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ライトノベルの男主人公が妄想癖を持っているだけの話。  作者: 風祭 風利
第一章自分の自己紹介だけでも難しいのに友達とか自分の住んでる町の事とかなんて説明するのはなんか酷だとは思わないか?
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第二節 試行と考察、青春話

 学校を出たのが12時45分、そこから自転車を引いて15分、閑静な住宅の中の一つに先輩の家があった。先輩の性格や容姿からは想像のつかないような立派で可愛らしい一軒家だった。


「リビングで待ってて何か飲み物出すから。」


 あたりを少し見まわすとどこにでもありそうな感じのリビングだった。まあヘンテコな家ではないから当たり前か。


「いやぁしかしラッキーだな。 まさか先輩の自宅に訪問できるとは。」

「ほんとですよね。 ほんとによかったのでしょうか?」

「いいのよ。 さっきもいったでしょ? うちの方が頭が冴えるって。」


 終始テンションの上がっている壮一、困惑と遠慮が顔に出てしまっている渡瀬、牛乳の入ったコップをお盆で持ってきてはにかむ天木先輩、人間観察とは、時に自分の妄想領域とはかけ離れた未知の世界を開いてくれる気がして面白いのでよくやっている。おかげで台詞と表情だけである程度どういった事を思っているのか分かるようになった。


「さてと、本題に入ろうか。」

 お盆を置いた先輩が話を切り出した。


「まずはどうしてこういう展開になっているのか具体的に説明しなければいけないということを飛ばしていた。 主人公達パーティが前の街から次の街へ移動するため森を横断途中で案の定盗賊どもと一線交える事になってしまってそこで二十人ほどの盗賊を倒し、最後に女盗賊が戦う事になってなかなかの激戦を繰り広げたうえ女盗賊の恥ずかしい部分がさらけ出して恥じらいをもって戦意消失、 その後の展開としてはその女盗賊の戦闘における強さが認められ、パーティに勧誘される。 という感じなのだ。」

 天木先輩の展開の話を聞いて大体理解した。そしてそれに対する答えの妄想も完璧だ。


「天木先輩、どういう感じに描けばいいか分かりました。 女盗賊というのなら具体的な服装さえ言ってもらえれば、それに合わせます。」

 と渡瀬が真剣な目をしていた。それに呼応するように天木先輩が具体案を話あっていった


「これ俺らお役御免じゃね?」

 と壮一が不安そうに言った。


「大丈夫でしょ。少なくても女盗賊の服を破くというどこかの同人のような展開での俺らの妄想案は言えば一つ二つくらいは候補に上がるでしょ。」

 と俺は言った。そうしたら壮一は安心感に満ちた顔をした。安いやつめ。


「まずは女盗賊の服ね。 あたしの思う女盗賊の服は丈夫なつくりだけど動きやすいものを前提に考えているの。」

「じゃあビキニアーマーって事っすか?」

 天木先輩の意見に素早く壮一が答えた。


「あたしもそれの案でいこうと考えてみたんだけど、確かに疾走感はあるけど防御面がいまいちになるのよね。後肌が露出しすぎて恥じらいが無くなる気がするのよね。」

 天木先輩の言葉の返しに「そうっすか」と壮一が委縮した。 いい案ではあったが足りないという事なのだろう。


「でも服が破けるという事ならそんなに重装備には出来ないし、そもそも金属装飾では破くことも出来ません。」

 そう渡瀬が言った。 そんなものはここにいる誰もが思っていることだ。 まあ渡瀬も分かって言っているのは間違いない。この部活の部員たるものそれは想定内の話として話しているのだから。


 さて、妄想という考えがまとまったからそろそろ案を出すか。


「ならそのふたつの案を合わせて一つにしよう。上はクサビカタビラ、下は腰巻のスカーフにすればいい。」

 これが俺がみんなの意見を聞きながら考え出した案だ。


「クサビカタビラってお前…あれの素材は金属だからナイフの切れ味ごときじゃ破けないって。 忍者の装備が装束の下になんでクサビカタビラしてるか知っているだろ?」

「そうですよ。 それに天木先輩の話だとナイフを投げて服が破けたことにしています。ナイフで直接攻撃しても弾かれるクサビカタビラじゃ投げナイフでは意味ないですよ。」


 俺の案に当然のように壮一と渡瀬が反論してきた。 この反論は想定内だしこういうのに返しは当然考えてある。

「べつにそのクサビカタビラが新品とは言ってない。なら金属劣化を理由に「運悪く金属劣化した部分にナイフが当たったらしく女盗賊の隠していた肌がみるみる露わになっていく」的な感じにすればいいんじゃないか? 下のスカーフなら結んである部分は一か所のはずだからそこにナイフが切ってスカーフをなくせばいい。」

 と淡々と、そしてどこか誇らしく俺は今の問いに返した。


「さすがは源君。 我々の部の為に使うにはもったいない妄想力だ。 だがそこまでいくとあたしでも若干引くぞ。」


 誉め言葉と貶し言葉の両方を天木先輩から貰った。そもそも先輩の自作小説への意見なんですからそこは大目に見てほしかった。


「それでどうだい?一旦源君の意見をもとにまずは女盗賊を描けないか?」

 俺の想いはなかったことにするかのように渡瀬に先輩は迫った。


「はい。 源先輩のおかげでイメージが出来上がってきました。 一時間ほどあれば下書きはできそうです。」

 そういってさっそく渡瀬は自前のスケッチブックに線画をかきはじめた。


 一時間か…どうしてようかな…。 最近のオリジナルアニメの今後の展開の妄想でもしてるか? それともあのアニメのキャラ同士のカップリングの構想でも妄想するか?……後者は先輩の家でなんて妄想をしようとしているんだ。


「そういえば二人って妄想以外に他に何をしたりしてるの?」


 時間の活用のことを考えていたので天木先輩の質問にとっさに反応出来ず、「ふぇ?」と情けない声をだしてしまった。隣にいた壮一も同じ境遇だったらしく先輩の質問に慌てふためいていた。


「んふふ、何かを考えてる人間に急に確信を突くような質問をぶつけて反応を楽しむ。 面白いわよね。自分の思考を一度遮断して答えなきゃいけなくなるから脳がびっくりするのよ。」

 小悪魔のような笑顔の天木先輩が言った。いい趣味をおもちで。

 一旦心を落ち着かせて先輩の質問に答える。


「妄想以外で、ですか。 といってもこの手の人間は大体ラノベや漫画を読むとか、ゲームをするとかありきたりな答えになるんですけど。 実際俺がそうですし。」

「俺は音楽を聴いたり、自分で勝手に踊ったりしてますね。 俺自分の部屋が離れなんで自分の事するときは大体自分の部屋に行きます。」

 俺も壮一もありきたりだがしっかりと答えた。


「でもなんでそんな質問を? 俺らの趣味なんて部活の行動みればわかるようなもんなのに。」

 そう壮一が質問を返した。俺たちは、というよりも先輩、渡瀬含め、心理研究会のメンバーは入学当初からずっと心理研究会一筋で通っている。(と入部したとき別の先輩が言っていた。)なので天木先輩とは一年半の付き合いになるのでさすがに分かっていると思っていたのだが、


「別に大したことじゃないのよ。 ただあんたたちの妄想の原動力がしりたかっただけ。 原動力というのか妄想を続けられる持続力というのか。」 

 まあ先輩の言いたいことは分かった。つまり考え事の逃がし方がなんなのか知りたかったのだろう。


「ま、あの部活に歓迎された時点であたしたちみんな同じ穴の貉なんだよね、なんて。」

 ・・・その言葉の使い方は悪意がありまっせ 先輩。そんなことを話して15分 渡瀬を見ると試行錯誤をしながら絵を完成させようと必死さがひしひしと伝わってくる。


「そういえば露実ちゃんって、なんでこの部活選んだんだろう?」

「俺もそれは意外と疑問だったんですよね。絵が描きたいなら美術部行けばいいし、漫画が描きたいなら漫研行けばよかったのにって。」


 同じように渡瀬をみていた二人が疑問をいだいていた。俺は疑問にも思っていなかったのだが改めて考えると不思議な感じだ。彼女の理念がこの部活にあったという事なのだろうか?


「ま、俺はあんまり気にしないようにしますけどね。俺は露実ちゃんみたいな子が入ってきて大満足ですから。 この部活って顔はいいもの揃いなのに頭が残念な人の集まりのようなものじゃないですか。」 

 こいつ、自分もその一員なんだというブーメランが飛んでくることが分かってて言ってんのか? 先輩もなんか顔が若干怒り顔になってるし… というよりも だ。


「なあ壮一、お前やっぱり渡瀬の事狙って…..」

「な、なにを言っているのだね亮二君。そんなことあるわけないじゃないか! 俺の妄想での性癖しってるだろう?」


 ・・・明らかに動揺している。変な喋り口調になってるし、第一お前の妄想性癖は知っていてもお前があの子の事を思っていることとは違うだろ。


「え? なになに? 池山君露実ちゃんの事好きなの?」

 さっきの怒り顔とは打って変わってネタに食らいつくジャーナリストのような顔をした先輩が質問した。


「や、やめてくださいよ先輩まで。これは亮二が勝手に言っただけで・・・・・・」

「でもお前渡瀬が入部したあたりから大分好感度貰おうと必死になってないか? それにゴールデンウィーク入る前あたりに「俺、渡瀬って子が入ってきてからなんか今まで妄想してきた事が覆されそうな想いなんだよ。」って言ってたことないか?」

「をあああああああああああ!!!! ばらすなあああああ!!!! 俺とお前の秘密だったじゃないかぁぁぁぁぁ!!!」

 赤面した壮一が叫んだ。そんだけ言っといて気づかないと思ってない訳ないだろ馬鹿。


「大丈夫だよ。今露実ちゃんは絵を描くのに夢中になりすぎてこっちの情報入ってきてないみたいだから。存分にさらけだしちゃって。」

 明らかに笑いとにやけをこらえようとしている先輩がいた。どうやらこの手の話はツボらしい。

 壮一は自分の想いをばらされた事でうなり声をあげてのたうち回っている。渡瀬が描き終わるまでにはもとに戻っているよな?


「で? 源君は好きな子とか気になってる子とかいないの?」

 ・・・なんかこっちにも矛先を向けられた。まさかの質問に驚いてしまった。


「俺ですか? いや、いないですね今のところは。 ほんとですよ? 二次元のキャラも好きになりますが恋愛対象の好きではないので。」


 ホントのことと誤解のないように訂正は怠らない。別に紳士キャラや純粋キャラを通そうとしていない。あくまでもこれが「源 亮二」だという事を認識してもらいたいだけだ。


「でもお前、心理研究会の女子部員、全員妄想でオカズにしたっていつか言ってたよな。」

 荒い声をあげながら壮一がそんなとんでもないことを暴露するもんだから俺自身が今度は焦る番になってしまった。


「ちょっ….!おまっ….!何をいきなり暴露しだすんだよ!!」

「さっきのお返しだ!! お前だけいい子キャラなんて通させないぞ!」

「いや別にそんなキャラ通そうとしてないし、俺は俺という唯一無二の存在を語っただけで…」

「お互いの妄想癖を知っているからこそ話し合えた事だろ? 言い逃れ出来ないようにしてやるぜ! 俺はお前の妄想内容もお前の口から聞いてるんだからな。例えば天木先輩の場合なら気が強いからSの気があるだろうっつって赤のボンテージ着させて次にお前に馬乗りに跨って・・・・・」

「わあぁぁぁぁぁ!!! 本人がいるのにそれ以上先はいうなあぁぁぁぁ!!!」

 立場が完全に逆転してしまった。鼻息を荒くして壮一の口を塞ぎに行って当の天木先輩の方を見ると・・・・


「・・・・・・・・・・・・えぇっと・・・・・男子高校生だからそういうのはあるのはもちろん分かっていたつもりだったのだが・・・・いざ自分がそういうものの対象だったって分かるとなんだか気恥ずかしいな・・・・ははは・・・・」

 照れ隠しが出来ていないでハニカミながらそう答えた。その表情をみてかなり罪悪感が生まれてしまって俺はその場に崩れ落ちた。


「べ、別に君のことを軽蔑する気はないんだ。 ただあたしもなんていうか混乱しているというか・・・ こういう時なんて声をかければいいのか分からなくてな・・・」

「無理になにか言わなくていいです。 その優しさがむしろ更なる罪悪感を生んでしまうので」

 俺はかすれた声しか出せなかった。


「あ・・・・あの、下書き終わったのですが、だ・・・大丈夫ですか?」

 と渡瀬の声が聞こえた。まさか聞かれてないよな? いや聞いてないでくれ。今言われたら罪悪感で今度こそ潰れてしまう。とりあえず完成した絵を見るか。そして気持ちを切り替えようそうしよう。


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