ヒトと竜 1
久しぶりです。
「恨みますよ!恨みますからね!レミリアさまあああああああ!!」
「終わらない。本当に終わらない……!」
「あの伯爵令嬢……、サイズが……変わった……、許せない……今から城の周りを走ってこいっってんだよお」
修羅場である。
「み、皆さんお疲れ……」
私が差し入れを持って公爵家の離れに顔を出すと、そこはお針子の皆様の怨念が渦巻いていた。
王太子フランチェスカの立太子の儀式まであともう少し、私も色々とやることがあるんだけど無理を言ってお願いした手前、お針子の皆さんの前に顔を出さないわけにはいかない。
私が顔を出すと、お針子隊の隊長さん(と私はこっそり呼んでいる)はボロボロの身体でやってきた。
「ご心配なく、レミリア様…、あと少しで……揃いますからっ……」
「う、うん、お願い。衣装合わせは明日の午後だけど……だ、大丈夫?」
隊長さんは時計を見て、次に衣装を見て、私に向かってゆっくり親指を立てた。
泣きながら。
ごめん。ごめんってば。
衣装はなんとかなりそうなので、私は部屋に戻ってもう一度フランチェスカの立太子の儀式から、竜族の皆様の滞在スケジュールをおさらいしていた。
全部、私が管理する……って言うわけではない。
けれど頭に入れることはいれて、フランチェスカの立太子の儀が無事に終わればいいな、と思う。
午後には宮殿にスタニスと赴いて、竜族に対する禁忌なんかを色々近衛隊の人々と確認してみたり。
近衛隊の隊長さんはボソリと「このまま近衛隊に就職してもかまわんぞ、サウレ」と勧誘したが、スタニスは丁重に断っていた。
「スタニスが本当にやりたいんなら、王宮勤めも多分、父上は止めないと思うけどなあ」
私もね、もちろん。
廊下を歩きながら私が言うと、スタニスは苦笑した。
「王宮に便利に使われるのは嫌ですよ。……私はヴァザの、というよりレミリア様達のおそばにいるのが一番ようございます……と言ってもお嬢様が立派になられて、私の出番はそろそろ無さそうですね」
「またまた!」
「本当ですよ。ご立派になられて。子供の成長って早いよなあ、と」
スタニスがお爺ちゃんみたいなこと言ってる。
私がアハハと笑った前を歩いていた騎士が小さく噴き出した。
「ロラン卿、失礼だな?」
「……申し訳ございません、私の祖父がサウレ様と同じことを言っていたので」
「何がいいたい?ん?」
「勘弁してくださいよ!」
ロラン卿はフランチェスカの護衛としてよく見かける若い近衛騎士だ。
わたしにもなんとなく好意的なので話しやすい。
確か、出身は北部の伯爵家で、バリバリの王家派閥だったろうけど。
式典を前に、若い世代は比較的皆、華やいでいる気がする。
騎士も令嬢も使用人達も、フランチェスカが正式に王太子になるのを……新しい時代の到来を予期して、胸がざわつくのだろう。
明るい未来がなんとなく来るような気がするもの。
「レミリア様。妹が喜んでおりました。……素晴らしいドレスを着られるとか?」
ロラン卿の妹君も、竜族達の饗応役の一人だ。
私はぱっと笑顔になった。
「ええ!楽しみにしていてね。妹さん、すごく綺麗だったから!」
ロラン卿は微笑んだ。
「妹もですが、レミリア様のお姿も楽しみです。私ともどうか踊ってください」
……もちろん喜んで、といいそうになった瞬間に、ロラン卿が派手に転けてた。
「スタニス……」
「100年早い」
過保護だなあ。
苦笑しつつロラン卿は、私をフランチェスカの部屋の前まで案内してくれていた。
「スタニスにバレないように、こっそり誘ってね、ロラン卿」
「イテテ、……そうします」
私がノックしようとすると、顔馴染みのフランチェスカ付きの侍従がこまったように扉の前の出てきた。
「……レミリア様」
「どうしたの?」
「実はその……、お約束のない先客がいらっしゃっておりまして、一度出直していただいた方が……」
この人にしては随分、歯切れが悪い。
何か、よくない感じがするな。出直すわ、といいかけた瞬間、扉が開いた。
「ああっ!帰らなくてもいいじゃないか。愛しの我が姪御どの!」
ここが舞台で、彼は主演男優か、というような芝居がかったセリフだった。
美しい水色の瞳は、混じり気なしの硝子を思わせる。空虚で、脆い色だ。
私は咄嗟に笑顔を忘れて、スタニスは表情を固くした。
「シュタインブルク侯爵……」
オルガの夫。
ヴァザの一族のひとり。
……どこか危うい影のある人。
私が名を呼ぶと、彼は部屋の主人でもないのに、私を王太子の部屋に招き入れた。
「みんなで話をしようよ。……、いい茶が入ったんだ」
とりあえず、月一は投稿します〜。




