1章 事の始まり
「霧の思い出〜Requiem」の派生版です。
ストーリーは本編とは少し異なります。
(私は、どこにいるんだろう)
目の前に広がる風景は、全く見覚えのないものだった。
そこは少し広い教室のような場所。黒くて大きなものが置いてある。
そこには何人かの人がいた。でも何だか……引きつった雰囲気だ。みんな笑顔だけど、何かあると崩れてしまいそうな、そんな雰囲気。
だからだろうか。部屋にある人々は、私が部屋に入って来たことに気づかない。
(あれ……)
そこにいる人はみんな、私の知らない人ばかりだった。私はなぜここにいるのかも、分からなかった。
「湧真おはよう!楓ちゃんもおはよう!それから……」
急に今やって来た女の人が、すでに来ていた男の人と女の人に話しかけた。
そして、急に話すのをやめた。
話しかけられた男の人の表情は、その声を聞いた途端に凍りつき、女の人の方は、悲しげな顔になっていたのだ。話しかけた女の人はハッとした表情をして、
「そうだ、そうだったね……」
そう呟いた。
何かあったのだろうか。
「あの……何か、あったのですか?」
勇気を出してそう問いかけたが、全く気づかれない。何度話しかけても、結果は同じだった。
(なんで……)
「おはよう、凛」
「あ、湧真だ。おはよう。……えっ⁉︎」
今やって来た男の人は私を見て、驚いたように大声を出した。おかげで私の方までびっくりしてしまった。
(……そんなに大声出すこと、ないでしょ?)
「どしたの?」
「いや……なんでもない」
そう言ったその男の人は、私の方を見て、
「こっちに来て」
小さな声で言い、私のことを手招きした。
部屋の外に私を連れ出すと、その人は急に早口になって言った。
「さ……さきちゃん、だよね?」
「えっ⁉︎」
……さきって、誰?
……と言うか、この人は誰なの?
こういう時は、私から名乗るべき?
……あれ?
私の名前……なんだっけ?
「どうして、ここに?」
そう問いかけられ、ようやく出た言葉は、
「……あなたは、一体……誰なんですか」
それだけだった。
「えっ⁉︎」
今度は男の人が驚いたようだ。この人はさっきから驚きすぎだ。
少し考えて、男の人は話し出した。
「ごめんね、急に。びっくりしたよね」
(いや、あんなに叫ばれたらびっくりするしかないでしょ、普通……)
「僕は、髙橋凛。君の一個上の学年だから、高校二年生だよ」
(——ということは、私は高校一年生?)
「吹奏楽部の部長なんだ。ファゴットを吹いているよ。君も、吹奏楽部員だったよ。バリトンサックスを吹いていたんだ」
「すいそうがく、ぶ……」
その言葉が、私の口をついて出た。
「君の名前は……」
……キイッ。
「凛、何時だと思ってんの?ミーティング!全く、1人で何してんの?」
「あー、ごめん千尋。今行く!」
女の人(多分、千尋さんと言うのだろう)に呼ばれ、髙橋さんは部屋に入ろうとした。
「さきちゃん、おいで。ミーティングだよ」
見ず知らずの人が私のことを『さき』と呼び、ミーティングに出るように促している。
普通なら、怪しむべきことなのかもしれない。
でも、その声はとても優しくて、聞いたことがない声なのに、聞き覚えのある、なぜか懐かしい声のような気さえしていた。
だからだろうか。
私は、髙橋さんと一緒に部屋に入った。




