19章 疑問
私はあの後、眠ってしまったらしかった。
気がつくと、もう昼間になっている。
部屋の時計は、ちょうど12時を指していた。
「あ!目が覚めた?」
そして、中村さんは未だにいた。
お昼ご飯が運ばれてきた。私は中村さんに見守られながら、お昼ご飯を食べた。
お昼ご飯を食べ終わった頃。
「ねぇ、咲希ちゃん」
中村さんが不意にそう言った。
「はい」
まだ『咲希=自分の名前』という実感が湧かない。
「私たち吹奏楽部の演奏は午後の1時半からだけど、今ね、打楽器の搬入をしてるよ。そのあとはみんな中庭でご飯を食べるの!ちょっと様子を見に行かない?」
私が所属しているという吹奏楽部の様子を、少し見てみたかった。
「この部屋から出ていいなら……」
「それなら大丈夫!こんなこともあろうかと、車椅子なら移動してもいいですよって許可をもらってるから。車椅子は借りてきてるしさ、行ってみよう!」
中村さんに言われ、私はうなづいた。
「はい!」
中村さんが押す車椅子に乗って、私は中庭に向かっていた。
点滴の袋は車椅子に付いている棒にかけている。そこから管が繋がっていて、その管が針に繋がっていて、その針が腕に刺さっている状態だ。
中村さんがエレベーターを呼ぶと、それはすぐにきた。そして、エレベーターに乗り込んだ。
私が所属しているという、中村さんたち吹奏楽部の演奏が聴ける——。
(——あれ?)
そう思ったとき、何かがおかしいと思った。
(——もしかして、中村さんも演奏するのかな?そうだよね?だって……中村さんが所属する吹奏楽部の演奏なんだから)
次々と疑問が浮かんでくる。
(どうして中村さんは他の人たちと一緒にいないんだろう?)
私は思わず中村さんを振り返る。
中村さんはにこりと笑った。
中村さんの閉じられた瞳が目に入る。
そのしゅんかん、私ははっとした。
(待って……?中村さんって、目が見えないはずなのに……どうして車椅子を押せるの?)
目が見えないとは思えないほど中村さんの車椅子の押し方は安定していたし、曲がり角や障害物にぶつかることなど一度もなかった。
「……中村さん」
「分かってるよ。そう言えばまだ、言ってなかったよね」
そう、すこし不思議な事を言って、中村さんは、再び笑った。
エレベーターの扉が開く。
中庭への扉は、目の前にあった。
「私は、魔法使い。不思議な力が使えるんだ。だから、車椅子が中庭まで動いてくれるように魔法をかけたんだ。私は車椅子に手を添えて、ついて行っただけ」




