14章 夜の病室
気がつくと、私は空を飛んでいた。
背中には白い羽が生えていて、私を何処かへと運んでいく。まるで、何かに導かれているかのように。
私は導かれるままに、空を飛ぶ。
そして、とある建物の1つの窓に近づいて行く。そして次の瞬間、私は簡単に、するりと壁をすり抜けていた。そして、静かに部屋の中に降り立った。
羽は空気に溶けるように、消えた。
窓から差し込む月の光と街灯の光が少しだけ照らしている壁の色が、白かった。ここはきっと白い空間なのだろうと思った。
闇になれた目が、ベッドを見つけた。そこに、布団に入っている女の子がいた。多分ベッドも布団も白い。
女の子は幸せそうな笑顔で、微笑んでいるように見えた。だからか、頰に走る傷痕がとても痛そうで。
「……痛そう……」
そう呟き、その傷痕に右手でそっと触れた。
その瞬間、不意に私は、どんどん消えていってしまうような感覚に陥った。自分の存在が、頼りないような気がしてきた。
おかしいと思い、手を見ると、右手はもう既に消えかかっていた。そして、それはどんどん進んでいく。
それと引き換えに、女の子のほおが赤くなっていくような気がした。暗い中だから、気のせいだろう。
でも、私は確信していた。
……この子は、私だ。
不意に窓を見ると、月の光を受け輝く道があった。
その道を見ていると、今日出会った人たちの笑顔が、なぜか見えた気がした。
道に向かって、なんとか左手を伸ばす。
足は消えかかっていて、動かない。
しっかりして見えた道は、不意に霧になり、部屋の中に入ってきた。そして、その霧は集まって、1つの真珠になった。
だけど、その時には左手も消えかかっていて、意識も薄れつつあった。
次の瞬間、真珠が床に落ちる冷たい音を最後に、私は気を失っていた。
とある病院の夜中の一室で。
その1人部屋の病室にいた少女が目を覚ました。
「……私……なんで、こんなところに……?」
少女は辺りを見回した。
ふと、床に真珠が転がっているのを見つけた。
「……綺麗」
少女は真珠を手にした。
一度手にすると、なんだかもう手放してはいけないもののような気がして……
少女は左手にそれを握りしめ、もう一度寝ることにした。
まだしばらくは、夜が明けなさそうだ。




