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思案 4   

 伯母上が「行方不明」になってから二か月がたった。

 王都は華やいでいる。なんせフランチェスカの立太子の宴が近いからだ。


 カルディナの王家と竜族の間には、一つの約束事がある。

 皇太子を定める式典には必ず竜族の長かその近しい血縁者が参加し、寿ぎにくる、というものだ。

 かつてヴァザの動乱期、王家が数年単位で王が代替わりをしていた時期を除いては、竜族は立太子の儀に律儀に訪れていた、というから驚く。


『竜の血を引く神の一族』

 それがヴァザの誇りだったわけだし、私たちヴァザが竜族に縋るのは仕方ないにしてもヴァザが滅んだいま、ウォルト王家――フランチェスカ達がそれを尊ぶのは私にはいささか奇異にも思える。

 ベアトリス女王はたしかにヴァザの血筋だけど黒髪に紫の瞳でヴァザの特徴はまったくない。そして彼女が主君として評価されたのはヴァザの血筋だからではなく、彼女の主君としての資質がすぐれていて、国を安定に導いたからなのだし……フランチェスカも、ヴァザの血筋だなんてことは忘れて竜族を放置してもいいんじゃないだろうか……。

 でも、仕方がないのかなあ。カルディナの国教では竜は神様だし、錦の御旗みたいなものだ。

 竜族が来ないとなれば神に見放された王太子だと軍部に陰口をたたかれるものね。


「殿下は中にいらっしゃるかしら?」

「はい、お嬢様」


 カミラを従えて私がフランチェスカの温室に赴くと、フランチェスカ付の近衛騎士は姿勢をただして敬礼した。

 近衛騎士たちの私に対する態度はおおむね礼儀正しい。

 フランチェスカが私に好意的にふるまってくれているから、というのもあるだろうけど……。どうやら近衛騎士たちは私を「フランチェスカの味方だ」と認識しているらしい。


 味方。かなあ?利害は一致すると思うんだけど。


 フランチェスカ・ウォルト・カルディナは温室にいて、袖をまくって植物に水をやっていた。

 なんだかほほえましい光景ではあるが――


「その格好で土いじりなんて、お召し物が汚れると思いますけど、殿下!」

「マリアンヌもレミリアもおなじ小言を言うんだな。最近ふたりは似てきていないか?」


 私が挨拶もそこそこに声をかけると、フランチェスカは肩を竦めた。

 さすがに今のフランチェスカを見ても昔みたいなまるで男の子みたい、なんて思わない。

 彫像のように美しい王女は飾り気のない服に身を包んでもなお光り輝くようだ。


「長い付き合いになりましたから、似て来るかもしれませんね。そもそも洗うのは殿下じゃないんですから、汚すのはよくないと思います」


 私が肩を竦めると背後でフランチェスカ付の年配の侍女がくすりと笑い茶器を用意してくれた。

 立太子の饗応役の打ち合わせで私はここ最近フランチェスカの元をよく訪問している。

 竜族の一行が王都に滞在するのは十日ほど。

 私が応対するの何て前半の五日間くらいだけど……、気持ちよく過ごしてほしいじゃない?お客様には。


「気を付けるよ!……ところで、王都ではおもしろい演劇をやっているんだって?」

「ええ、オルガ伯母上の劇団が上演している演目が人気なんです。伯母上が不在で不安な中、みんな懸命に演じてくれています」


 竜族の若者が、王都の美しい姫と恋に落ちる話なんだけど若い娘を中心に大人気である。

 脚本はエミール・ハイトマンだけど企画立案は私だ。ちなみに企画立案しただけで仔細はもちろんオルガ伯母上が全部決めている。私は伝書鳩のように劇団の皆様に伝えただけ。

 いやー、流行すると思ったんだよね、異種婚姻譚。

 みんな竜族大好きだし、なんなら無料で若い娘たちばかりを招待する日を作ったりして、劇団の評判も劇の評判もうなぎのぼり。

 タイミングよく竜族の長の訪問も近いし、フランチェスカとヒロインを重ね合わせて、王都では空前のフランチェスカブームだ。


 ここ最近、反王家派の新聞各紙は王女への讒言で紙面をにぎわせていたが、そこは私がどうこうできる分野ではないので、放置する。王女への讒言も絵空事なら、より楽しい絵空事をぶつけて曖昧にしてしまえばいいんじゃないかな。


「竜族と恋に落ちる姫、か――憧れるね」


 どこか自嘲するようなフランチェスカの横顔は憂えて、大人びている。


「殿下でも?道ならぬ恋に憧れますか?」

「もちろん!責任も何もかも忘れさせてくれるような色男に攫って逃げてほしいと思うけど……私には向かないな、駆け落ちした先からやり残した仕事が気になって、不眠症になりそうだ。私は恋には向いていない、臆病すぎて!」

「それは生真面目、っていうんだと思いますよ。フランチェスカ殿下」

「レミリアは?」

「ううん……素敵な殿方には憧れますが、王都が好きすぎて……遠くに嫁ぎたくないなあ」

「あはは、遠くに領地がある貴族連中はその言葉を聞いたらがっかりするね」


 私は苦笑しつつ饗応の計画をいろいろと告げた。

 フランチェスカによばれて王宮の侍従長も私たちの会合に顔を出す。竜族が好みそうな料理についてはドミニク・キルヒナ―を窓口にしてそろえてもらう。


「異物が混入しないように、公爵家からも人をだしますが、王宮側からも同じ人数を頼めますか?」

「もちろんです、お嬢様」


 毒が入っていようがなんだろうが、何喰ってもやつらは死にませんよ、とスタニスは呆れ気味に言ったがそういう問題ではない。たぶん渋々来るであろう竜族の長を怒らせないように、十日の間おとなしくして置いてもらわねばならないのだから私も必死なんである。


 フランチェスカは基本的に忙しいので、王女の側近と私が打ち合わせをして、彼女はそれを承認するという形で計画を共有しているがおおむね彼女は寛大な依頼主だった。


「レミリアは物知りだな……よくこんな楽しそうな接待をおもいつく!」

「伊達にこの数年、王都で遊んでおりません……呆れました?」

「いいや、素直に感心している。楽しみだな」


 フランチェスカが微笑んだところで温室の扉が開いた。


「――なんだか楽しそうだな」


 王宮に似つかわしくないずいぶんとラフな格好で現れたのは、半竜族の貴公子、シンだった。


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