着信とストーカー
プロロロロロロ…プロロロロロ…
電話が鳴り響いた。午前2時30分。いつもこの時間だ。
しかし、取ることは決してしない。誰からの電話かが、はっきりわかってるからだ。
その電話をかけてきている相手とは、父親だ。
先月、一人暮らしをはじめた。それと同時に父親と仲たがいをしてしまった。それからというもの、毎日この時刻になると携帯電話の着信音が鳴り響く。着信拒否をすることもこわくてできない。
その着信音は2時から丁度3時まで、何度も何度も何度も何度も何度も何度もなり続ける。
今日で丁度そのような日がはじまり、1ヶ月。精神がおかしくなってしまいそうだ。いや、すでにもうおかしくなっているのかもしれない。
気づけば朝になっていた。このようなことも稀にあり、いつも寝不足の状態だ。
会社でも寝不足のせいか、ミスが目立つようにようになっていた。上に叱られることも頻繁になっており、このままではこの会社にいさせてもらえないのではないか、そう思えてきた。
つい先日までは、もうひとつ大きな悩みがあった。それは、ストーカーだ。
毎日帰る頃になると、後ろに変な違和感をかんじた。それはアパートにつくまでずっとあり、家の中に入るとそれはなくなる。これは憶測だが、ついてきているのは小柄な子だ。
しかし、次の日から、着信はもっと頻繁に起こるようになった。一日に30回は着信があった。もう耐えられない。このままでは、無意識のうちに死んでしまうのではないか、と思うほどに狂ってしまっている。
今も携帯電話は音をならし、着信があることを告げている。
ピロリロリン♪ピロリロリン♪
!!!???
この着信音は母からのものだ。自分は母からの着信音だけ違うものにしている。
ただ、単純にうれしかった。
そうだ。はじめから母に相談していればよかったのだ。
今までそんな簡単なことも気づかなかった自分を恥じた。そして母からの着信をうけて、耳を澄ました。
「ユリコ! ユリコ・・・落ち着いて聞くのよ?、父さんが亡くなったの」
父の死を告げるときの母の声はゆっくりと、そして落ち着いていた。その言葉はゆっくりと脳に伝わり、
安堵のような、不安のような、悲しみのような、わけのわからない感情が押し寄せてきた。
母は続ける。
「夜の会社帰りだって。背後から誰かから刺されたんだって。その時携帯電話も一緒に盗まれていて、盗難目的じゃないかって。でも財布は盗まれてなくて・・・・・・・・・・・・・・・」
携帯電話がぬすまれた?昨日?では、あの大量の着信は?昨日はなにがあった?
後をつけられている感覚がなくなった?その間に父がころされた?ストーカーに?
犯人は? あの、小柄な 男?
憶測。
では、昨日のあの大量の着信は?
『・・・その時携帯電話も一緒に盗まれて、盗難目的じゃ・・・・』
あの、ストーカーは―――――
ガチャガチャガチャガチャガチャ!!!!!
扉が激しく揺すられた。
それと同時に、父の名義で着信音がなった。
呼吸は、段々と早くなり、クラッとする。
ひゅぅぅぅぅぅひゅぅぅぅぅ
うまく空気を吸うことができず、悶える。
遠のいていく、意識の中で、扉の向こうから微かな音がする。
電話をかけた時にする音。
なんなんだ。いったい。
なんで
なんで私が
私だけが
こんな目に