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霧の思い出〜Revival  作者: 秋本そら
1日目——記憶をなくした少女
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6章 不思議な人

私は振り返り、4人は一斉に扉の外に目線を向けた。

そこには美しい女の人がいた。美しいというか、可愛いというか——

——待って、今この人は、私に気づいてる。


なんで私のことが分かったの?


私は今、お守りを持ってない。それに、もし分かったとしても、私は人身事故に遭ったのに、なぜこの人は私がいることを不思議がらないのだろう?


「——そっか。あっこはミーティングにいなかったんだっけ」

「……咲希ちゃんはね……昨日、人身事故に、遭ったんだ。今、したまち病院で、昏睡状態で、眠っているんだよ……」

「……嘘。……咲希ちゃんの気配も感じるし、咲希ちゃんの匂いもするよ!間違いなく!」

その人は机などに触れながら歩いて来た。

怖くなって、身体が硬直する。

まさか……

この人にも霊感があるの?

「間違いなく……ここに……いるよ。間違いなく、ここに……」

女の人は私に向かって手を伸ばした。

しかし、その手は私の肩に当たり、そのまま空を切った。

私の肩を、何かが通り過ぎる感覚がした。


「……!」

その人は、言葉にならない声を出した。

「……本当だ。ここにいるけど……魂だ……」

女の人は、呆然と立ち尽くしていたが、しばらくすると、はっとして、私に向かって笑いかけた。

「恥ずかしいね、後輩にこんな姿を見せちゃうなんて……ごめんね、咲希ちゃん」

私は首を振った。そして、お守りを手にした。ちらりと3人の方を見ると、みんな驚きの表情を見せていた。

その次の言葉を口にするまでに時間が空いた。


「いえ、謝らなくてはならないのは、私の方です。私はあなたのことを、全く覚えていないのですから……」

すると、女の人はちょっと戸惑い、3人はまた驚いたようだった。女の人は、すぐに笑って答えた。

「——そうなの?分かった。なら、自己紹介するね。私は中村顕子。あだ名はあっこ。実は、目が生まれつき見えないの。この吹奏楽部で学生指揮者を務めているんだ。吹奏楽部は略して吹部、学生指揮者は略して学指揮っていうことが多いかな?あと、パートはフルートなんだ。銀色で、このぐらいの長さの筒みたいな楽器だよ」

中村さんはこのぐらい、と言いながら、手で長さを示した。そして、あっと声をあげた。

「そうそう、忘れてた!なんのためにここに来たかっていうとね、今日の午後の予定が変わったからなの。パート練から学指揮合奏に変更!だからみんな、譜面、用意しといてね」

「おっけ!」

「分かりました!」


中村さんは私の方を振り返り、

「咲希ちゃんも合奏、出る?」

そう聞いてきた。

「——出てみたら?きっと楽しいよ。何かを思い出せるかもしれないし!」

春花さんがそういうと西野さんも、

「そうだよ!合奏楽しいよ!」

と言った。でも、野上さんは

「でも、無理しなくてもいいんだよ?」

と言った。

どうしよう……出てみたいけど、怖いな……私はほとんどの人のことを覚えていないのだから……でも、思い出すきっかけになるかもしれない……でも、どうしよう……。

迷っていると、浅沼さんが私の心を読んだのか、一言、こう言った。

「みんなに色々言われて迷うかもしれないけど、最終的には咲希ちゃんの自由だよ」

笑顔で、こう付け足した。

「自分が後悔しない方を選びなよ。誰も反対しないからさ」

決めた。私はきっと、後悔しない。

「合奏、出ます」

私は笑った。中村さんも笑った。

「待ってるからね」

中村さんはさっきと同じように、机をつたって部屋を出た。


「さ!合奏の支度しよ!」

春花さんが私にそう言った後、こう3人に向けて話し出した。

「ちょっと譜面もらって来るからさ、3人は咲希に教えてあげて、色々。なんとなく覚えてるところもあるみたいだから」

そして、春花さんはいなくなった。

3人はそれぞれ、私に自己紹介をして、私に楽器の持ち方や吹き方を教えてくれた。不思議なことに、なんだか懐かしくて、違和感は何もなかった。指が自然に動いてくれた。楽器を持っているときはお守りを持てないけど、代わりに手首にお守りをかけていれば周りの人に姿が見えることも分かった。

なんだ、心配しなくてもよさそうだな。

……演奏面に関しては。

それ以外については、正直に言って不安しかない。でも、そんなこと言っていてもしょうがない。もう決めたことであった。

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