長雨 9
たいへん短くて御免なさい…!
次回はちょっと長めに更新します。
シンとイェンが竜族の里へと向かって数日間。
ヴィンセントとイザークたちは任務に戻り、私とカミラ、スタニスの三人は当初の予定どおり堤防の修繕を地元の名士たちに依頼して、ヴァザ邸にとんぼ返りすることになった。
ヴィンセントがこっそり私に耳打ちする。
「王都に戻ったら、少し頼みごとがあるんだけれど。手紙を書いていい?」
「それはいつでも!……忙しかったりするんじゃないの?」
ヴィンセントは、そこそこね。と微笑む。
イザークもヴィンセントも近衛騎士の隊服に身を包んでいると別人みたいに大人びて見えるね。
しかしーーメルジェの付近では家を失った人々も百人単位でいるので、復興は少々時間がかかりそう。
これ以上長雨が続かないといいんだけれど。
「私から母上に頼んでみるわ。どこか手近な避難所がないかしら、ってーー国教会の施設に空きがあるでしょうし」
シルヴィアが意外な申し出をしてくれたので私は若干ーーどころでなく、驚いた。カタジーナとシルヴィアは不仲なはずだ。
はずだった。
こういう協力をするとは、驚きだ……。
「母は民衆にいい顔をして讃えられるのは大好きだもの。喜んでやるわよ。利用しない手はないわ!……それにあの人も意外に年だしーー少し労ってあげようかと」
シルヴィアが笑顔で言うので、私とスタニスは彼女が去った後で、互いに顔を見合わせた。
「意外な言葉だね……」
「たしかに、カタジーナ様もいいお年ですから……、シルヴィア様がいたわろうとしてもおかしくはないですが……ううん……」
シルヴィアとカタジーナが今更仲良くなる、なんてことがあるのかなあ?
しかし、現地に協力者がいるのはありがたい。
私たちはドミニクからドラゴンを借りて、王都への帰途についた。
「そういえば、スタニスって竜族の里に行ったことがあるんだね?どんなところ?」
興味本位で聞けば、スタニスは首を傾げた。
どうやら軍人時代に北で転戦していたときにーー紆余曲折あって竜族と諍いを起こして、そのまま捕らえられたらしい。
「スタニスがグレてた頃の話?」
「……グレ……まあ、多少血気さかんな頃ですね。若かったですし。なので捕らえられた場所しか知らないので、観光をし損ねました……あの時は確か、イェンに助けてもらったんですが」
私は驚くほど綺麗な顔の竜族の長を思い出した。
キリッとした感じの彫刻みたいに綺麗なヒトだったけど……イェンのことを好きすぎないかなー
「モテるよねえ、イェン様。シア様もだけど、シルヴィア姉様ともすごーーーく楽しそうだったわ!」
虚空を見つめていたドミニクを思い出して私も遠い目になった。
「……シルヴィア様も、趣味が悪い。……さすがにシアは憧れの範疇でしょうが」
「そうなの?」
「竜族の里からほぼ出たことがない、純粋培養みたいですから。フラフラしている師匠が羨ましいんでしょう、たぶん」
そうだね、と私は頷いた。
確かに自由に生きるイェンには私も少し憧れる。
フラフラしていたイェンは、探し物を見つけた、と言っていた。
じゃあーーこれからはずっと竜族の里にいるんだろうか?なんだか楽しそうだけど、いつもにまして寂しそうだったのは、なんだったんだろう……。
私はお守り代わりにしている心臓石をギュッと握った。
心臓石がどう言うものかをーー理解しろ。
シアが言っていた忠告を思い出す。
綺麗な宝石でお守りだとばかり思っていたけどどんな効能があるのか調べてみよう。
王都に戻り…………。
しばらくは大人しく復興の算段をしようかなあと思っていた矢先、私は意外な人物から手紙が届いている、と知らされた。
領地の穀物残高票とにらめっこしていたわたしは、差出人をみて思わず声を上げた。
「どうして私がお手紙をいただくの?」
「それが……なぜでしょうね?旦那様ではなく……!」
ーー珍しくスタニスが動揺している。
差出された白い手紙には、王家の紋章が透かし彫りされている。
しかし、フランチェスカ王女からの手紙ではないーーー。
ベアトリス女王陛下からの、私への「私的な」茶会への招きだった。
なんだか、厄介ごとの予感がする………。




