10章 中村さん一家
次の駅に着いた私と中村さんは、早速電車を降りた。そして、中村さんは白杖をついて家まで歩き、私は中村さんの後を追いかけ歩く。
「ついたよ!ここがうちの家なんだ」
中村さんの家には駅から10分ほどでついた。
「ただいま!」
「お帰りなさい、お姉ちゃん!……あれ?珍しいお客さんだね」
中村さんの弟らしき人に出迎えられた。とても明るく、元気がいい。
「初めまして!僕は陸斗。お姉さんのお名前は?」
「わ、私は……内川咲希です。初めまして」
「陸斗、あのね、咲希ちゃんはうちの部活の後輩なんだ。だけど、昨日の夜、人身事故で意識不明の重体になってしまって……記憶も全て、失っているの。だからね、1人にはできなくて連れて来たの」
「あ、そうなの?内川さん、ゆっくりしていってね!」
私は笑顔でありがとう、と頭を下げた。
中村さんは白杖を下駄箱に立てかけ、壁をつたいながら歩く。私はそれについて歩く。
「お母さん、ただいま」
到着した先は、ダイニングキッチンだった。
「お帰りなさい。あら?珍しいお客さんね」
「うちの部活の後輩なの。内川咲希って言うんだ。咲希ちゃんは昨日の夜、人身事故で意識不明の重体になってしまったんだけど、記憶がないみたいなの。病院の面会時間も過ぎているし、連れて来たんだ」
「あら、そうだったの。内川さん、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
私がそう言うと、中村さんはこっちへ来て、というように私の名を呼び、歩き始めた。私はその後に慌ててついて行った。
中村さんは階段を上った先にある部屋に私を連れてきてくださった。
「ここは私の部屋。陸斗もたまに来るけど、気にしないでいいからね」
「はい」
そこには机と椅子が一式、黒い物が壁際に1つあった。
「これは私のピアノ。ほら、学校にもこれよりも大きいやつがあったでしょ?あれはグランドピアノって言うんだけど、これはアップライトピアノって言うの」
そう言って、中村さんはピアノを弾き始めた。とても、綺麗な響きだった。
「とっても素敵ですね!」
中村さんがピアノを弾き終わった後、私はそう言った。すると「そんなことないよ」と、少し照れたように中村さんは言った。
「あっこー、ご飯よー!内川さんもいらっしゃい!」
「はーい!さ、咲希ちゃん。ご飯食べよ!」
「はい!」
そして私達はさっき中村さんのお母さんに挨拶をした部屋に戻った。




