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霧の思い出〜Revival  作者: 秋本そら
2日目——本当の帰還
21/24

20章 再会の庭

「ここからは自分で車椅子動かせる?」

中庭に入ったところで、中村さんが言った。

「えーっとね……ここを持って前に動かすと前に行くよ。後ろだと逆ね。片方だけ回すと曲がるよ」

簡単に車椅子の動かし方を教えてもらう。

私は左手に持っていたものを一旦ポケットの中にしまい、動かしてみる。

「なんとか動かせそうです」

「無理はしないでね」

私は何やらたくさん物が置いてある場所に向かってみた。中村さんは車椅子に手を添えて付いてくる。

『吹奏楽ステージ 県立風波高校』

そう大きく書かれた看板が立っていて、人工芝の上に敷かれた何やら丈夫そうな緑色っぽい色のシートの上に、折りたたみ椅子や楽器と思われるものなど、たくさんの物が置かれている。

そして、中庭にあるもう1つの出入り口から、楽器と思われるものを運んでくる人達がいた。

2人の男の人だった。

「ねぇ、凛」

「なに?」

背がすこし高くて優しそうな男の人と、クールな感じのする男の人の2人。背が高い男の人は、凛と呼ばれていた。

「……いや、なんでもない」

「えーっ、そう言われたら気になっちゃうよ」

「まあね。でもいいでしょ?」

「教えてくれないの?」

「うーん……凛だったら、いいかな」

楽器を所定の位置に置き終わったのか、2人は楽器から少し離れた。

クールな感じの男の人が話し始めた。

「……単刀直入に聞くけど——咲希ちゃん、意識は戻ったの?」

「それが……分からないんだ」

凛と呼ばれた男の人が返すと、驚いたような口調でもう1人が返す。

「分からない?咲希ちゃんの状況が1番分かってるのは凛でしょ?」

「そうだよ。だけど……昨日ここに入院しているってことを聞いただけで、その後は何の連絡ももらってないんだ」

「そうなんだ……」

私は何か、違和感を覚えた。

でも、その違和感の正体は分からない。

「何でだろうね。状況ぐらい教えてもらえてもいいと思うけどね」

「そうだよね……」

2人はしゅんとして、地面に座り込んでいた。


私は思わず声をあげた。

「あのっ」

「しーっ」

そして中村さんに止められた。

「今は……静かにしてもらってもいい?」

「分かりましたけど……どうしてですか?」

「あとで説明するから」

私は納得はできないがうなづいた。

そして少し暇になり、左手にあるものを見た。

1つの真珠だ。


(綺麗な真珠——何故か、手放したくない真珠。何故かこれを、宝物だと思っている自分がいる)

全く、不思議な真珠だ、と思う。


やがて、たくさんの人たちが集まってきた。

「じゃあご飯にしようか。みんな揃ってる?パートの中でいない人いたら報告してください」

さっき、凛と呼ばれていた男の人が声を上げる。

「みんないるよー」

「こっちもいます!」

「大丈夫!」

あちこちからそんな報告が聞こえてきた。

「じゃあご飯にします!」

あちらこちらから、いただきます、と声が上がり、いろんな人がお昼ご飯を広げて食べだした。

その場にいる全員が、笑顔でご飯を食べている。

何故かその笑顔が懐かしいような気がして……


左手を握りしめた。

真珠が、小さく震えている。

何かの予兆を知らせるかのように。

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