ラノベの主人公ですが、人生辛いです
僕の名前は川内晴柀。
どこにでもいる、中肉中背の特に特徴がない事が特徴のジム〇スタムみたいな、至って普通の高校生だった。
過去形なのは、今の僕が普通から程遠い存在と化してしまった訳で、どう考えても、普通とは言い切れない生活をしている。
そんな僕の一日を、今日は皆さんにご覧いただきたいと思います。
「ハルマキー! 朝だよー!」
まず、毎朝六時に、起こしに来る幼馴染が居る。
羨ましいと思う方もいるだろうけど、今日起こしにきた幼馴染は、十三人目の幼馴染だ。正直、お前誰だよって言いたくなる事もしばしば。
八十五人も幼馴染がいる、と知って貰えれば、僕の気持ちもわかってもらえると思う。住宅街の女の子総幼馴染だ。
「うん、おはよう」
名前が思い出せないので、曖昧に返事しつつ、僕は自分の部屋から一階降りていく。
一段一段降りていく度に、胃の中に鉛でも詰め込まれているような気持ちになる。正直、人生ボイコットしたい位の毎朝だ。
キッチンに顔を出すと、味噌汁を温めていた女性が振り返って、微笑んだ。美しい人だが、厳密に言うと人じゃない。
「あら、晴柀様。おはようございます」
彼女は異世界転移した時にフラグを立ててしまった女性で、名をプロトタイプ勇者09と言う。長いので、キューと呼んでいるが、他の番号もコンプリートしてしまったので、今の彼女がキューかどうかは定かではない。
「うん、おはよう」
再び曖昧に返事しつつ、食卓につく。
そしてやってくるのは最近お隣さんになった女の子だ。
「晴柀、おはよう!」
「うん、おはよう」
勇者と来たら魔王だろうと、安直に考えたであろう創造主を恨みつつ、僕はやってきたロリっ子大魔王に白目をむきながら挨拶をする。
地球の命運をかけた三度の決戦で、僕に調伏された大魔王である。二度と戦いたくないと常日頃から思っているのは内緒だ。
かかり過ぎだろう、地球の命運。
キューと大魔王が火花を散らす事態は起こったものの、普段と比べると大分平穏な朝食を終えて、僕は学校へ向かう。
幼馴染八十五人に囲まれての登校だ。大名行列か何かか。
後一斉に喋らないで欲しい、僕の耳はそんなに高性能ではないし、音声を処理する脳みそも、人より出来が悪い。うるせぇから黙れ。
喧騒に耐えつつ、学校の門前までたどり着くと黒塗りの車がドリフトしながら、ついでに、大量にいる幼馴染を吹き飛ばしながら、僕の前に止まった。
「川内くん! 大変よ!!」
車から出てきたのは、キャリアウーマンでござい、と全身から主張している女性だ。
僕は彼女を見つめて深々とため息を吐くと、お決まりの台詞を言った。
「ふぅ、ヤレヤレ……解ってますよ」
なんだ、お前もヤレヤレ系主人公かって思われるかも知れないが、まず、僕の話を聞いて欲しい。
目の前に居るキャリアウーマン、正直名前は忘れたが、とりあえず彼女は地球を防衛する軍隊、地球防衛軍に所属しているお偉いさんである。
名前もうちょっと捻れよ。
して、彼女が幼馴染行列を轢きながら僕の前に現れたのは意味がある。
地球防衛軍は、地球を守る組織である。そして、僕は曲がりなりにも異世界やら何やらを含めると、数えきれない程、危機を救っている。つまり、僕は地球防衛軍の最終兵器と言う位置付けなのだ。
給料も出るし、待遇に不満はない。地球が無くなると僕だって困る。
だけど、毎週月曜日と水曜日は必ず滅亡の危機に陥るって、この星は何に狙われているんですかねぇ?
週二で地球と人類を救っているんだから、ヤレヤレも言いたくなるだろう。もっと頑張れよ地球防衛軍、名前捻れよ地球防衛軍。
と言うか、かかり過ぎだろう、地球の命運。
「それで、今回の敵は?」
「今回の敵は、地下で帝国を作っていた恐竜たちよ!!」
ゲッ〇ーを呼んで来い、〇ッターをよ。
どうせ今回もあれだ。スーパーロボットとか、光の国からやってきた巨人を運用するより、僕を運用した方がローコストだから呼んだに違いない。あいつら建物とか壊しまくるし。
まぁ、いいけどね。月給四十二万貰っているし、ボーナス出るし、月給四十二万で救ってやろうじゃないか、世界。
と言うか、安すぎだろう、地球の命運。
あんまりのんびりもしていられないので、血塗れで手を振る幼馴染達に見送られつつ、僕は地下で帝国を作ると言うロックな生態をしている恐竜たちをしばきにでかけたのだ。
今日はちょっと苦戦して、全て片づけるのに三十分位かかってしまった。
一時限目は遅刻だなぁとため息を吐きつつ、僕は登校し、教師にこう叱られる。
「貴方は地球の命運と自分の単位、どっちが大事なのよ!!」
そこは流石に地球の命運だろう。
とは言っても、僕の単位もヤバイ。地球救いすぎて、単位がヤバイ。これはあれだ、名言を口にするしかない。
「僕は地球を救えても、単位は救えないんですね……」
「何馬鹿な事を言っているの!!」
怒られてしまった。
そりゃそうだ。ダジャレにもなってないし、笑えない。
それからも、学校に突撃してくるテロリストをしばいたり、東京に向かって発射準備されている核弾頭を破壊したりと、僕にとっての日常を過ごしていく。
と言うか、治安悪すぎだろう。大丈夫か、この日本。
学校が終われば、僕に僅かばかりの自由が手に入る。
幼馴染達は部活があるので、帰宅部である僕とは帰りの時間が合わないのだ。今日は駅前の肉屋でコロッケを買い食いして、漫画雑誌を買って読みふけるのだ。
そんな事を考えていたら、足元に唐突に穴が開き、僕は異世界に召喚されてしまった。
「異界の勇者様、どうか、我らの世界をお救い下さい」
目の前に居る姫様っぽい人。
そして、今月三度目の異世界召喚にうんざりしている僕。正直、見捨てて次元の壁を突き破って帰宅してもいいのだが、どうせこの異世界が滅んだら地球の番である。
どっちにしろ、僕が世界を救わないと言う選択肢はない。
「あ、はい。わかりました。とりあえず強そうな奴、全部しばいておきますね」
もう手慣れているので、とりあえず強そうな奴は全部ぶっ飛ばしておけばいい。そっちの方が話が早い。武術の達人から創造神まで、並べてぶん殴った方が早いのだ。
唖然としている姫様っぽい人を尻目に空を飛び、僕は叫ぶ。
「人生辛い!! もう普通に生きたい!!」
と言うか、かかり過ぎだろう、世界の命運。