこう。


 作業艇は、2223KX12が金星へ向かう氷小惑星のコンボイに悪さをすると判明した時点から、自律航行で接近させていた。今日はその総仕上げと言うわけだ。

 大切な工程を完全に無人艇の制御系に任せることはご法度、最終的に『人間自身』が手を下したと言う態にしなきゃならない。

 作業艇、コールサイン『パーチ』の制御系が私と一体となると、視覚野一杯に漆黒の闇が広がり、自分自身が宇宙に投げ出された感覚に捕らわれる。

 慣れないうちは、コレに面喰う。

 私は前職も含めてベテランだからどうと言う事は無いけど。

 目標までの距離を呼び出すと、視界の左端に数字が浮かび上がる。

 7万キロ、五分も加速すれば到着か。


「アリサさん、ホームポジション(作業ポイント)到着まで4分57秒です。『オジサン』からの作業実施要項を送ります」


 視界の右上に浮かんだのは私の相棒。

 つややかに輝く金髪のマッシュルームボブ、くりくりした青い目はなぜかいつも伏目勝ち、どう見たってローティーンの男の子。

 私とこうして仕事をしてるって言う事は、当然本物の人間の子供じゃない。バディロイド、つまり、人をサポートするために造られたアンドロイド。

 なんでまたここまで精巧に人間の男の子(かなり綺麗な)の姿をしているかは、この場では関係無いので追々説明させてもらう。

 因みに、自身の名誉の為、私の性向とは無関係と言っておく。念のため。

 

「ホームポジション到着後、5器のアポジキックモーターを指定の場所に設置し、作業艇離脱後に始動。15分運転させ、予定の軌道に投入。か、ま、楽勝パターンね。昼休憩までに終わるわ、ねぇサンデー、きょうのメニューはウニのクリームパスタにしてよ。パック入りのエリシュウム産ウニが残ってたでしょ?賞味期限近いから使っちゃおうよ」

「解りました。あの、お昼ご飯の話よりも、今は『パーチ』の操船に専念されたほうが良いのでは?」


 言い返すのも大人げないと思い「ハイハイ」とだけ答え、仰せの通り作業艇を加速させる。

 加速の度合いは視覚野に投影される数値と、VRによって表現された加速感によって知ることが出来る。

 まるで生身の体で核融合エンジンの加速度を感じている様だ。勿論、あくまでもそんな感じがするだけ。

 意識は目標である2223KX12に集中するが、横目で太陽系中心部を見る。

 ここでも太陽は遍く宇宙を照らす存在として、暗黒を背景に燦然と輝いていた。

 けど、その威光である熱は感じない。

 そう、私は太陽から遥か46億キロ。海王星の軌道の真っただ中だ。

 

 予定通り5分間加速して、今回の仕事のネタである2223KX12が目視(『パーチ』のカメラを通してだけど)できるポイントまでたどり着く。

 ここがホームポジションな訳だけど、ブツの姿を見て、私の頭の中は真っ白になった。


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