本気でやるつもりなのですか?
「おーい、生きてるか?」
「能登島君、臨死状態ですね」
「原因はあれかな」
「ですね」
カフェのテーブルに倒れこんでいると能登島と澤井が言いたい放題好き勝手なことを言っている。
すると遠くからハミングが聞こえてきて徐々に近づいてきた。
「能登島さんと澤井さん。深月さんは、あれ?」
「黒木さん、学祭で歌うんだって」
「えへへ、もうここまで話が回ってるんだ。少し前の曲だから覚えるのが大変で」
能登島が言う学祭とは附属のではなく京立大の学祭の話で。
毎年、バンドなどを呼んではライブをしているのだがその前座に附属の軽音楽部が出るらしく、どうしてもボーカルとして出て欲しいと頼まれたらしい。
「もしかして部屋でも練習しているの?」
「もちろんですよ。私の部屋は角部屋で少しくらい声を出しても大丈夫ですし」
「隣は深月だからクレームなんか付けないよな」
その隣の僕の部屋が恰好の練習場所になっている事を黒木さん以外は当然知らない。そして、このグループの曲は……
「黒木さん、練習するよ」
「はーい」
軽音楽部の男の子に呼ばれて黒木さんがカフェから出て行った。
「深月、そう言えばみたらしとあんこは元気なのか?」
「元気なんてモノじゃ無いですよ。僕の姿を見つけるとこの有様です」
スマホに入っている写真を掲げると能登島と澤井が覗き込んで感心している。
みたらしとあんこは僕の姿を見つけるなり身体によじ登ってくる。ローソファーで寛いでいれば甘えて擦り寄ってくる有様だ。
「で、大きな黒猫のお世話もですよね」
「…………」
お世話というかお守りに近いかもしれない。僕は何時から親猫になってしまったのだろう。
「お前の苦悩は無駄じゃないし俺と澤井にも良く分かるからな」
「実はそれだけじゃないんですよ。沙和がスタッフを連れて学祭に来るって聞かなくて。能登島と澤井にはこの意味が分かりますよね」
「僕、臨死体験しそうです」
「俺も」
トラウマと言っても過言ではない経験が僕等3人にはある。それも文化祭や学園祭と呼ばれているものに関して。
当時は運良くと言うか表に出なかったたけど、沙和がライブなどを見れば再燃しかねない。
僕はサークルにも入っていないのでフリーで能登島と澤井もアドバイザー的立場なので当日は恐らくフリーになるだろう。そんな3人が沙和に見つかれば恐ろしいことが起きるに違いないのは火を見るより明らかで。
「僕に策があります。能登島君、少し手伝って貰えますか?」
「もちろんだ。今年から阻止しなければ俺等の未来はない」
「お願いしますよ。能登島、澤井」
京立大学の学祭は附属と合同になっていて土日に行われる。
学園都市では1年の中でも最も混雑するのがこのシーズンで。来場客が多い為もあるが学祭から学祭に移動するゲストがいるからでもある。
ライブは初日の夕方から始まることになっていて。黒木さんはクラスの模擬店と前座をする為に2日目は模擬店の手伝いを免除されたと言っていた。
そして澤井の策と言うのが……
「本気でやるつもりなのですか?」
「今更、深月は自分が何を言っているのか分かっているのか」
「仕方がないですね」
大学生になってまで被り物をするとは思っても見なかった。確かに学祭では呼びこみや目立ちたがり屋たちがコスプレもどきの事をして大学構内の至る所に現れる。
「木の葉を隠すなら森の中。ギルバート・ケイス・チェスタートンのブラウン神父だな」
「能登島は白虎ですか。よく似あってますよ」
「澤井は黒ひげのコックですか。確かに居ましたね。去年は」
附属だった時は毎年のように京立大学の学祭は見に行っていて、確かに色々な格好の人が沢山居たのを思い出した。
因みにブラウン神父は推理小説の主人公である。
『賢い人は葉をどこへ隠す? 森の中だ。森がない時は、自分で森を作る。一枚の枯れ葉を隠したいと願う者は、枯れ葉の林をこしらえあげるだろう。死体を隠したいと思う者は、死体の山をこしらえてそれを隠すだろう』
僕の格好は狼男という所だろうか指が自由に使えるように手の甲には犬の足のようなカバーまで用意してあって。
尻尾までとは用意周到と言えば良いのかな。
やり過ぎな気がするが背に腹は代えられず、いざとなれば三十六計逃げるに如かずなのだろう。
連絡を取り合う為にインカムとイヤホンマイクを渡されたがこんな物まで何処で調達してきたのか。イヤホンマイクを付け狼の被り物をして準備を整えて待ち構えるしかなさそうだ。
誰かの嫌がらせなのか眼光が鋭い狼の頭があまりにリアル過ぎて子どもは疎か誰も近づいてこない。
何かのパフォーマンスの様にベンチに体を投げ出して座っていると沙和が現れた。
「エネミー出現、要注意」
「「了解」」
注意を促すと直ぐに返事が来て、沙和が構内に現れ周りが騒然としている。
スリムなブラックジーンズに黒のピンヒールを履き、襟が大きめの真っ白いシャツの胸元を派手に開け真紅のロング丈のジャケットを羽織り。
胸元には十字架が銀色の光を放っていて数人の執事とメイドを引き連れている。執事とメイドはスタッフだと言うのが容易に分かるが目立ち過ぎだ。
見守る分には監視しやすいがライブ会場には迂闊に近づけなくなってしまった。前座とは言え黒木さん達のライブは見たいのだが現状況では非常に厳しく。
遠巻きに見るしかなさそうだ。
学祭の初日をなんでこんな形で迎えなきゃならないのか。全ては沙和が今年は絶対に行くと言い出したのが事の始まりなのだが。
黒木さん達はそろそろリハーサルでもしている時間だろうか。そんな事を考えて空を流れる雲を見ているとインカムが緊急を告げた。
「逃げて! 海賊に拿捕……」
「貴様ら、良い度胸してるじゃねえか。5分以内にライブのステージ裏に来い。仲間を晒すぞ」
澤井の絶え絶えの声がプッツリと途絶え悪魔の声がイヤホンから流れてきた。
流石に澤井の最重要機密事項を暴露はしないだろうと思ったがあの悪魔ならやりかねない。
「能登島、行きますか」
「了解」
了承を取り付けて覚悟を決め立ち上がり仲間を助けるために十三階段へ一歩を踏み出す。
前日まで皆で頑張って練習を重ねてきたのにライブの前座が出来なくなってしまうかもしれない。
熱心に練習するあまりキーボード担当の女の子が体調を崩してライブのスタッフに付き添われて大学の保健センターに行ってしまった。
そして何故だか分からないけれど三枝先輩がライブを取り仕切っていて。少しだけ三枝先輩は苦手だからどうして良いのかわからない。
それは深月さん絡みで色々あったから。
「なんですって。メインのバンドが遅れるってどういう事ですの? 前の会場って仕方ありませんね。前座の軽音楽部の代表者は何処ですか?」
「は、はい。僕ですが」
「開演時間は変わりませんが演目を少し増やすことは出来ますか?」
「それは出来ますけど。実はキーボード担当が保健センターに」
盛大にため息を付いて三枝先輩が私の方に視線を向けている。そんな風に私を見られても困ってしまう
。こんな時はいつも深月さんが助けてくれたのに今はいない。
今からキーボードが出来る人を探してもライブは難しいだろう。私を誘ってくれたリーダーもキーボードなしでは無理だと行っていた。
なんでもキーボードは音楽の三要素の内のハーモニーを担っていて音の空白を埋めて滑らかな演奏をする為の重要なポジションだからって。
そしてサウンド全体を広く見る視野が必要だからとも言っていた。それなのにキーボードなしで演奏する曲を増やすのは無謀だと思うし無理がある。
ライブの為に衣装だって全身ゴスロリで統一したのに。
靴は黒でプラットフォームの足首ストラップで踵にリボンが付いていて、それに黒いニーハイを合わせ。黒のフリルミニワンピの上は胸の所に十字の紋章を際立たせたインパクトのある黒いジャケットコートで。
メタルボタンを随所に使ってジャケットの前後に入っている縦の装飾ラインがシャープなシルエットの少しハードなジャケットを着て。髪の毛も少しだけゴールドのメッシュを入れてクールに決めたのに。
「深月さんに見て欲しかったな」
「蒼空ちゃん、浮かない顔をしてどうしたんだい」
「さ、沙和さん」
聞かれたくない独り言を呟くと沙和さんに声を掛けられて驚いてしまう。
音楽部のメンバーが体調を崩してしまいライブが出来なくなってしまうかもしれない事やメインのバンドの到着が遅れていることを話すと沙和さんが思案顔をして。
『確保』と一言呟き沙和さんが急に指を鳴らすと一緒に居た執事さんとメイドさんが直ぐに動き出して黒いヒゲを生やしたコックさんを連れてきた。
「逃げて! 海賊に拿捕」
沙和さんが連行されてきたコックさんに近づくとコックさんが声を上げたけど沙和さんが何かを掴んで声を上げる。
「貴様ら、良い度胸してるじゃねえか。5分以内にライブのステージ裏に来い。仲間を晒すぞ」
「沙和さん?」
「蒼空ちゃん、ライブの責任者は何処かな?」
「三枝先輩だと思います。あそこで指示を出している」
私が教えると沙和さんが三枝先輩の所に向かい声をかけている。すると渋い顔をしていた三枝先輩が沙和さんと話しているうちに笑顔になっている。
話術が上手いというか人を取り込むのが凄いのだと思う。 三枝先輩と話をしていた沙和さんが戻ってきてバンドのメンバーを招集したから後は任せてと。
でも一度も音を合わせた事のないバンドとなんて絶対に無理。
そんな私の不安を沙和さんは満面の笑顔で吹き飛ばしてしまった。
「蒼空ちゃん。曲の構成はどうなっているの?」
「こんな感じです」
「ここをこうしてこう。で、メンバー紹介でラストがこうかな。これで時間は大丈夫だ」
「沙和さん、そのラストの曲は」
沙和さんが曲の構成を変えてしまいラストの曲は何度練習しても一度も上手く行かなかった曲で。すると沙和さんが微笑みながら私の肩に手をやった。
「大丈夫、私を信じろとは言わないけれど私が呼び寄せたメンバーの腕を信用して欲しい。それとMCは私がやるからラストの曲だけタイトルコールして」
「分かりました。沙和さんを信じます」
「リハしている時間はないから袖で待機して」
「はい!」
元気よく返事をしたものの不安でしょうがない。沙和さんが呼び寄せたと言うことは軽音楽部の人たちじゃないだろうし、どんな人達なんだろう。
するとステージの裏から声が漏れてきた。
「逃げまわるとは根性があるな。ワンミスでもしてみろ、只じゃ置かないからな。憶えておけよ」
「…………」
「これは打ち合わせじゃない命令だ。心して身体に刻め」
相手の声は聞こえなかったけれど直ぐに機器の調整を始めたみたいで舞台から楽器の音が聞こえる。
そして……開演を告げるアナウンスが終わり。
「この場でお詫びをさせて頂きたい。プログラムの軽音楽部はメンバーの体調不良で演奏が出来なくなってしまい。ピンチヒッターとして私達が前座をすることになりました。ライブも久しぶりなので乗りだけで行きたいと思う。野郎ども行くぜ! ウィーアー!」
「「「BLACK SKY with CRAZY PIRATES!!!!!!!!」」」
バンド名のコールと共にサウンドエフェクトが始まり一気に観客のテンションが上り舞台に飛び出すと同時に最初の曲が始まる。
ギターが走りドラムがビートを刻みベースが安定感を生み出してキーボードが纏め上げ凄く心地良い。
軽音楽部との練習とは全くの別次元であっという間に2曲目になって一番の歌詞が終わりMCの沙和さんによるメンバー紹介が始まった。
「ギター ナバルエンジニア 白虎!」
白い虎の被り物をした人がギターを華麗に奏でていて見惚れてしまう。
「ドラムス マスターシェフ ロック!」
黒ひげのコックさんが激しくドラムを打ち鳴らしあのスリムな体のどこからあのパワーが出てくるのだろう。
「ベース クォーターマスター ルフト ヴォルフ!」
狼の被り物をしている人に見入ってしまう。
落ち着くというかまるで恋に落ちそうな感覚で再びドラムがなって我に返った。
「キーボード」
「「「キャプテン くれは!」」」
男の人達の声とともに沙和さんの荒々しいけれど綺麗なグリッサンドが響きわたる。
「そして我らがボーカル」
「「「princess CIELO!」」」
2番の歌詞を歌い始めると観客のボルテージも上がっていく。少しスローなテンポの曲になるとバンドメンバーを見る余裕が出てきた。
沙和さんは女海賊のような出で立ちで豪快にキーボードを操りCRAZY PIRATESと言う即興のバンド名も頷ける。
虎と狼の屈強だけど繊細なギターとベース。
黒ひげにサングラスの華奢なコックが打ち鳴らすドラム。
そしてゴスロリのお姫様。
一見アンバランスなのに不思議な一体感があり、ついさっき集められたバンドなんて誰も思わないだろう。
その証拠が観客の異常な盛り上がりだと思うしこれが前座だなんて。沙和さんのMCが始まり一息付けた。
観客を沸かせながら飽きさせないトークは凄いと思うけれどバンドを組んでいたことがあるのだろうか。今度聞いてみよう。
袖に目をやると軽音楽部の面々がその中には元気になったキーボード担当の女の子もいて瞳を輝かせている。MCが終わり沙和さんの曲紹介でバラードを歌い始める。
アップテンポのノリがいい曲では誤魔化せてもバラードでは力量が出てしまう。
それはボーカルを担当している私にも言えることで。軽音楽部と練習していた時は一度もなかったのに涙が溢れ出してくる。
気が付くと観客の中にも泣いている女の人もいて。
「ごめんなさい、感極まって泣いちゃいました。それでは最後の曲になります。聞いてください。In The WORLD」
この曲はいくら練習しても上手く出来なくてリストから外したもので。ギターとベースのコーラスで始まりドラムスのボイスが加わり歌が始まる。
軽音楽部の知り合いのバンドに聞いても口を揃えたように無謀過ぎると言われ私も大好きな歌なのに諦めてしまった。
キーボードの静かな旋律で曲が始まり鳥肌が立った。
何処までも澄んでいて全く澱みがないギターとベースのコーラスは力強ささえ感じ飲み込まれそうになってしまう。
ドラムスのボイスと共に『蒼空』と呼ばれた気がして歌い始めることが出来た。
前座にアンコールなんて有り得ない。
ボルテージが上がっている観客からはコールが絶え間なく聞こえるが一礼をして袖に下がり軽音楽部のメンバーに声を掛けられ感動を分かち合っていると。
反対側の袖からバンドのメンバーが沙和さんと共に帰ろうとしていて。
沙和さんが両手を口元に当てて投げキッスで挨拶してくれて軽音楽部と共にお礼も言えず頭を下げることしか出来なかった。
「見に来てくれたんですか?」
「行かない理由は無いですよ。流石に最前列とはいきませんから。ステージからは見えなかっただけだと思いますよ」
「深月さん、ごめんなさい。もう無理ぽいです」
私が笑い出すと能登島さんと澤井さんもお腹を抱えて笑い出してしまった。
ここは沙和さんのお店Re-BARでライブの打ち上げと言う名目の飲み会が始まっていて。なんの罰ゲームか知らないけれど深月さんがメイド服を着て給仕をしている。
そんな姿で普段通りの丁寧な言葉づかいで話されたら我慢も限界を超えてしまう。
「真白ちゃーん。お願い」
「畏まりました」
普段からテンションが低い深月さんだけど今は更に低い。
「でも、あれでメイクをしてカツラをつけたら凄く綺麗なメイドさんになりそう」
「中身はボクサーパンツ姿の男だけどね」
「能登島さん言い過ぎですよ」
ふわふわのパニエの下がボクサーパンツなんて有り得ない。だけど男の人なら当然なんだろうな。
「蒼空ちゃん。楽しんでる?」
「はい、沙和さん。今日は有難うございました。深月さんは何の罰ゲームなんですか?」
「誰が141歳のババアに見えるんだろうな」
沙和さんが訳の理解らないことを言うと能登島さんと澤井さんの様子が余所余所しいというか。
そもそも2人は沙和さんと面識があるのだろうか。
「能登島さん達は沙和さんと知り合いなんですか?」
「まぁ、深月とは切っても切れないものだからな。色々と世話にもなっているし」
「そうですね。巻き込まれることの方が多いですけどね」
なんだかはっきりしないと言うか有耶無耶にされて何かを誤魔化されている気がしなくもない。突っ込んだ話をしても深月さんの様にはぐらかされてしまいそうだ。
それならば純粋に疑問に思ったことを聞いてみよう。
「白虎が四神なのは知っているけれどナバルエンジニアって何か知っていますか?」
「軍艦の機関士と言う意味じゃないかな。クオーターマスターは操舵手と言う意味だと」
「それでパイレーツなんだ。総料理長は海賊船のコックさんか。それじゃ狼さんの名前は?」
能登島さんが困った様な顔をすると澤井さんが助け舟を出した。
「ルフト ヴォルフと言うのはドイツ語で英訳するとエアーウルフと言う意味です。昔、アメリカのテレビドラマに登場する超音速攻撃ヘリの名前ですね。空の小型要塞と言われるほど無敵のヘリですが実際には有り得ない乗り物です」
「詳しいんですね」
「黒木さんは僕の事を知っていますよね。その兼ね合いと言うか男なら誰しもが持つ憧れみたいな感じです」
男の子の憧れと言われてしまえば女の子が出る幕は無くなってしまう。
女の子が可愛い物や綺麗なものに憧れるように男の子は強いものや格好いい物に憧れを抱くのは当然なんだろう。
ファントムバイブレーションシンドロームかと思っていたけれどスマホを取り出すと大変な事になっていた。
「結衣、本当にゴメン」
「親友に裏切られた気持ちが蒼空に分かるかな」
「はい、百田さん。ジャスミンティー」
「ありがとうございます。深月さん」
深月さんが持ってきてくれたお茶を飲んで結衣が一息付いている。因みに深月さんは普段着に着替えて。
私が結衣にコールバックすると暴発した花火のように話しだしRe-BARに皆で居ると言ったら物凄い勢いで現れた。
「ライブ大成功だったんだって」
「う、うん。色々あったけどね」
「それも聞いた。前座が盛り上げすぎてメインのUnion Jackが霞んでたというか海賊に襲われたって。凄い事になっているの知ってる?」
今更ながら冷や汗が出てきそうだ。なんでもユニオンジャックのジャックには船の舳先につける船首旗という意味があり。
正しく海賊に襲われた船ということらしい。
「動画サイトだって再生回数が」
「その件なんですが。あれが原因かと思います」
Re-BARには大きなモニターがあり普段は季節にあった動画を流しているが今日はライブの映像が流されていて。
鮮明な画像から分かるように沙和がスタッフに撮らせた事が簡単に分かり。同時にネットで配信しているらしい。
「マッチポンプですね」
「澤井さん、マッチポンプって自分で火を付けて自分で消すというあれですか?」
「沙和の場合は放火ですね。火を付けて煽るだけ煽って自然鎮火を待つんだと思いますよ」
「でも、話題になったらまたライブしたいな」
結衣がモニターを見に行ってしまい私がもう一度みたいな事を言うと能登島さんと澤井さんに深月さんまで項垂れてしまった。
私の所為じゃないよね……
「能登島と澤井は途中で抜けても構いませんよ」
「大丈夫だよな、澤井」
「ええ、今日、僕達は特に活躍してませんからね。店の片付けまで手伝いますよ」
3人で拳を付きあわせているけれど盛大に溜息を付いている。