16章 訪問者
目が覚めた。
起き上がってみると、見慣れない空間だった。
「ここ……どこ?」
布団も、ベッドも白い。壁も白い。何やら色々置かれている台が薄茶色。そして隣には……見知らぬ人が。
「……あ!目が覚めた?」
椅子に座ったその人は、とても可愛らしい声で言った。容姿も、すごく大人っぽくて、綺麗だった。
だけど、全く知らない人だ。
「あの……どなたですか?」
私が尋ねると、その女の人はくすりと笑い、驚く様子もなく言った。
「ごめんね、驚かれちゃった。うちは中村顕子。高校2年生なんだ。生まれつき目が見えないの。近所の高校でね、吹奏楽部っていう部活に所属しているの。よろしくね」
「あ……よろしくお願いします」
思わずそう返してしまった。すると、中村さんは興味津々といった感じで言った。
「……自己紹介は?」
「あっ……」
そうだ。私達は初対面。中村さんが私の名を知っている訳がない。
私の名前を、知っている訳が……
……私の、名前……?
名前が……分からない!
そんな風に私が困っていると、中村さんは、ふふっ、と笑った。そして、こんなことを言った。
「さきちゃんが記憶を失くしていることは、知ってるよ。そんなに慌てないで。うちが教えてあげる」
さきちゃん……誰のことだろう。私のことだろうか?
記憶を無くしている……私は確かに、今までのことを何も思い出せない。
色々と混乱してきたところで、中村さんが言った。
「まあ、落ち着いて!」
その一言は、混乱していた私の頭の中を一旦落ち着かせるだけの力があった。
中村さんは、ちょっとわざとらしく咳払いをして、いたずらっ子っぽく話し出した。中村さんは、大人っぽいのに元々の話し方が人懐っこいような、いたずらっ子っぽいような、そんな気がする。
「……こほん。あなたの名前は、内川咲希です」
「内川……咲希」
「そう。年は16歳。高校1年生。咲希ちゃんも私たちと同じ、吹奏楽部に所属しているよ」
「……そうなんですか」
中村さんが話す私のことは、まるで他人事のような気がした。
「まぁ、他人事のように感じちゃうのも当たり前だよね。うちも、何にも覚えてない時に自分の名前とか言われても、多分他人事のようになっちゃうもん」
そう言ってから、中村さんはあっと声をあげた。
「そうだ!今日ね、この病院に私達が所属する吹奏楽部が演奏しに来るんだ!中庭で演奏があるんだけど、一緒に行かない?」
「……行ってみたいです」
自然に、そう答えていた。
「よーし!じゃあ決まりだね!演奏、楽しみだね」
中村さんは、笑顔でそう言った。




