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43. 守護者 3

ちょい更新遅くなりました。ごめんなさい。

長くなったので、分割。次回更新は早いうちにー




シンは――怒ってはいなかった。

単に、静かに私とイザークをみているだけ。


よ、余計怖いよ。


周知の通りと言うか、バレバレというか、恋愛感情かどうかは置いておいて「レミリア」と私はたぶん、好みが一緒で、シンがカッコイイなぁ、仲良くなりたいなー……と思っているんだけど、シンにとっては、どうなんだろう?

特別に好かれているとは思わないけど、話に出されるのも嫌だ、とか思われたりするのだろうか。


何せ、フランチェスカ一筋の一途で意固地な人物だからな。せっかく仲良くなった(気がする)のに、私が主導したわけでもない婚約問題で嫌われたら悲しい……。


シンは私達の目線まで彼の飛龍を降ろして、私に「はい」と手を差し述べた。私は目を丸くする。


「俺のアルにも乗る?――飛ぼうよ、せっかくなら」

「……空をですか?」

竜族(おれ)と一緒なら、危なくないよ――嫌?俺は、信用ならない?」

「スタニスが駄目だって言ってたろ」


イザークがシンを制止しようとする。

シンは表情を消して、私たちを観察するみたいに見た。


「……イザークだからだろ?」

「……シン!」


イザークが珍しく声に不快を乗せた。シンは感情を乗せないまま、言葉を続けた。


「レミリアが行かないなら、一人で行くから、いい」


私はちらり、と中庭の反対側にいるスタニスを見た。シンの手を取ったら、心配するだろう。


けど、と私はシンに視線を移す。

彼の左目が――金色がいつもより、鈍く光っていて、なんだか傷ついているみたいに見える。

私に何か話したい事があるのかな。誰にも聞かれない、空の上で。


それに、私が断ったせいで、シンが『おさんぽ』に行くのも困る……。


スタニスに心配をかけるのと、シンが家出するのを見逃して、陛下の不興を買うのと、どちらがいいかな。私は天秤にかけて考え込む。


「……いいですけれど、すぐに戻ってくださいます?あまり、皆に心配かけたくないので」


シンはうん、と頷く。私はイザークに囁いた。


「スタニスに伝えて。追って来ないでねって。すぐに戻るから信用してね、って」

イザークは困ったみたいに私をみたけど、最終的には、いいよ、と請け負ってくれた。


「十五分超えたら、追うから」


イザークの言葉を聞きながら、私はシンの手を取った。

シンは私を支えながら、飛龍で瞬く間に空にあがった。無言で凄い速度で上空へ駆け上がりながらも、ドラゴンは少しもぶれない。


「……高いところ、怖くないの」


中庭が遠くなったところでシンは、ぽつりと言った。

私は中庭を、眼下に見下ろす。


「この前の旅の帰路で慣れました。高いところ、平気みたいですわ」

「変なの。大体皆いやがるのに」


お嬢さんは変な奴だな、と竜族のイェンにも言われた事を思い出す。

私の場合、高いところ、の記憶が他の子供よりも沢山あるからだよ。別に精神が太いわけでもない。


ナントカは高いところが……と言う俗説はカルディナにもあるかな、などと考えながら彼の名を呼ぶ。



「シン様」

「なに?」


私をうつす、色違いの紫と金色の瞳。「レミリア」は彼の瞳をアメトリンのようだ、といつも思っていたっけ。

その瞳に今浮かぶ感情は、「不満」、かな。


「お話は何でしょう?」


私は後ろに視線を向けた。


シンはちょっと言いよどんで、息を吐いた。瞬きを繰り返すと……段々と彼から不機嫌の色が褪せていた。


「いつ聞いたの、その話」

「その話」

「レミリアと俺が婚約とかって」


明らかに不満気だなぁ…。


「昨夜、父が言っていましたわ。シン様は?」

シンは「レミリアの屋敷に遊びに行った日の夜」と教えてくれた。


シンは口元をへの字に曲げた。


「ユンカーが言ってた。丁度よい縁組みだ、って。陛下も言うんだ。悪くない取り合わせだ、って――。丁度(・・)って、なに?」

シンは、唇を噛み締めた。


「俺がどうしたいか、をなんで周りが決めるの?――半竜族と公爵家の娘なら釣り合うって」


シンが手綱をとる手が強張った。


「俺は、掛け合わせのために――王都に来たわけじゃ、ないのに」


悔しそうに過激な発言をされて、私はちょっとびっくりした。

掛け合わせ…。

黙ってしまったシンを、私だけでなく、飛龍も首を動かして主を見ようとしている。私は手を伸ばしてよしよし、と撫でる。飛龍は気持ちよさげに目を瞬いた。


「……シン様は、どうして王都に来たんですか?」


無理矢理、連れてこられたわけでもなさそうだ。

散歩して、魔女たちのところに逃げる事も出来るのに、いつも帰ってくるし。やっぱり、フランチェスカが好きだからなのかなぁ。

シンはぽつり、と言った。


「タニアが……、母さんが言ったんだ。母さんが死んだらベアトリスが寂しがるから、側にいてあげなさい、って。……ベアトリスは寂しがり屋だから、守ってあげて、って」


意外な言葉に私は思わず後ろを振り返った。寂しがり……!陛下が?


「だから俺は、来たんだ。ベアトリスの側にいて、ベアトリスとフランを守るために。……でも、ベアトリスは…違うのかな、俺なんか、いらなかったのかな。単に、便利な道具だから欲しかったのかな……」


確かに、そんな側面もあるだろうけど。陛下はシンを大事にしていると思う。


「……私は、わかりません……私は、陛下じゃないから……」


私は正直な感想を口にする。シンはだよね、と少し口の端を歪めた。私は言葉を続けた。


「けれど、陛下がシン様を見るお顔は、……凄く優しいと思います……要らない人にあんな表情、絶対しないと、思います」

シンはちょっと笑った、だといいな、と言ってまた旋回をはじめる。


「レミリアは、嫌だとか思わないの。勝手にそんな話をされて……貴族はそれが、普通だから、平気なの?」


シンは拗ねている。

大好きなベアトリス陛下に、道具だと思われているのでは、と疑っているから。そして、私に共感してほしいのだ、多分。


(でも、それって、私が婚約を嫌がってる、って前提じゃない?……シンが婚約を嫌なように、私も嫌だろう…って)


「……よくある話ではありますね」

「貴族は、変だよ。俺は、自分の側にいる相手くらい、自分で決められるよ……」


シンの視線が、中庭へ向けられる。いつのまにか来たらしいフランチェスカ王女が、私達を見上げていた。


(側にいたい相手、かぁ)


シンの気持ちはダダ漏れである。

私は無表情を敢えてつくりながら、内心……拗ねてみた。シンより、私の方が拗ねていいと思う。


つくづく、私、人気ないな。


私が護衛にしたいっ!て頼んだわけでもないのに、アレクサンデルには予防線はられて無視されかけるし、婚約するとも言っていないし、ましてや告白をしたわけでもないのにシンには遠回しにふられるし!


君達は、そんなに私が嫌かね。

フランチェスカの事は取り合うくせにね!嫉妬。

むぅ、と内心でむくれていると、シンがどうかした?と聞いてくる。


いいえ、と答えて私は前を向いた。


「私の父が言っていましたわ。貴族の婚姻話なんて、天候と同じくらい変わりやすいものだから、本気にとるなって……」

「お天気……」

「それに、五人です」

「五人?」


いきなり、人数を言われて、シンが首を傾げた。


「父が持ち帰った、私の婚約者候補の絵姿」


シンがぽかん、と口を開けた。

どうだ、凄いでしょう!


なんとか伯爵の孫、候爵、大臣の息子、それからあとはなんだっけ。上は三十から下は八つまで。


公爵令嬢(わたし)は書類上は、とってもモテるらしいのである。

むなしいことに…。ヘンリクだって候補だしさ。


「そんなにいるの?」

「シン様だけじゃありませんわ。私の婚約者候補。とっても沢山あるお話ですの!……ですから、あまり、本気にとって、おきに、なさらず」


私はつん、と横を向いてみた。

シンと婚約、楽しそうだなぁと、内心、思ったけれど……。シンにとっては「王宮で強要される嫌なこと」のひとつに過ぎないんだなぁ、とはっきりわかってちょっと悲しい。

けど、きっと現実に「私とシンが婚約」になったら、辛いのはシンよりも私だろう。


だって、シンが誰を好きかなんて、わかりきってる事だもの。


政略結婚が嫌だとか、そんなことはわからない。真摯な愛情がなくたって、我慢できるかもしれない。

でも、結婚相手の「一番優先すべき女性」が正妻(じぶん)ではなかったら……きっと、毎日が惨めで仕方ないと思う……。


「安心なさってください、私、シン様とは婚約しませんから」


私の口調が拗ねているので、シンは「あ!」と小さく声を漏らした。ようやく、失礼な事を言っていたと気付いたらしいシンは私から視線をずらして、ぼそっと言った。


「……レミリアが嫌なわけじゃ、ないよ。誰とでも、嫌なだけで」

「家出しようとしたじゃないですか」

「……家出じゃないよ、散歩だよ」 


同じだと思いますけどね!

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